受け継いだ、彼女
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「承太郎。今日はね、聖子さん特別レシピの肉じゃがを作ったの!露伴も好んで食べててね、承太郎も好きかなーと思って。はい、いただきます。」
「ます…。……おいしー。」
「随分と上達したな。食べ方も、言葉も。」
最初は私が食べさせてあげなければできなかった食事も、スプーンやフォークであれば使えるようになってきた。根気強く教えた甲斐があるというものだ。喋り方に関してはまだ一語文から二語文しか話せないが、それでもだいぶ成長した方だ。
「なんだか、少しずつかわいく思えるようになってきたかも…。うーん…薄目で見れば…?」
「それ、かわいく思えてないじゃあないか。」
「だって承太郎は承太郎なんだもの。これが典明や露伴だったら、どれだけかわいいか…!」
「これって、ディスクを入れたらこの間の記憶は…、…いや、考えるのはやめておこう。」
きっと、そうだろうと思う。絶対にこの間の記憶は、忘れる事はないのだろう。それはもはや仕方のない事として受け入れるしかないのだ。承太郎が。
「花京院…、ずかん、みる。」
「その前にごちそうさまだね。はい、ごちそうさまでした。」
「た。」
「はい、口拭いてね。」
典明のお父さんぶりも見ていて癒される。今頃徐倫は仲間を見つけて壮絶な戦いを繰り広げているのかもしれないが…こちらはこちらで、大変な思いを……いや、案外大変な思いはしていないかもしれない。トイレだけは承太郎の意地だかなんだか知らないが、歩き始めた当初から、自分で行けるのだし。
「承太郎…頭に触れられるのを嫌がるんですか?」
SPW財団の財団員に聞いたのは、私にしてみれば初耳だった。だって、私は普通に触れられているから。
聞けば頭に装置を着ける際に財団員の方が手を伸ばしたところ、スタープラチナがそれを阻止しようとしてきたと。一般人相手にスタープラチナとは、危険すぎる。だから私が呼ばれたのだ。
「これでよろしいでしょうか?」
財団員の指示通り、機器は取り付けた。目の前の承太郎は不思議そうに私を見つめていて、とてもじゃないが一般人を攻撃するようには見えないが…無意識に反応してしまうのだろうか?
「承太郎、大丈夫だよ。ここにいる人達みんな、承太郎の事が心配なの。みんな優しいからね。」
「……ン。」
帽子を取ってヨシヨシと頭を撫でても、これといって嫌がる反応は見せない。それは承太郎が、心から私を信頼しているからなのだと思うとさすがに、来るものがある。
「…私も、承太郎が大好きよ。」
「ン…。なまえ、すき…。かきょういんも…。」
「…そんな事を言われては、なまえに好きだと言われた君に芽生えた嫉妬心が行き場をなくしてしまうじゃあないか。」
「典明の事は、大好きじゃ足りないくらい愛してるから、安心して。」
「…あい…?」
「承太郎も、きっと近いうちに分かる。思い出せるわ。」
承太郎の徐倫への愛は、きっと思い出せる。それを思い出させるのは私じゃなく、徐倫だ。
頼んだわよ、徐倫…と、未だ刑務所内で奮闘しているであろう徐倫に、思いを馳せた。
「一度…現状を知る必要があると思うの。」
「…正直言うと行かせたくはないが、……賛成だ。」
承太郎のスタンドディスクを取り戻してから、数日。こちらは思いのほか平和に過ごしているが、さすがに徐倫の事が心配で気持ちは焦ってくる。それもこれも、徐倫と連絡を取る手段がないせいだ。果たして徐倫は、無事に過ごしているのだろうか。そして、承太郎の記憶ディスクは?スタンド能力が発現してまだたった数ヶ月の徐倫の事が心配で堪らないのは、典明も同じ。ならば、私と典明で行くしかないだろう。
