第4部 杜王町を離れるまで 前編
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案の定眠れるわけもなく、気がついたら朝だった。いつ寝たのか全く覚えていないが、1時間はドキドキして眠れなかった気がする。起きたら子供達が先に起きていて「パパとママと、露伴先生も仲良し…。」という声で目が覚めた。あぁ、あまり見られたくないところを見られてしまった。
「お前達…もう起きてたのか。…おはよう。先に、居間に行っていなさい。」
続いて起きた露伴が子供達にそう告げると、大人しく2人は従い「あぁそうだ。あけましておめでとうございます。」「あ。あけましておめでとう!」とだけ告げて去っていった。そうだ、今日から新年だ。西暦2000年になった。
「2人とも、あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」
未だ覚醒しきれていない頭で頭を下げると、双方から「ふ…」と吐息が漏れ出たのが分かった。
「あぁ、よろしく。」
「よろしくね、なまえ。」
2人の返答を聞いて、ようやく立ち上がって布団を片付ける。あまり眠れなかったような、よく眠れたような…。なんせ身動きが取れなかったので、体が少し痛い。
歯磨きと洗顔を済ませて居間に行くと、テーブルには既にお節が並べられていて、お雑煮まで盛ってあった。その美味しそうな匂いに、思わずお腹が鳴ってしまって注目を集めてしまって少し恥ずかしかった。
「聖子さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。」
聖子さんへも新年の挨拶をし、頬へとキスをすると聖子さんからもお返しが返ってきた。「よろしくね」と語尾にハートをつける聖子さんは、本当いくつになってもかわいらしい。
「イギー!おいでー!」
彼にも挨拶をしなくては、とイギーを呼ぶと、やがて足音が聞こえ、姿を現した。そういえば、空条邸に来た時以来姿を見ていなかったが、もしかして露伴と距離を置きたいのだろうか?
「イギー、あけましておめでとう。イギーも、よろしくね。」
「アギ。」
よしよしと顔を撫でると数秒は撫でさせてくれたが、すぐに嫌がったので手を離すと部屋の隅に体を横たえた。どうやらこのまま、ここにいるつもりらしい。
「なまえ、食べよう。」と言う典明の声に従い席に着くと、聖子さんの「戴きます」という声と共に朝の食事が始まった。一通り食べたところで典明にも体を貸して、ちゃんとお正月の食事を楽しんでもらっていたら「君の体、便利だな…。」と露伴がよく分からないところに感心していた。悪かったな、大食いで。
元旦の初詣はめちゃくちゃ混む。分かってはいたが人混みに次ぐ人混みで露伴は疲れてしまったようで、サングラス越しに見ても顔色が悪い。
「露伴、大丈夫?人混み苦手だもんね。なにか飲む?」
「いや、いい。それよりも…花京院さん、代わってくれ…。」
私の肩に凭れて弱々しくお願いをする露伴の姿は初めて見るもので、なんだか可哀想に思えてきた。
「典明。露伴、大丈夫そう?」
露伴の姿が典明に変わったのを確認しそのように問うと「はは、もう元旦の初詣は行かないってさ。」と笑顔で言うので拍子抜けした。でもその口振りだと、典明が体に入った事で露伴は休憩できているようだと判断した。楽になったのならそれでいい。
それから10分後にはお参りの列の最後尾に到着し、そこから40分ほどかけてようやく私達の番だ。疲れて抱っこしていた典親を降ろして小銭を持たせ、初流乃にも忘れずに渡した。少し前に人混みに紛れて元に戻った露伴は、先程よりも顔色が良くなっていて安心した。
お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。今年の願い事は…。まずい、何も考えてなかった。だけど、そんなにたくさん願う事はない。私は、ここにいるみんなが幸せであれば、それ以外はなんでもいいのだ。
