受け継いだ、彼女
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「なまえ!」
「…大丈夫よ、触っても。徐倫の植物化は、完全に止まってる。これにはもう、人を植物に変える力は必要ないのよ、きっと。」
船首から落ちそうなその赤ちゃんを抱き上げると、それはやはり人の形をしてはいたが皮膚は緑色で少し気味が悪かった。そして私の予想通り、人を植物に変える力はなくなったらしい。となると、あれは骨自体の能力であって、この赤ちゃんを誕生させるために必要だった…という事になる。一体何人の囚人が植物にされたのだろうと想像し、背筋が冷えた。死してなお、骨だけになっても、あれだけの人間の命を奪えるなんて…どこまでも恐ろしい奴だ、DIOという男は。
「あー…うー…」
「…なんだか、普通の赤ちゃん…みたいね…。」
緑色で異様な見た目をしているが、それ以外は普通の赤ちゃんと同じように見える。しかしDIOの骨を使って生まれたのも確か。一刻も早く、SPW財団に引き渡してしまいたい。
「…徐倫の事が気になるみたいね。抱っこする?」
「えっ?わ…!あたし、赤ちゃんを抱っこなんて、した事ないわ…!」
「首も腰も既に座っているみたいだし、大丈夫よ。おしりの下に腕を入れて、あとは背中を支えるだけ。ね、簡単でしょう?」
緑色の赤ちゃんは、徐倫の首にある星型の痣をしきりに叩いている。ジョースター一族である証の痣。徐倫に何か、親近感のようなものを感じているのかもしれない。
「私は…この赤ちゃんを連れてSPW財団に帰るわ。承太郎の事も心配だし…。」
「SPW財団の、財団員なんだっけ?父さんも、そうなの?」
「…いや、承太郎はあくまで、海洋生物学者よ。SPW財団からしてみれば、協力者…のはずなんだけどね。」
むしろ私の方が協力者で、承太郎が財団員のようだ。今回の件だって、承太郎は事前に知っていたし、私は知らなかった。ただの戦闘員ならば、財団にいなくてもできる。
「なまえ、承太郎はね、君の事も守りたいんだよ。徐倫を守りたいのと、同じようにね。君はすぐに無茶をするから、危険な事は教えないんだよ、きっと。特にDIOに関する事なんてね。ふふ、僕だって承太郎の立場なら、君には何も教えないだろうな。」
「典明…。酷いなぁ、2人とも。」
分かっている。承太郎の優しさだという事も。分かりにくい愛し方しかできない承太郎の、気遣いなのだと。
「!…伏せろ!何か来る…!」
突如として霧が発生し、アナスイの指示に従い身を低くする。しかし霧の発生している方に視線を向け目を凝らしても、あまりに濃すぎて何も見えない。辛うじて分かったのは、人影が2つ、という事だけ。
「FF!」
「…FF…?」
先ほど見た彼女の姿とは、だいぶ違っているが、徐倫がそう言うのならそうなのだろう。
「徐倫…ホワイトスネイクの正体が分かった。プッチ神父だよ。」
「!」
敵の正体は、神父。なるほど。神父様ならばあの刑務所内を自由に移動できる。それに、囚人達もなんでも話してしまうだろうし、情報も集めやすい。看守相手にも同様だ。
「危なかった…。ウェザーリポートが来なかったら、やられていたんだ…。」
「ウェザー、リポート…?えぇと…初めまして。」
「ウェザーリポート…。」
「徐倫…。」
「工場で負った傷はもう大丈夫なの?」
「あぁ…。君こそ。」
えぇ…?どういう状況なの?お互いの安否を確かめ合った2人は、静かにお互いを抱きしめあった。徐倫…刑務所にいる間に彼氏を作ったの…?いやでも、アナスイは…と彼の方を見ると嫉妬に塗れた表情で2人の様子を眺めていた。え?三角関係?