やむを得ないというお互いの同意の元SPW財団員に承太郎をお願いし、承太郎が眠った夜、財団をあとにした。向かうのはまた、グリーンドルフィンストリート刑務所だ。
刑務所前に到着したのは、日付が変わる頃。外から見える刑務所は電気が消され、静まり返っている。脱獄を失敗した際に、私の顔は見られている。フード付きのロングコートをきっちりと閉め、深く被り直した。
侵入自体は簡単だ。典明がハイエロファントで索敵し、クイーンの能力で壁をすり抜け、歩き、飛ぶ。典明はそもそも壁を自由に行き来できるし、建物内に入るのは容易な事だった。しかし…肝心の徐倫の居場所が分からないので、今はただ、闇雲に動き回るしかない。そうしていくつもの壁をすり抜けて、その部屋を見つけたのは偶然だった。あの日ちらりと見えた、小さい子供。恐らく徐倫の協力者と出会えたのは、偶然。
「…誰だ。」
「私は…空条徐倫の叔母よ。徐倫を探しに来たの。」
「あなたは…あの時の…!」
フードを外して顔を見せると、男の子は私の事を覚えてくれていたようで表情を柔らかいものに変えた。彼は名前をエンポリオというらしい。なんでも母親がここの元受刑者で、ひっそりと出産し以降ここでひっそりと暮らしていたのだという。
「徐倫は、仲間を見つけていたのね…良かった…!」
「あの、なまえさんは、どうしてこの刑務所に?」
「徐倫が心配だったのと…現状の把握のために…。承太郎の記憶ディスクの事も、気になるし…。」
「それなら…一度これを見てみてください。」
そう言って手渡されたのは、誰かの記憶ディスク。聞けばここにいる全員、これを見たのだという。なにか大事な記憶なのかもしれないと意を決して読み込んでみたが…それは、かなり最悪な記憶だった。吐き気を催すくらいには。
「うっ…!っ、は…、はぁっ…。」
「なまえ…!」
ドサ、とその場で腰を抜かし、呼吸を整える。私のあまりの狼狽えぶりに典明は気遣う視線を向けながらも自身の体で読み込んだ。そして私の呼吸が落ち着いた頃、私と同じように呼吸を荒らげ、典明も顔色を悪くさせた。…胸が苦しい…吐き気がする…。
「DIOの意志を継ぐ者が…この刑務所に…!!」
なるほど、そういう事か。だからジョンガリ・Aと手を組み、徐倫を餌に承太郎をここに呼び寄せたのか…!それに…
「DIOの骨、だって…!?奴の体はあの時…確かに塵になったはずなのに…!!」
私が直接見たわけではない。だが用心深いあの承太郎が、見落とすはずがない。ましてやジョセフさんも一緒に確認していたはず。その上DIOの日記とは、一体何の話なんだ。
「承太郎…!また私にそんな大事な事を隠して…!!」
ドンッ!と怒り任せに床を殴るとテーブルが揺れ、上にあったグラスが割れる。しかし数秒経つと元通り。なぜだかそれすら、私を苛立たせた。
「その、ウルトラセキュリティ懲罰房っていうのは、どこ?」
「えぇと…。」
「早く教えて!今すぐそこに行って、DIOの骨とやらを粉々に打ち砕かなきゃならないの!!」
「…案内しよう。俺達もちょうど、徐倫を助けに行くところだった。」
「!…徐倫が、そこにいるの?なぜ…?」
スッと急激に頭が冷えた。名前の通りなら、普通の懲罰房とは違うはず。何かとんでもない事をしでかさないと行かないはずではないだろうか。
「徐倫がこのディスクを読んで、ホワイトスネイクよりも先に、骨を見つけるために…。」
さすがは…承太郎の娘だ…。やる時はやるが、時に無謀な賭けに出るところなんかそっくりだ。
「はぁ…。似なくていいとこが似ちゃったのね…。…嘆いていても仕方ない。行きましょう。」
できる事なら早いうちに、事は済ませたい。長い間私が姿を見せなかったら、承太郎は心細いだろう。…なんて、今の承太郎の母親になった気分だ。