受け継いだ、彼女
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敵のスタンド…ドラゴンズ・ドリームといっただろうか?円盤の上にドラゴンが鎮座しているスタンド。その見た目や少し手合わせした感じから、あれは羅針盤の役割をしているのだと分かった。ただ、それだけのスタンド。攻撃手段を持たない能力のスタンドだが、対する本体の方はというと中国拳法の…それも達人のような動きを見せ、相性のいいスタンド能力だと思った。だが…
「こいつも、私の敵ではなさそう。」
私はまだ、手合わせをしただけ。本来の力の20%も出していない。どれほど強いスタンド使いなのかと思っていたが、拍子抜けだ。ディスクで突然手に入れた能力は、きっと体に馴染むのに時間がかかるのだろう。
「さっさと終わらせて、骨を探さなきゃね!」
「な、なんじゃ急に…!ドラゴンズ・ドリームが…クルクルと回り出したぞ…!?」
「ま、まさかこの娘…!弱点が無いだと…!?」
さっきの敵同様、単純なパワー勝負・体術勝負ならば私は誰にも負けない。絶対に勝つ自信がある!それはかつて過酷な旅の中で身につけた波紋の呼吸と、望んだわけではないが矢に射られた事によって手に入れたスタンド能力、そして生まれ持っての強靭な肉体がそうさせる。私は、誰にも負けないと、そう確信できる!
ケンゾーが避ける度に軌道を変え、すれ違いざまに拳を叩き込む。それの繰り返し。ただそれだけをすれば良い。風水なんて、私には関係ない。運気なんて、自分自身で上げていけば良いのだ。
「ウ、グゥ……!!ば、バカな…!!」
「風水がなければ戦えないなんて…弱いのね、あなた。私のように、身体だけ強化していればこうはならなかったのに。」
動きが鈍くなった彼の頭に、蹴りを一発。敵のスタンドは、姿を消した。これで本当に、終わり。
「典明、見てた?」
「あぁ。バッチリ見てたよ。けど、君の相手にしては物足りなかったな。」
なんて事だ。典明を満足させられなかった…!
「…なぁ、徐倫…。こいつらは、いつもこんな感じなのか…?」
「え?…えぇ。おそらくね…。」
こうなれば次に控えている敵こそは、もう少し骨のある奴だと嬉しい。いや、そうでないと困る!
「なまえ…。ちょっといい?」
ハイエロファントの細く伸びた触手を頼りに追跡をしている最中。みんなの輪から外れた徐倫が私にそう声をかけてきた。その表情は真剣なもので、しかし言いづらそうに、口を開いた。
「父さんは…あたしが生まれる前から、色々なものを守ってきたのよね…?」
「!」
「あたし、やっとそれが理解できた。なまえ…ありがとう…。」
徐倫の承太郎を呼ぶ呼び方が、"親父"から"父さん"に変わっている…。そして"色々なものを守ってきた"という言葉を聞いて、色々な記憶が頭の中を駆け巡る。承太郎と出会ってから、今までの…実に25年もの記憶だ。いつの間にか、そんなに月日が経っていた。25年だ。そのうち家族として一緒に過ごしてからは、23年。憎たらしい奴ではあるが、家族。血の繋がりはないし戸籍上の繋がりもないが、承太郎と私は家族で、兄妹だ。ただそれだけの事実が私の胸を震わせて、瞳からは涙が流れる。
「…今、承太郎は…何も覚えていないの。何も、分からないの…。何も…。生きる意味すら…。」
本当は、今すぐ承太郎の元へ帰りたい。何も知らない承太郎に、愛だとか家族だとか、大切な事をたくさん教えてあげたい。だけどDIOに関連する事柄が次々と湧いて出てくる以上、それを放ってはおけない。承太郎が動けない今、私がやらなくてはならない。本当は承太郎は、私をDIOから遠ざけようと、この件を隠したかったはずだ。それが承太郎の愛の形だと、私は知っている。だって26年もの間、側にいるのだから。
「…なまえ。」
