第4部 杜王町を離れるまで 前編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なまえさん、お化粧したんですか?とても似合ってます。綺麗ですね。」
「本当だ。ママ、綺麗。」
みんなの元に戻ると、初流乃がいち早くリップに気づいて完璧な感想をくれた。やはり、侮れない。
「ありがとう、2人とも。」と感謝を述べ、気づく。典親が、興味津々に私を見つめている事を。
「どうしたの?典親。」
「…んーん。なんでもない。」
なんでもないとは言うが、その表情はなんでもないとは思えない。
「もしかして、化粧か、化粧品に興味があるのか?」
露伴が典親にそう問うと、典親は少し迷ったような素振りを見せたあと、一度小さく頷いてみせた。そうか、そういう事か。
「露伴先生も、たまにしてるでしょ?」
「あぁ、よく分かったな。」
驚いた。私がしている気がする、と思っていたくらいなのに、典親はしっかり気がついていたなんて。
「化粧はする方に興味があるのか?それとも人にしてみたいとか?」
「んー、分かんない。」
分からなくて当然だ。今まで聖子さんがお化粧するのしか見たことはないはず。身近なものではなかったのだから。
「なまえさん。典親に色々教えてやってもいいか?」
「!うん、もちろん。」
私や典明では、お化粧に興味があるなんて気が付かなかっただろう。本当、露伴の観察眼には驚かされる。
そうと決まれば、SPW財団に頼んで化粧品を用意してもらおう。
「あ。典明、そういえば、問題が起きたんだった。」
先ほどの大騒ぎで忘れていたが、典明に話すのを忘れていた事を思い出した。
携帯電話片手に部屋を移動して、典明に今日あった事、承太郎との電話の話を話すと彼もため息をついて頭を抱えていた。
「承太郎、いくらなんでも徐倫を放置しすぎじゃあないか?」
「その割には、溺愛はしてるようだけど。」
承太郎が距離を置いているその意図は分かるが、さじ加減がおかしいのだ。私だって典親とは距離を置いて暮らしているが、こうして年に何度かは顔を合わせて家族の時間を作っているのだ。
「なんにしても、近いうちに一度、アメリカに行かなきゃ。」
「…君はいつも、忙しいな。」
「本当だよ!典明とゆっくり過ごしたいのに!」
個展に出す"Tenmei"の合作も完成して時間ができたと思っていたのに。典明の命日があって、アメリカまで徐倫に会いに行って、初流乃をSPW財団に連れて行って…と考えたところで頭を抱えた。個展は4月だが、その間にSPW財団のスタンド関連の仕事が入る可能性だって大いにあるのだ。
「いつもがんばって、偉いね、なまえ。」
ちゅ、とおでこにキスをされると、不思議と頭痛も不安も吹き飛んで行った気がする。王子様な上に魔法使いだ、典明は。
「もしもし、みょうじです。…あぁ、はい。承太郎の件ですね。」
典明の胸にもたれ掛かりながらSPW財団へ電話をかけると、典明は優しく「ふ…」と微笑んで頬や頭を撫でてくれた。優しい、落ち着く、好き。
「アメリカ行きは…そうですね、今ちょっと立て込んでて。なるべく早く行くようにはします。…はい、それに関しては近いうちにもう一度ご連絡します。…それで、それとは別にひとつお願いが…。」
忘れないうちに、典親のための化粧品の手配をお願いした。私情なので代金は支払うと言ったのだが「サンプル品や試供品なので」と断られてしまった。SPW財団はいつもこうだ。私達がスタンド使いであるというだけで、あれやこれやと特別待遇してくれる。それも強引に。DIOを倒してくれた私達に感謝しているからだと言っているが、こちらとしてはあまりの待遇の良さに申し訳ない気持ちも湧いてくるのだ。だから、なにかお返しができないかと頑張れるのだが。
「いつも、ありがとうございます。感謝してます。」
最後に丁寧に感謝の言葉を述べてから電話を切り、典明の背に腕を回した。仕事の電話は、気を遣って話すので疲れる。
「典明〜。癒される〜。」
顔を押し付けてムニムニとした彼の胸の感触を堪能していたら「…変態。」と指摘された。まさかとは思ったが、やっぱりバレてる。
「ねぇ、触ってもいい?」
「ダメだ。誰かに見られたら、どう言い訳するんだ?」
「んー、あまりにもいい筋肉だったから、つい?」
「……。」
無言になった典明は困惑したような表情を浮かべていて、今のは読めなかったのか、と冷静に思った。
「…それでもダメだ。…杜王町に帰ったら、いくらでも。」
「ほんと!?」
魅惑の言葉を聞いてバッと顔を上げると、典明の驚いたような顔と目が合って「…えっち。」と一瞬妖艶な笑みを浮かべるので心臓がドキリと音を立てた。本当、典明はかっこいいもかわいいも儚さも美しさも、妖艶さまでも、全てを兼ね備えている!完璧!!
