受け継いだ、彼女
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「!…アナスイ!!」
もう、間に合わない。ならば今は、死にかけているアナスイの治療をしなければ…!
優先順位を赤ちゃんからアナスイへと変え、神父から距離を取る。駆け寄った先のアナスイの怪我はストーンフリーの糸によって応急処置はされているが、酷いものだった。しかし、魂はまだ、出ていない。なら、きっとまだ間に合う…!治癒の波紋を両手で送り、自身の怪我も呼吸で耐えていると魂が昇っていくのが視界の端に見えた。まさか、間に合わなかったというのか…!と見上げると、それはアナスイの魂ではなくFFの魂で、伸ばした私の手をそっと制した。
「私の体は、無いんだ。だから、良いよ。」
「…FF…、私が何をしようとしたのか、分かるの…?」
「…何となく?あたしはいいから、アナスイを治してやって。傷は一応、塞いどいたから。」
「!」
確かによく見れば、傷自体は塞がっている。FFの能力は知らないが、ジョルノのように無理やり塞ぐもののようだ。しかし水分を含んでいるのか、波紋の効きが良い。これなら、アナスイは助かるだろう。
サァ─、と気持ちのいい風が吹き抜けて、同時に、FFの魂は見えなくなった。魂が天に、昇っていったのだ。この儚くて切ない光景は、いつ見たって慣れない。
「応答しろFF…君を見失っている。…FF、今どこにいる?」
「…もしかして…ウェザーリポート…?FFは今…天に昇っていったわ…。」
草むらに落ちていた無線機。そこから聞こえてくるのは、さっき少しだけ聞いたウェザーリポートの声とよく似ていた。私の返答のあとしばしの間を置いて聞こえてきた「…そうか…」という声がなんだか承太郎に似ていて、すぐに帰りたくなった。しかし、そんな事は言ってられない。アイツがやろうとしている事を、止めなければ…!
振り返ると既に、奴は姿を消していた。こうなればもはや、次の新月までに奴を倒さなくてはいけない。本当の儀式の日は、新月でなければならないから。
「ディスクは、私がSPW財団へ持ち帰り承太郎へ返すわ。必ずまた合流するから、それまでは無理しないで。」
アナスイは無事、一命を取り留めた。徐倫も、できる限り治療はした。しかし、私は一刻も早く、承太郎にこのディスクを届けなければならない。神父にはもう必要なくなった、このディスクを。
「…なまえ。」
数日ぶりに会った承太郎は、少し痩せたように思った。驚いたように目を開いたあと、その大きな体でぎゅっと抱きしめられ、申し訳ない気持ちになった。やはり、私がいない間財団員達は苦労したようだった。頭の装置が外れればつけ直すために頭に触れなければならないが、手を伸ばせばスタープラチナが出てくるので毎度大騒ぎだったらしい。しかし、それも今日で最後。刑務所から持ってきたディスクを入れれば、元の承太郎に戻るのだから。
「承太郎、全然離れないな。一発くらい殴っても良いだろうか?」
「ふふ、今の承太郎を殴るのは少し可哀想だから、殴るなら戻ったらにして。」
典明の物騒なヤキモチが、かわいい。そして嬉しい。このディスクを入れたら承太郎は、記憶が戻る。つまりは、記憶を失くしていた間の行動を、とても後悔するだろう。
「承太郎、分かった。そのままで良いから、ディスクを入れるね。」
懐から取り出した、承太郎の記憶ディスク。それをゆっくりと承太郎に差し込んで、やがて亀裂が閉じる。そうして待つ事数秒。徐ろに動き出した承太郎はゆっくりと私の体を離し、帽子の鍔を少し下げた。
「…おかえり、承太郎。」
「……ン。」
「はは。かわいくない承太郎が帰ってきたな。」
ドン、と殴るというには優しいハイエロファントの拳が、承太郎の体を揺らす。やっと、いつもの承太郎だ。今度はお返しにと、こちらから承太郎を抱きしめた。
「承太郎、会いたかったよ。」
「…あぁ。悪い。」
珍しく、承太郎も抱き締め返してくれる。それが今は何よりも、嬉しかった。
「承太郎の記憶、読んだよ。…残念ながら敵は、DIOの日記の内容を知ってしまった。そしてスタンドの進化を、私は止められなかった…。」
「…そうか…。」
「本当…承太郎の愛は分かりづらいよ。でも、記憶を読んで知る事ができて、良かった。承太郎、私の事めちゃめちゃ大事だったんだね。」
「……。」
「そこは何かしら返事をしてくれないと、こっちも恥ずかしいんだけど。」
「……。」
「もう!典明を見習って!」
「ははっ!承太郎、そこは"当たり前だろ、家族なんだから"で良いんだよ。」
「正解!さすが典明!好き!」
言葉が出てこない承太郎が懐かしい。前だったらイライラしていただけだったのだろうが、承太郎の気持ちを知った今はそこまで気にならないのが不思議だ。
「それで…、そう…、その敵の神父との戦いでね、ちょっと、怪我をしちゃってね…。」
「…ちょっと?」
「ちょっと、ではないね。結構な怪我…だね。」
思わず口篭りながら話したのは、怪我の事。典明が「承太郎には必ず話せ」と事前に珍しく怖い顔、怖い声で言われ、仕方なく言ったのだ。言えば承太郎は、また心配するだろうから。
「こう見えてなまえは…腹に穴が開いたんだ。僕のと同じようにね。」
「!」
「わっ!!ちょっと、承太郎ッ!!」
驚いたように目を見開いた承太郎は、突然私の服を掴み、あろう事か傷を見ようと上へと押し上げ私の腹を外気へと晒した。ありえない!!「何してるんだ承太郎!!」とさすがの典明も大声を上げハイエロファントで彼を締め上げたが、本当の本当に、信じられない!!
「なまえの…、怪我の具合は。」
「…ただ、塞がっているだけだ。中には欠けているものもある。正直言うと、重傷だよ。…しかし、間一髪致命傷を避けたのはさすがと言うべきか…。今回ばかりは、本当に死を覚悟したよ。…死んでも、なんらおかしくはなかった。」
「…そう、か…。」
「次の新月まで1ヶ月…。それまで、待ってられない…。だから私はこれから、ジョルノのところに行くわ。既に話はつけてある。」
「…君は本当、使命感の塊だな…。君のそんなところが、僕は好きなんだが…。」
「なら、余計に変えられないな。典明が私のそういうところを、好きでいてくれる限りね。」
「ふふ…だろうな。君のそういうところも、僕は好きだよ。」
嬉しい。典明からの、好きのオンパレードだ。お腹に開いた穴なんて、忘れてしまいそうなくらいには嬉しい。…いや、やっぱ忘れるのは無理かも…!!
「う…、やっぱりちょっと、しんどいかも…。早く、SPW財団の飛行機に乗らなきゃ…!」
「…テメーが人に比べてものすごく頑丈で、良かったぜ…。…気をつけて行ってこい。」
「……ありがと。今度は元気になって帰ってくるから、いい子にして待っててね、承太郎。」
「……やれやれだ。」
ほぼ瀕死の状態で刑務所からSPW財団本部へ直行し、そのままイタリアへのフライト。体の頑丈さには定評のある私ではあるが、さすがに体に堪えている。せめて飛行機の中では、ゆっくりと体を休めたいものである。…いや、フラグとかじゃなくて、ね。
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