「典明…。…承太郎に、会いたい…!」
「…うん。そうだね…。」
そっと伸ばされた典明の腕を受け入れてぎゅっとその体を抱きしめると、そのまま抱き抱えられる。絶対重いはずなのにその体はぐらついたりしなくて、安心する。そして典明だって同じ気持ちなのだと、触れ合ったところから伝わってくる。
「承太郎って、話が通じなくて何考えてるのか全然分からなくて、ムカつくけど……やっぱり好き。次に会ったら、甘えてもいいかな…?」
「…いいわね、それ…。なまえがいれば、父さんも強くは出られないものね。」
決まりだ。次に承太郎が目を覚ましたら、私と徐倫と、典明も、承太郎に甘えさせてもらう事にしよう。そうなったら私が満足するまで、絶対に離してやらないんだから。
「!っ小男だわ!小男がいた!上階からあたし達を覗いていた!!ある…!手に骨を握っている!!」
「っ、典明!」
ブンッ!と音が聞こえる勢いで、ハイエロファントの触手が私の体を上階へと飛ばす。小男はドン、ドン、とFFの弾を数発食らいながらもその身を捩り、奥へ奥へと向かっていく。しかし、その手の中には既に、骨は見当たらない。周囲を見回すとそこには異様な光景が広がっていて、一旦、地面へと着地した。
「死体から、植物が…。」
スタンドによるものだろうか?この樹には、下手に近づかない方が良さそうだ。距離を取っている今現在なんの異変も起きないところを見るに、攻撃型の能力でない事は確かだ。なら、今優先すべきはDIOの骨。あいつが手から取り落としたのだから、きっとまだ近くにあるはずだと、見落としがないように目を凝らし影の中もくまなく探し、やがて、それを見つけた。
一体この骨がどんなものなのかは知らないが、警戒心を高め、一歩一歩近づく。そうしてやがて手の届く距離まで近づいて、それを拾おうと手を伸ばしたところで、私の体は動きを止めた。
…気持ち、悪い…!!
たった一本の骨。それも手のひらに収まるくらいの、小さい骨だ。呼吸が乱れ息が上がり、冷や汗を流す。こんなちっぽけな骨に今、私の体は恐怖しているというのか。しかしその骨は確実に、禍々しく嫌なオーラを纏っている。
「空条徐倫!そこで止まれ!」
「!…徐倫が、どうかしたの…?」
何かを確認したいと、徐倫の額に手を当て左右を見、口の中まで確認するアナスイ。クンクンと匂いを嗅いだところで徐倫に突き飛ばされていたが、彼は本当にヤバい奴なのかもしれない。彼の行動には普通に、ドン引きだ。私からしてみれば承太郎と同じくらい、彼の取る行動全てが理解し難いものであった。
「この懲罰房の連中がこうなったのは、骨のせいだ。敵スタンドではない。敵の能力なら俺達を最初に攻撃するはずだからな。」
「!…それは、ご尤もだわ…。あなた、意外と頭が切れるのね。意外と。」
少しだけ見直した。だからといって未だ彼のイメージは、マイナス寄りなのだが。
彼は先ほど徐倫が、スタンドで骨に触れたのではないかと言った。糸の状態で、だ。確かに触れたかもしれないし、触れていないかもしれない。全員、分からない。不確かなものだ。しかし不確かだとしても、可能性があるなら警戒するのも無理はない。アナスイ…よく分からない男だが、冷静だ。彼の長所は冷静な視点と、スタンド能力。それだけは言える。
ミシ…、ミシ…、…カラン、
「!っ、骨が…!」
何かが軋むような音がして視線をそちらに向けると、目の前にあったはずの骨は成長した木の枝によって離れたところに転がっていくところであった。思わず樹木から距離を取るために一歩飛び退いたが、せっかくのチャンスを逃してしまった。だが、あのまま触れてしまっていたら何か良くない事になるかもしれないと思ったのも確か。今はとりあえず、常に視界に入れつつ見失わないようにするのが良いかもしれない。
それは典明も同意見のようで、視線を交わし2人で静かに頷きあった。