その夜、露伴の布団の横に布団を敷く私を見て初流乃が「したんですね、仲直り。」と言うので露伴に軽く睨まれた。「うん。心配だった?」と聞くと「いや、全然。」と意外な答えが返ってきたが、そもそも私は怒ってなどいなかったのを、初流乃は知っていたからだと理解した。
「なまえさんを怒らせたら怖そうですね、露伴先生。」
「あぁ、花京院さんが泣くレベルだぜ。」
「えっママ、パパを泣かせたの?」
「ちょっと、露伴?」
露伴の一言で、話がおかしな方向に行っている気がするのだが?
「その話はあんまりしてほしくないんだが…。」
「露伴!典明が嫌がってる!」
「君は小学生か。」
私としてもその話はあまりしてほしくない。私達には必要な過程ではあったが、それを話すと、私のイメージが…!
「その後なんやかんやあって、なまえさん、承太郎さんの骨を折ってたよな。」
「えっ承太郎さんの…!?」
「ねぇその言い方は悪意しかないよね?」
余計な事をペラペラと…!典親は承太郎のファンなのだ。そんな事したと分かったら、私を見る目が変わってしまうじゃないか!
「典明…露伴が意地悪…!」
露伴には典明で対抗するのがいい。典明の腕の中に収まると、守られている気になって安心した。
「ふ…。よしよし、可哀想に。典親、なまえが怒ったのは、僕がとても酷い事をしたからなんだ。それに承太郎も少し関係していて、喧嘩をしただけだ。ほら、なまえも承太郎も、とても強いだろう?ちょっと力加減を誤っただけなんだよ。」
「そうなの…?うーん…パパがそう言うなら、そう、なのかも…。」
典明の説明を聞いた典親は、パパが言う事ならと納得してくれたみたいでホッと安堵のため息が漏れた。
「花京院さん、だんだん過保護になってないか?」
「君がなまえを虐めるからだろう?なまえを傷つけたりしたら許さんからな。」
「パパかっこいい!」
本当、かっこいい。典明にこんなに大事にされて、愛されて、私は幸せ者だな。好き。
「花京院さんは王子様で、騎士でもあるんですね、なまえさん。」
「確かに!やっぱり最強だね、典明。」
「キングとナイトか…。次の漫画になにか使えないだろうか…。」
露伴が独り言をブツブツと言い始めたところで、この会話は終了した。こうなった露伴は、放っておくのが一番いい。
おやすみの挨拶を交わして電気を消し、布団に入ると、露伴の独り言は止んでいて静かに布団に入っているみたいだった。
「なまえ、おいで。」
私の前世は犬かなにかだったのだろうか?典明が優しい顔で、優しい声で、腕を広げて「おいで」と言うと、私はそれに抗えない。光の速さで典明の胸に飛び込んだ。
「典明〜!好き好き〜!」
「ふ…。かわいいワンちゃんだな。」
「…わん。」
典明がよしよしと頭を撫でてくれるから嬉しくて、わんと鳴いたら目を丸くして固まってしまった。そして「それはさすがにかわいいがすぎるんじゃあないか?」と顔を赤くして私を抱きしめるので、私と典明は似たもの同士だな、と思った。
どさくさに紛れて彼の胸に手を当てたらすぐに捕まえられて「こら。」と叱られてしまった。少しくらい、いいじゃないか。