受け継いだ、彼女
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「!…今…、っ、承太郎…!」
ジョンガリ・Aのスタンドを追って少し経った頃。時が止まった感覚があった。徐倫と典明も一瞬動きを止めていて、承太郎がスタープラチナを使ったのだと確信した。この分だと承太郎は監獄側に入ってきたに違いない。承太郎まで罪を犯さなくともいいものを…!
「何かあったのか、なまえ。」
「承太郎が、こっち側に入ってきた。…時を止めたのよ。」
「なんだって…!…はぁ、…そうか。まぁいい。ジョンガリ・Aは倒した。承太郎と、合流しよう。」
ため息をつきたくなる気持ちは、とてもよく分かる。承太郎の立てる作戦は一見慎重に見えて、強引すぎる時がある。いつだって承太郎は、私や典明の考える通りには動いてくれないのだ。
「徐倫。」
「待って。…アンタは誰?子供のアンタが、なぜ刑務所の中を自由に動いているの?」
徐倫の視線の先には、子供。小学生やそこらの、本当に小さな子供。そんな小さな子供がこの刑務所内にいるのは、確かにおかしな話だ。しかし、それは今はどうでもいい。助けてくれた事には感謝するが、今はそれどころではない。
「アンタにもらったこれ、これは何?骨みたいだけど…。」
「…待って徐倫。それ、見せて。…これは…仙骨…?女性のもののようだけど…なぜ、これを徐倫に…?」
徐倫の問いかけにも、私の問いかけにも、男の子は答えてはくれなかった。ただ「まだ、だよ…まだなんだ…」とよく分からない事を言うだけ。
バサッ、
「承太郎!」
探す手間が省けた。承太郎は自力でこの場所を突き止め、ここまで来られたらしい。あの小さい穴を、よく通れたものだ。
「ッ…!奴がいる!あそこよ!移動しているーッ!」
「!」
徐倫の鬼気迫る雄叫びに、咄嗟に全員、物陰に身を隠す。しかし承太郎だけは別だ。視線をチラリとそちらに向けただけで、そこから一歩も動かない。承太郎はジョンガリ・Aがここにいるなど考えられないと言っているが、徐倫の必死さを見れば、嘘をついているようにも見えない。
「いるって言ったらいるんだよォ!…アンタの真上だァー!!」
「…分かった、信じよう。」
「オラァ!」とスタープラチナがそばにあるパイプを破壊するとバチバチと音を立てて火花が散り、先ほど敵スタンドを倒した際に充満していたガスに引火─上の方で小さな爆発が起こった。
「なまえ!…怪我はないか?」
「典明…!うん、大丈夫。」
典明は破片が私に当たらぬようハイエロファントでガードしてくれたおかげで、無傷だ。かっこいい…好き…!
「君、もう大丈夫よ!…あれ?」
男の子の姿は、消えていた。徐倫は彼を探して周囲を捜索するが、やはり見つからない。もしかして、ここには隠し通路がいくつもあるのかもしれない。
「……ねぇ、承太郎。撃たれた傷は、どうしたの…?」
なんだか、違和感。先ほどから、何かがおかしい。
「!コイツは…ジョンガリ・Aじゃあないッ!コイツは看守!」
「徐倫!!離れて、私の近くへ!」
ピチャッ
垂れてきた水滴。それが、白く濁って体を溶かしている。これは、一体…!?
「なまえ…!」
「っ、典明…!」
私を守ろうとハイエロファントでガードしようとする典明の体も、ドロ…と溶け始めている。そして、この空間そのものも。
「これは現実じゃあないッ!」
ポタッ、ポタッ─
「はっ…!」
夢。
目を開けると面会室の中。全員、椅子に座ったままだ。私達は、夢を見ていた。ドロドロに溶けた体を無理やり動かして、承太郎の服を掴む。…なるほど。さっきの戦い全て、幻覚だったようだ。その証拠に、承太郎の肩の怪我はない。
「あぁぁああっ!」
「…徐倫…。っ、大丈夫。私が…なんとかする、から…。」
グググ…といつもよりも何倍も重い体を持ち上げるように、全身に力を込める。そうしてようやく少し腰を浮かせる事ができたところで、承太郎の方へと体を傾かせた。
ドンッ、ドシャッ
「痛ぁ…!」
受け身も取れず承太郎の硬い体に倒れ込んだので、体が痛む。しかし、おかげで承太郎も目を覚ました。
「早く…面会室の外へ出なくては…!破壊して…、扉を…。アンタの能力…スタープラチナで…!」
「オラァ!」
ガシャン!