よく分からなくて典明を見ると「僕達もするかい?」と笑顔を浮かべるので喜んで誘いに乗った。もー、好き!!!
ドッ…!
「ウッ…、グ…ッ!」
「ッ!…なまえ…!!」
ウェザーリポートと呼ばれた、徐倫の仲間。その彼が突然、私を攻撃した。私の胸に向かって、腕を突き刺したのだ。咄嗟に赤ちゃんを抱き抱えて腕の中に隠すと、ウェザーリポートの姿が別のものへと変化していくところだった。その姿は、ホワイトスネイク。私と承太郎からディスクを抜き取った、あのスタンドだった。
ドスッ、ドッ、ドッ、と続け様に、急所に拳を一発ずつ。無駄のない動き。全員が全員その場に倒れ込んだ。まず最初に私を仕留めるあたり、私の事をよく理解している。徐倫の仲間だと、完全に油断していた…!このままでは…赤ちゃんが…!
「今投げたものはなんだと聞いているんだ!」
徐倫の声に、ハッとする。私は今…意識を飛ばしていた…?典明の姿は、見えない。急所への攻撃を食らって、それほどまでに弱っているからだろう。朦朧とする意識の中、徐倫の姿を探すと…なぜか徐倫は、敵本体と手錠で繋がれているところであった。
「ディスクは魂を形にしたものだ。永久に保存できる。だが…死にゆくものの体内に、ディスクが入ったのなら…ソイツの生命と共に、ディスクもソイツの死に引っ張られる。…お前が命をかけて欲しがっていた、承太郎の記憶のディスクだ!返してやるよ!死にゆくみょうじなまえの体に!」
私の、体に…?…なら、大丈夫だ。私が承太郎の記憶を読めば、DIOの日記とやらの事も分かる。それに、アナスイやFFの体ではなく私の体で、本当に良かった。本当、私の体の頑丈さには感謝だ。産んでくれた母には感謝しかない。そして、波紋の呼吸を教えてくれたジョセフさんにも、大声で感謝の言葉を贈りたい。
…私の体は、少しづつではあるが修復を始めている。その証拠に、服の中をハイエロファントの触手が動いているのが感じられる。気を失った数秒か数分間の間にも、波紋の呼吸をやめなかった私を、典明はきっと褒めてくれるはずだ。
迷った徐倫はホワイトスネイクにやられてしまったが、それで良い…。生きてさえいてくれれば、良い。
「らせん階段…カブト虫…廃墟の街…イチジクのタルト…。」
?
わけの分からない事を呟きながら、プッチ神父が一歩一歩近づいてくる。しかしわけの分からないそれを、私は唐突に理解した。承太郎の記憶のディスクを、読み込んだからだ。
「カブト虫…ドロローサへの道…カブト虫…特異点…ジョット…エンジェル…紫陽花…カブト虫…特異点…秘密の皇帝…!!」
ドッ…!
「何ッ…!?…みょうじ、なまえッ…!!」
シュルシュル、とハイエロファントの触手が、神父を捉える。私の拳は、奴の脇腹を掠めた。未だ私の傷は完治していないが、やるしかない…!
ブシャァ!と音を立て、神父の右手から血飛沫が上がる。私ではない。神父自ら右手を傷つけ、そこにある自分の指の骨を取り出したのだ。腕の中で赤ちゃんが蠢いて、その骨を取ろうと身を乗り出した。
「待って…!あなたには、私と一緒に来てほしいの…!」
「君の方から私の方へ来てくれるのか…。これで全ては幕を開けるのか…!」
ガブッ
「待って…!!」
「これで君の世界に共に旅立てるぞ…!ハレルヤ、DIOッ…!!」
天国へ行くという儀式が、完成した。具体的には何が起こるのかは分からない。承太郎も知らない。しかし、良い事なわけがないのは確かだ。間に合わなかった。私がさっき、まっさきにやられたせいだ…!