受け継いだ、彼女
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「もう帰っていいぜ。そしてもう会いに来るな。」
立ち上がった徐倫が先ほど入ってきたドアへと歩み寄って…違和感。そして、テーブルの端に視線を走らせて、また違和感。咄嗟に、椅子を立ち上がり後ろへ飛び退いた。
「典明…この部屋に、私たち以外、いた?」
「いや…それどころか部屋の外にも、人影はない。」
さすがは典明。異変を察知していち早くハイエロファントの触手を張り巡らせていたなんて…頭の回転が早い人って、素敵。
「徐倫!そのドアから離れろ!」
ドンッ!
「スタープラチナ!ザ・ワールド!時よ止まれ!」
銃の発砲音の直後、久方振りに感じる時が止まる感覚。やがて世界の時間は止まり、承太郎が徐倫の方へと歩み寄るのについて行くと、徐倫のスタンドが銃弾を受け止めているところが見え、そしてすぐに時が動き出す。しばらく使わなかった承太郎のスタープラチナは、今は2秒ほどしか時間を止められないようだ。…これは、覚えておいた方がいいかもしれない。
「ジョンガリ・Aの狙撃とみて間違いない。」
承太郎の手の中にあるのは、ライフル仕様の弾丸。なるほど。ライフルを使うという事は確かに、ジョンガリ・Aの情報と一致している。
「承太郎…ジョンガリ・Aのスタンドは、どんな能力なの?」
「…残念ながら、敵の能力は不明だ。そこまでは調べきれなかった。」
男子監から女子監までは距離がある上、当たり前だが障害物もある。なら、ライフルの弾をここまで通せるような能力である事は確か。例えば、ホル・ホースのエンペラーやミスタのピストルズのような。
「廊下に…何かいる。おそらくは敵スタンドだ。」
ハイエロファントが何かを見つけたらしい。「あれか…見ろ」と承太郎の声に倣って鉄格子付きの窓から覗き込むと確かに、拳大の小さな何かがフワフワと空気の流れに乗って舞っているところだった。
「何もするな。まずあれの能力を見極めるんだ。」
シュルシュル、
突如、徐倫の指先から水色の糸が伸びて、窓の向こうの敵スタンドへ向かっていく。しかしそれは糸の起こす小さな風で舞い上がりヒラリと躱されてしまう。…風で…。
「テメェ…!FE40536…俺に何をやっちまったか、分かってるんだろうなァ!?」
「!っ看守が…!」
最悪だ。最悪のタイミングで、看守が目を覚ましてしまった。すぐさま私のスタンド能力で看守の腕を掴んだが、そうすれば足は止められない。ならば、致し方ない…!「なまえ!」と承太郎が私を制止する声をよそに、背後に回って絞め技をかける。いわゆる裸絞と呼ばれる柔道の技のひとつで、少々可哀想ではあるがハイエロファントが両腕の拘束をしてくれたおかげであっという間に落とす事ができた。が、やはり少し揉み合いになった事で空気の流れが乱れ、弾を撃ち込まれてしまったようだ。その弾は徐倫を庇った承太郎の肩を貫通し、看守のいた床へとめり込んだ。私が避けなければ、確実に看守に当たっていただろう。
「承太郎。治癒の波紋を。…スタンドについて、何か分かった?」
「…全員、動くな。…ジョンガリ・Aはあれを使って空気の流れを読んでいる。」
フワフワと浮遊しながら、窓から入ってくるスタンド。とてもかわいらしい見た目をしている。敵スタンドなのが惜しいくらいだ。
「ライフルであのスタンドを狙い、弾丸を中継させる。狙撃衛星だ。この部屋から男子監にいるジョンガリ・Aを攻撃するのは不可能。ここで、あの衛星スタンドを叩くしかない。」
「ここからでは、ハイエロファントの触手も男子監までは届かない。承太郎の言う通り、スタンドを叩くしかなさそうだ。」
「もし…私があのスタンドに触れたら…。」
「その時は、すぐさま引き金を引くだろうな。」
「…なんなのよ、みんな…。親父は海洋学者で、なまえは画家、ノリアキは王子様なんじゃあないの…!?」
典明は王子様。いつか私が教えた事だったが、今のこの状況に似つかわしくなくて思わず笑ってしまいそうになる。いや、間違ってはいないのだが、典明のジトっとした視線を感じてしまい、余計に。
「…今は全員、徐倫を守る騎士だよ。羨ましいなぁ。」
典明は元々私の王子様であり騎士だが、徐倫を守ろうとしている典明もかっこいい。素敵。私が今、ただの傍観者であれば間違いなく典明に黄色い声援を送っていたに違いない。はぁ…かっこいい。
「!冷たっ…!」
シュルシュルと再び徐倫の指先から糸が伸び、一体何をするつもりかと見守っているとその糸はライターを巻きとった。なるほど、徐倫は意外と、頭の回転が早い。そこに関しては父親譲り、なのかもしれない。やがてライターの炎を察知した火災報知器は警告音を響かせ、スプリンクラーが作動した。部屋の中はあっという間に水浸しだ。
「…あのスタンドの動き…。」
「あぁ。水滴を全て避けている。…なんて繊細なんだ。」
ドンドンドン!