夢の中の時と同じようにスイッチを破壊すると、ドアが開いた。しかし、またしても違和感。
「待て。今お前、なんと言った?スタープラチナ、と言ったか?」
あぁ、それだ。徐倫がその名を知っているなんて、おかしい。これは…、これも、夢だ。
また、戻る。
「…う…、体、が…。」
さっきよりも、体が重い。私達はまたしても机に突っ伏して、眠っていた。震える腕を持ち上げて、承太郎の腕を掴み、握る。たったそれだけの事が、こんなにも困難だなんて…!なんて厄介なスタンド能力なのだろう。
「少しも動けないのなら現実よ…。脱出できないという…紛れもない現実…。」
「なるほど…。なまえ…、テメーの方はどうだ…?」
ドサッ
「気合い、で…!動くッ…!!」
ズリ…、ズリ…、と亀の歩みよりも遅いが、確実に地面を這って進む。波紋の呼吸なんてもはや乱れてしまっているが、そうでもしなきゃまた眠ってしまいそうなのだ。
「無理をするな、なまえ…。いまいち気に入らないが、ギリギリだ。…これで面会室から出よう。」
「オラァ!」というスタープラチナの掛け声と、ドゴッ!という殴ったような鈍い音。直後徐倫と徐倫のスタンドが私の頭上を飛んで行ったが、まさか…まさか承太郎は、徐倫を殴ったというのか…!?ほんっとうに、信じられない!!
「俺を引っ張ってくれ。これは現実だ。紛れもなく。」
「テッ、テメェ…!」
「承太郎…最低だな。…このまま置いていこうか…?」
私も、それがいいと思う。と、心の中で典明に賛成した。
「ハァ…、ハァッ…!…なまえ…、あなた見かけによらず…重いのねっ…!?」
「徐倫…、なまえの体には"かわいい"がぎっしり詰まっているんだ。その重みはなまえのかわいさの重み。年々増えていくその重みが、僕は愛おしくて仕方がないんだ。」
「えっ、私また重くなってるの!?」
通りで最近、またさらに重い物が持てるようになってきたと思っていた。エジプトで旅をした時は承太郎の体を持ち上げるのに苦労していたが、今は片腕で引きずる事ができるのがその証拠。女としては、少しばかり悲しいのだが。…まぁ典明がそう言ってくれるなら、いいか。
徐倫の両腕に繋がれた手錠を壊し、辺りを見回す。こちらは、刑務所側。中の構造が分からないため、どっちに向かえば良いものか…と全員様子を伺っていると、突然警報音が鳴り響く。面会室のドアを壊したのだから、当たり前だ。このままではすぐに看守が集まってくる。迷っている暇は無い。
「一先ず、こっちへ向かおう。花京院、看守が来ないか、見ていてくれ。」
「分かった。」
とりあえずは承太郎の指示通りに進むしかない。一刻も早く、ここから離れなければならないから。
「看守の数が少ない…。」
「ここは一般エリアだからな。…これを見ろ。」
「っ、承太郎…一体いつの間にこんな物を…!?」
承太郎が懐から取り出した紙に描かれていたのは、刑務所内の見取り図。持っているのなら持っていると言ってくれれば…!と怒りが爆発しそうになるのを堪えて、地図を見る。1箇所だけ×印が書かれていて、どうやらこれから、ここへ向かうようだった。
「オラァ!」
ガシャン!
「行くぞ。」
「…徐倫?」
「あぁ、ごめん。」
ここを曲がれば、目的の窓。先に走り出した2人を見送り、一度後ろを振り返る。と…、後ろでドサ、という音。どうやら、階段に気づかずに徐倫が足を踏み外したらしい。
「どこを見ている。慌てるな。さ、立て。」
そう言って徐倫に手を差し伸べる承太郎。何気ないシーンだが、承太郎が徐倫を気遣って手を差し伸べるのが意外だった。しかしその小さな感動は見事に裏切られ、ただペンダントを徐倫に返すためだけのものであった。本当…悪い意味で期待を裏切らない男だ。
「!みんな、どこかに身を隠せ…!」
典明の言葉に従い、全員階段や柱の影に身を隠す。遠くから聞こえてくる足音は段々と近づいてきて、やがて止まった。
「こっちの廊下には誰もいません。反対側に向かったのではないですか?」
「おい!よく見ろ!鉄格子が壊されてるじゃあないか!囚人はこんな先まで来ている!こちら…」
ブシュッ…!
「!」
一体何が起こっているのか。看守が、看守を撃ち殺した。サイレンサー付きの拳銃で。
「拳銃…まさか…!」
「ジョンガリ・Aーーッ!!」
「徐倫!お前は窓へ進め!奴はこの俺が相手をする!なまえ!徐倫を!」
ジョンガリ・Aは、既に銃を構えている。そして視界の端に、ジョンガリ・Aのスタンド。まさか…また夢を…?いや、そんなはずは無い。とにかく私は、徐倫を守らなくては…!!
