第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「ただいまー!たくさん買っちゃった〜!」
空条邸へ帰宅してドサ、と玄関に置いた紙袋の数、実に10袋。露伴の分も含めて1人あたり2袋の洋服を購入してきた。主に私がみんなに着て欲しい服を購入したので私が持って帰ってきた。電車内でものすごい注目されたのだが、それはこの袋の数を見てだろうか。それともサングラス集団だったからだろうか。
「聖子さん見て!サングラスかっこいいでしょ?」
「あら典親くん?かっこよすぎて誰かと思っちゃったわ!」
サングラスを気に入った典親が聖子さんに見せに行ったところで、典明が露伴の体から出てきた。サングラスは露伴の体に残ったのだが、意外にも彼に似合っている。知り合いじゃなければ、決して近寄りたくはないが。
「今後、君達と街中に行くのは遠慮したいね。これがないと、ろくに買い物もできないじゃあないか。」
「えー?露伴だって、街中に出たらああなるでしょ?私は露伴とも出歩きたかったな。それも似合ってるし。」
「…大人数じゃなければ、構わんが。」
か、かわいい。さすがに今のはかわいかった。突然露伴がデレるものだから、思わず言葉に詰まって彼を見るとフイ、と視線を逸らされた。サングラスを外さないあたり、少し照れているようで余計にかわいい。
「じゃあ、こっちにいる間に2人で買い物行こう。次は露伴が私の服選んで。」
「…それ、僕や花京院さん以外の男に言ったりはしてないだろうな?」
「?たぶん、ないと思うけど。」
別におかしな事を言ったつもりはないが、私の返答を聞いて、露伴は安心したような顔をして着けていたサングラスを外し「君は知らなくていい。」と一言。よく分からないが、典明以外の人には言わない方がいいという意味のようだ。…よく、分からないが。
「ほら、早く行こうぜ。」と背を向けて荷物を持って行ってしまったので結局どういう事か聞けなかったが、服を選んでほしいなんて他所の人間に言う事はこの先なさそうなので気にしなくて良さそうだ。
「聖子さん、ありがとうございます。美味しそう!」
お節も年越しそばも完成して、全員先にお風呂にも入った。あとは年越しそばを食べて寝るだけで新年だ。
「今年も、君が無事でいてくれて…元気になってくれて、よかった。」
晩ご飯の準備の最中に、典明が私の左手を取ってそうこぼした。柔らかい笑顔を浮かべてはいるが、今年は色々な事があったし、ここにくるまでにも本当にたくさんの事があった。典明には今まで、本当に心配をかけてきた。それも全部ひっくるめて彼は「よかった」と言ったのだろうと思う。
「典明が、ずっとそばにいてくれたから。…杜王町へ行って、私の見える世界が広がった気がするの。露伴も、支えてくれたしね。」
「僕は何もしていない。強いて言えば、部屋を貸しているくらいだ。」
つれない事を口にする露伴は、それに、と言葉を続ける。
「忘れたのか?なまえさん、左手を一度失ったんだろう?」
「えっ?」
露伴の言葉に反応したのは初流乃で、聖子さんも典親も驚いた顔で私を見る。…今は元通りなのだし、心配をかけたくなかったから話していなかったのに。
「えっと…あれは仕方がなかったというか…。そうしなかったら死んでたというか…。」
しどろもどろに言葉を紡ぎ、聖子さんをチラリと見ると、珍しく険しい顔に変わっている。…怒っている。
「なまえちゃん!危ない事ばっかりして、ダメじゃない!典明くんも、ちゃんと見てなきゃダメよ!」
「はい。すみません。もう二度と、あんな怪我はさせません。」
聖子さんのお叱りを受けて、典明が素直に謝罪をするのを見て私も続いて謝罪をした。その際にチラリと見えた露伴は目を細めて口元を隠していて、やり返されたのだと理解した。…本当に、大人気ない!
「ママ、左手無くなったの?痛くなかった?」と典親が気遣わしげな顔で聞いてきたので「痛かったけど、どんな怪我でも治してくれる人がいてね。もう大丈夫よ。」と手を握ったり開いたりして見せると安心したようにため息を吐いた。なにも、子供の前で言わなくったって!
「…なまえさんは、そんなに危ない仕事をしているんですか?SPW財団って…。」
初流乃の真剣な声に、思わず口ごもった。初流乃には今まで、SPW財団で私がどんな仕事をしているのか話した事はない。それを話すにはスタンドについて話さなくてはならないし、スタンドについて話すにはDIOの話をしなくてはならないからだ。
初流乃は頭が良いので、私がなにか隠しているのは気がついているはずだ。そしてそれが、初流乃自身を気遣って隠しているだろう事も。
「…初流乃。それに典親。私の仕事の話…、杜王町に帰ったら聞かせてあげる。」
「なまえ!」
「聞いても、いいんですか?」
典明はきっと、まだその時期ではないと止めようとしたのだと思う。しかし今の初流乃の言葉は、聞きたがっている。知りたがっているような言葉だ。
「初流乃には、知る権利がある。…私が言わなくても、いつかは知る事になると思うけど…。それなら、私から話すよ。」
思っていたよりも少し早いが、本人が知りたがっているなら教えよう。抽象的な言葉で不安を煽ってしまっただろうか。初流乃は少し眉を下げて表情を硬くしてしまったので、安心させるように頭を撫でた。隣の、典親も一緒に。
「初流乃。なまえさんがお前が傷つくような事言うわけないんだ。そんなに不安がるなよ。」
まさかの露伴も初流乃を励ますように声をかけ、頭にポン、と手を置くので驚いた。あの、普段子供相手に偉そうな態度を取る岸辺露伴が。いつも大人げない行動ばかりしている岸辺露伴が。子供相手に慰めの言葉を口にしている!
「露伴先生。僕も!」
「あぁ、そうだな。…おい、なんだその顔は。」
典親が自分の頭も撫でてくれとアピールするのにも素直に応じるのでまだ聖子さんの前だから気を遣っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「露伴…、てっきり子供は嫌いなんだと思ってたんだけど。」
「あぁ、嫌いだ。だが、こうも懐かれちゃ、だんだんかわいくなっても仕方ないだろう。」
なんて事ないように言う露伴は、典親と初流乃を既に受け入れているようである。子供は嫌いだが、典親と初流乃はかわいいと。なんだか意外だ。すごく。
「ふふ、もう大丈夫です。なまえさん、杜王町に帰ったら、お願いしますね。」
「うん。」
典親もね、と念を押すと元気な返事が返ってきて、この話は一旦終わりだ。その事を視線で聖子さんへ伝えると「さ、お蕎麦食べちゃいましょ!」と空気を明るく変えてくれた。さすが聖子さんだ。