「!」
「お姉ちゃん、よく聞いて!急いで、柱の下の石壁を動かすんだ!強い力で蹴って!」
一体、誰?ドアの向こうから突如、子供の声が聞こえてきて一同警戒心を上げる。ドアの向こう側という事は監獄側のはずだが、そこに子供が…?いや、今はそんな事はどうでもいい。今その声は、柱の下の石壁を動かすようにと言ったか?何が起こるか分からないため徐倫が動くのを手で制して、グッと足で強く押すとボコッと音を当ててそれは外れた。そしてそこから、人1人通れるくらいの穴が突如として現れた。
「僕の事はどうでもいい。お姉ちゃんには、生き延びて欲しい。」
「…どうする、承太郎。」
「…外に続いているのかもしれん。…行くしかないようだ。」
「なら、典明が先に行って。私は一番最後に行くから。」
「そんな…最後尾なんて危険だわ!なまえは女の子なのよ…!?」
「…徐倫。確かになまえは女の子だ。それも世界一かわいい。でもね、なまえはかわいいだけじゃなく、強くてかっこいいところもあるんだ。正直言うと、この中で一番強いのも、頑丈なのもなまえなんだ。だから安心して、背中を任せてくれ。」
「…ノリアキが、そう言うなら…。」
はぁ…典明、かっこいい…。それにサラッと今、私の事世界一かわいいって言ってくれた…。もう…好き…。大好き。
「!スタンドが…!」
今まで部屋の中を漂っていた敵スタンドが、窓を通って部屋から出ていってしまった。これは、先ほどの声の主を追って行ってしまったのかもしれない。
「…っ、…私は、あの子を助けるわ。」
「待て徐倫。すぐに下に降りるんだ。」
「承太郎、少し黙ってて!」
徐倫の性格上、承太郎の言い方では反抗してしまう。いい加減、それに気づいてほしい。
「どっちにしろ、あのスタンドを叩かなければ敵は倒せない。今ここで決着をつけなければ、後々また徐倫は危険に晒される。」
「だから、ここから脱獄すると言っているんだ。」
「いや…。長い目で見れば、ここで倒しておくのが最善手だ。あの子を追いかけよう。」
「承太郎は、ここで待ってて。あなたは大きくて、目立ちすぎるから。」
「っ、待て!!」
あくまで承太郎は、何かしらの攻撃を受けて怪我をした、ただの面会人。対する私は、看守に絞め技をかけた悪人。向こうからすれば、こう見えるはず。
ガシャン!
扉のスイッチを壊すと、いとも簡単に扉は開いた。ハイエロファントの索敵を頼りに歩を進めると消火栓の奥までその触手は伸びていて、先ほど決めた順番通りに中へと入っていく。
ジョンガリ・Aは、ここで倒す!
その後の事は、その時に決めれば良い。あわよくばSPW財団がどうにかしてくれないかな、と淡い期待を願った。