ドンッ!ドゴッ!
ピュン、ピュン、ピュン、
拳で2発壁を殴る合間に、拳銃の発砲音。直後、時が止まった。徐倫の体を掴みながら後ろへ視線を向けると、ジョンガリ・Aのスタンドの他に、スタンドがもう1体。まさか、本当の狙いは…!
「承太郎ーッ!!」
「一手遅かったな、空条承太郎。」
時は、動き出す。徐倫を外へと放り投げ、承太郎の元へと引き返す…が、間に合わない…!!
「待っていたぞ…この時を。」
「承太郎!!」
静かな攻撃。外傷はないが、承太郎の体は一度静かに揺れて、動かなくなった。そして敵スタンドの手には、ディスクのようなものが2枚。
「みょうじなまえ、か…。お前のも、貰っていこう…。」
ピュン、ピュン、ピュン、
「くっ…!」
徐倫目掛けて撃ち込まれた弾丸は数発、承太郎の方へと飛んできた。徐倫に向かった弾丸は徐倫自身で対処したようだが、承太郎は動かず、何発か食らってしまった。
「エメラルドスプラッシュ!」
「…クソ…花京院典明か…。」
「なまえっ…!!」
「しまっ…!!」
黒いスタンドの腕が、私の頭を掠る。痛みはないが、何かを奪われたような感覚がしてその手を見ると、ディスクのようなものが1枚。承太郎のと、同じものだ。
「なまえ…。徐倫を、海岸へ…。それと、これを徐倫に…。」
飛び退いた先の承太郎は、この状況でペンダントを私に預けようと手を伸ばした。このペンダントは、私が思っているよりも大事なもののようだ。
「徐倫…、お前の事は…いつだって、大切に想っていた…。」
「!」
徐倫を…逃がさなくては…!そもそもの目的は、徐倫の脱獄。承太郎が動けない今、私が徐倫を外に出さなくては…!
「徐倫!海岸に走って!!典明!援護を!!」
典明のエメラルドスプラッシュを背に、外へと駆け出す。徐倫を抱き抱えてペンダントを手渡すと「ちゃんと言葉にしないと…分かんないよ…!」と徐倫は涙を流した。
本当に、その通りだ。
「なまえ!ジョンガリ・Aは倒した。しかし、もう一方の敵に逃げられた!」
「っ!…徐倫は、ここにいて。潜水艇が来たら、私達の事は気にせず乗るのよ。」
承太郎はペンダントには発信機が着いていると言っていた。だからペンダントを持つ徐倫が海岸にいなければ、浮上してこないだろう。ゆっくりと徐倫を地面に下ろして、私はまたUターンする。そして承太郎の元へ辿り着いた時、彼は床へと座り込み、ぐったりとしていた。
「ックソ…!」
今度は承太郎を抱えて、海岸へと逆戻り。天気が良くてキラキラしていて、それがなんだかイライラを加速させる。
「承太郎…、聞こえてるの!承太郎!」
承太郎は、生きている。だというのに目は虚ろで、焦点が合わない。さっきのスタンド攻撃で、承太郎の身に何かが起こっているのは明白だった。
私は、ディスクのようなものを1枚奪われた。
承太郎は2枚。承太郎がこうなったのは、奪われたディスクの枚数が関係している。なら…ディスクを取り戻せば…!
「なまえ…ノリアキ…、ありがとう。私を信じて、ここまで来てくれて。」
「…徐倫。」
「2人とも、この潜水艇で逃げて。私は…私が、ディスクを奪った奴から、ディスクを奪い返すから。」
「!そんな…、危険だわ、徐倫!!」
「そうね。危険だわ。だけどなまえ、あなたも同じ状況に置かれたら、きっとそうすると思うのだけれど…。」
「そ、…!」
それは、そうかもしれない。それに徐倫は、空条承太郎の娘。やってくれるかもしれないと、心の中で期待をしてしまっているのも確か。
「承太郎の事は、任せて…。」
「なまえ…!正気か…!?」
「正気よ…。だって、そうするしかない。それに…エジプトに行った時の私達だって、徐倫と同じくらいだった。」
承太郎の心臓は止まった。一刻も早く治療しなければ、取り返しがつかなくなるかもしれない。ここは、一旦退くしかない。
「仲間を作るのよ、徐倫。その仲間が、絶対にあなたを助けてくれるから。」
私に教えられるのは、このくらいだ。
「じゃあ、またあとで。」
とうとう、敵が動き出した。徐倫の脱獄は叶わなかったが、まだ、チャンスはあるはずだ。
私は私で、外でできる事をしよう。
徐倫が平和に、また外で暮らせるように。