第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「……、…?…ッ!」
朝、目が覚めてボーっとしていたら視線を感じる気がして目だけで部屋を見回すと、典明と露伴が黙って並んでこちらを見ているのと目が合って危うく叫び出しそうになった。昨日はあのまま露伴と口をきく事はなく、典明も露伴を擁護していたので子供達の間に入って寝たのだ。それで何があって、こういう状況になっているのか。両脇で眠る子供達を起こさないように体を起こして、典明にスタンド越しに聞いてみる。
「なに、してるの?」
「子供達と寝ている君がかわいいなと思って。」
ニコ、と笑顔を浮かべる彼を見るに、本当にそれだけのようだ。私も、子供達に挟まれて眠る典明の姿が目の前にあれば同じ事をする。
「おはよう、典明。今日も朝からキラキラしてて眩しい。」
「おはよう。君は寝起きすらかわいいね。」
「待ってくれ。君達、いま何か話してるだろう。」
私達の会話に入り込んできた露伴の言葉は、私はスルーした。典明がいるなら、彼に相手をしてもらえばいい。
「初流乃、典親、起きた?おはよう。」
露伴の声で起きた子供達が寝起きの柔らかい笑顔で「おはよう」と挨拶を返すので心臓を撃ち抜かれつつ、少し癒された。やっぱり、子供は天使だ。
パタンパタンと布団を畳んで、典明と露伴にチラリと視線を送ってから子供達と共に部屋をあとにした。
別にもう怒ってはいないが、露伴からちゃんとした謝罪を貰うまではこのまま過ごそう。
「岸辺先生と喧嘩でもしたんですか?」
察しのいい初流乃は、寝癖を直しながら私へそう聞いてきた。察しがいいから、深刻な問題ではないと分かっていて聞いてきたのだろう。本当に、よくできた子だ。
「露伴が、ちょっとした約束を守れなくてね。もう怒ってはないんだけど、彼、謝れないでしょう?」
「あぁ、だからですか。」
初流乃は話が早くて助かる。それに、触れられたくない事には触れてこない。歳が近かったら、私は初流乃に恋をしていたかもしれない、と本気で思う。
「初流乃、後ろ直してあげる。貸して。」
自分の準備は終わったと、初流乃からブラシを受け取り後ろに立って違和感に気づく。
「初流乃…身長伸びたね。」
「本当ですね。いつの間にか、なまえさんよりも大きい。」
成長期、という事だろうか?預かった時は私と同じくらいの身長しかなかったはずなのに、あれからたった半年足らずで10センチは伸びているんじゃないか?ただの成長期ならいいのだが…と少し不安が募るが、身長が伸びた事は素直に嬉しい。
「大きくなったね〜初流乃。」
「ふふ、はい。毎日、なまえさんの作る美味しいご飯を食べてるので。」
高くなった頭をヨシヨシすると最上級の笑顔を返されて、私の心臓はいとも簡単に射抜かれた。身長は伸びて大きくなったが、まだまだ子供なんだなと実感できて安心した。初流乃が大人になったら、このキラキラ具合では収まらないだろうな、と考えると恐ろしくはなったが。
「…ちょっと出かけてくる。花京院さん借りてくからな。」
「えっ。」
私の典明を?と続けようとして、口をきかないんだった、と思い出す。昨日は露伴との買い物に時間を使ったから、今日は典明とまったりしようと思っていたのに。というか、露伴は昨日は私、今日は典明とデートだなんて、贅沢すぎるんじゃないか?
典明を見ると申し訳なさそうに眉を下げていて、着いていくつもりのようだ。とてもじゃないがわがままを言える雰囲気じゃない。
「早く帰ってきてよ…。」
小さい声で、そういうほかなかった。玄関で見送る際に「気をつけてね。早く帰ってきてね。」とまたしても弱々しい声で頬にキスをすると、「君は意外と寂しがり屋だな。いい子にしてるんだよ。」とお返しのキスを唇にくれたので、気分が少し良くなった。やっぱり典明は最高の男だ。
露伴はなにか言いたげにこちらを見ていたが、やがて諦めたようにため息を残してから家を出ていった。素直に、いってらっしゃいのキスをくれと言えばいいものを。
「もしもし、承太郎?SPW財団から連絡があったんだけど…。」
露伴と典明を送り出して少し経ったあと、SPW財団から携帯電話に1本の着信があった。休暇中に電話をかけてくるほどの何かがあったのだと思い出てみたら承太郎、というより徐倫が私と連絡を取りたいと言っているのだと伝えられたのだ。
「あぁ…。徐倫がお前に会いたがっていると…徐倫の母親から電話がきたんだ。」
「はぁ…。承太郎は、ちゃんと徐倫に会ってる?いや、連絡くらい取ってるの?」
「……。」
これは会ってもないし取ってないな。これでは徐倫に嫌われるとなぜ分からないのだろうか?頭を抱えるし、ため息も出る。
「私情でSPW財団挟まないでよ。で、会いに行けばいいんでしょ?チケット代は出してくれるんでしょうね?」
「あぁ、もちろんだ。ホテル代も出す。いつ行ける?できればすぐにでも行ってほしいんだが。」
本当、徐倫の事になるとよく喋る。大事にしたいのは分かるのだが、承太郎のこれは直そうとして直るものでもないのは、長年の付き合いで薄々勘づいている。
「すぐには無理。…典明の、命日があるから。」
「…あぁ、そう、だったな…。」
あと2週間もすれば、典明の命日がくる。11年目だ。来年は十三回忌と考えると、時の流れる速さに驚かされる。そして私達が置いていかれているのではないかと錯覚するのだ。私と典明だけが、あの頃のまま。
「…来年は十三回忌なんだから、予定入れないでよ。」
「分かってる。必ず行く。」
「……徐倫の件は、またあとで連絡する。」
じゃあね、と一方的に挨拶をして電話を切ると、自然にため息が出た。せっかくゆっくりと過ごしているのに、次から次へと…!!
「ん〜〜、めんどくさい!」