ここにいるみんなが、今年1年、何事もなく過ごせますように。
「なまえ、何をお願いしたか、当ててもいいか?」
目を開けた瞬間、典明がそう言うのでお断りした。信じているわけではないが、人に喋ったら叶わないと聞くからだ。それに典明ならば、私の考えている事なんて全てお見通しなのだ。絶対に当たっている。
「それよりも、お腹すいちゃった。聖子さん、出店でなにか食べてもいい?」
「あら、いいわよ。私達は待ってるから、買ってくるといいわ。」
「…君、正気か?朝から2人分食べていたじゃあないか。」
聖子さんは優しく受け入れてくれたが、露伴はうんざりしたような顔をしている。出店の方も人がたくさんで賑わっているので、今からそこに行くのかと言いたいのだろう。
「露伴は休んでて。私ひとりで行ってくるから。」
「何言ってるんだ。君ひとりで行かせるわけないだろう。露伴、体を貸してもらうぞ。」
あ、と思ったのも束の間。次の瞬間には露伴は典明になっていて、私の腰に腕を回してエスコートしてくれるので、聖子さんに「ちょっと行ってきます。」と告げて子供達を任せた。それにしても、あまりに自然な動作だった。いつの間にか私も彼の腕に自分の腕を絡ませているし、まるでいつもそうしていたかのよう。
「今の典明、本当に王子様だった…。かっこいい。好き。」
「そう?君がかわいいから、つい自然に動いちゃったな。」
「はぁぁああ…。露伴、今の聞いた!?私の王子様が今日もかっこいい!!」
ひとりでは抱えきれないかっこよさだったので露伴にも語りかけたのだが返事はない。というより典明は静かに笑顔を浮かべているので、どうせ「うるさい」とか「はいはい」と呆れているのだろう。
「絶対美男美女だよ。」
「後ろ姿だけでも分かるよね!芸能人かな?」
数人並んでいる列に並んでしばらくして、後ろの女の子達がヒソヒソと話しているのが聞こえてチラリと後ろを見るとバッチリ目が合ってしまった。誰の事かと気になって振り向いたのだが、私達を見て言っていたみたいで気まずい。
「あ、あの。お2人絶対美男美女だって話してて!サングラス、外してみてくれませんか!」
そういえば、この辺の子達はみんな人懐っこかったな、と思い出した。人見知りなんて無縁で、高校生の頃、女の子達は承太郎や私にもグイグイ話しかけてきていたのだった。
「ありがとう。私はいいけど彼はダメ。かっこよすぎて人集りができちゃうから。」
もちろん典明があのTenmeiだとバレないように、というのもあるが。
ス、とサングラスを外すと「やっぱり!超美人!」と言われてなんだか照れくさいが、典明が私に毎日かわいいと言い続けた賜物ではないかと思う。
「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」とまるで芸能人扱いだ。「いいよ」と返すと、彼女達はカメラを典明に渡すので目的は私だったみたいで安心した。
「ほら。君は美人でかわいいんだから、早くサングラスを着けて。」
彼の手が私の視界を奪うと、彼女達から軽く悲鳴が上がった。まさか、典明があのかっこよさを振り撒いているのではないだろうな!?と手を避けるとサングラスは外されていなかったが、漏れている。彼の魅力が、隠された顔から確かに漏れ出ている!
「ちょっ、てん…典明(ノリアキ)!かっこよさ漏れちゃってるから!」
「!なまえ。」
大声で典明の名を口にするわけにはいかなくて咄嗟にノリアキと言い直したのだが、初めて呼んだその呼び方に、彼は驚いて目を見開いている。
「次どうぞー。」と出店の人に呼ばれてそれ以上会話は続かなかったが、なんだか嬉しそうにしている気がする。目当てのものを購入して帰り際、「あの、いつまでもお幸せに!私達、応援してます。」と言ってくれた彼女達にお礼を述べて別れると典明はまた私の腰に腕を回して「君にノリアキと呼ばれたのは初めてだったな。変な感じだ。」と凭れかかってくるので、心臓がドキドキと音を立て始めた。本当に典明は、私をドキドキさせるのが上手い。