受け継いだ、彼女
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「とりあえず…もう1人のスタンド使いからは逃げられたみたいだな。」
夕暮れ時の日陰の中。我々は誰一人として欠ける事なく、徐倫を中心に集まった。ここからは、日が暮れるまでは日光から逃げるしか手はない。そう考えたところで、徐倫の体の蕾が急激に萎み、枯れ落ちていった。枯れたという事は、もうその能力は消え去った、という認識で良いのだろうか?
「問題はそろそろ刑務所側の誰かが、この懲罰房の事態に気付く頃だという事だ。」
「むしろ好都合よ。そうなったら、どこかに潜んでいるホワイトスネイクも同時に気付いて、きっと近くに現れる。父さんの記憶のディスクを取り戻すチャンスって事だわ。」
ホワイトスネイク。それが、今回の敵のスタンドの名前。承太郎と私のディスクを奪ったスタンド。彼はなぜか、私の事も知っているようだった。ディスクを奪われた時、私の名前を確かに呼んでいた。それがまさか、DIOと関わりがあった人物だったからなんて、誰が予想できただろうか。
「ッ、徐倫!ソイツ!」
「!!」
突然のFFの声に徐倫を見ると、先ほどまで徐倫の手の中にあったはずの実が消え、緑色のスタンドの口の中に飲み込まれていくところであった。一体、いつの間に…!
「ストーンフリー!」と徐倫のスタンドが殴りつけると、呆気なく血を吐いて倒れる、緑色のスタンド。なおも殴る蹴るなどしてその実を取り返そうとする徐倫を制し、ソイツの中に手を入れ、実を取り出……
「うっ…!」
ドン、ドン!
「ダイバーダウン!」
臭い…!思わず口を覆いたくなる程に、ソイツの体の中からは異臭がして、手を離してしまった。アナスイも同じようにそれを感じ「クソ…中へ入っていけない!」と距離を取った。
しかし意外な事に、コイツは我々に従順な素振りを見せ、逃げるために水上ボートまで案内をした。見る限りそのボートは罠などではなく普通に整備されたもの。一体、このスタンドの目的はなんなのだろうか。
「FF、1人で大丈夫?」
「あぁ、任せてくれ。暗殺なら、1人の方が良いだろ?」
なら、私は徐倫達に着いていこう。そもそも今は実を守るのが、最優先だし。
「くれぐれも気をつけてね、FF。」
出会ったばかりの味方へそう声を掛けると「アンタ…意外とまともなんだな」と失礼な一言が返ってきた。意外とまともって何。今まではまともに見えていなかったという事か?
「なまえ、そろそろ行きましょう。」
「あぁ、うん。操縦は私がするから。あなたは退いて。」
周囲にはウー、という警報音が鳴り始めた。役割は決まった。なら、早く逃げなくてはと、ボートに乗り込み再度FFを振り返る。「早く行け」という彼女に従いエンジンを始動して、ボートを発進させた。この手のボートは乗ったことはないが、動かし方かえ聞いてしまえばあとはだいたい他のと同じだろう。逃げるには些かエンジン音が大きい気がしないでもないが、仕方ない。
向かう先は…東。とにかく看守から逃げるのが、今できる事。
「どうかしたのか?随分呼吸が乱れてるな。」
「徐倫?どうかしたのか?」
ヒューヒューという異常な呼吸音に反応し、操縦している私の代わりに典明が様子を見ようと徐倫へと近づく。しかし…アナスイの奴、また距離が近くはないだろうか?
「俺もだ徐倫…。ドキドキしてるだろう?急に寄り添ってきたりして…。君へのこの気持ち、通じてくれたのか?」
「…アナスイ。離れて。」
徐倫は必死に、何かを伝えようと口元を指さし、「徐倫…声が出ないのか?」という典明の問いかけに対しものすごい勢いで頷いている。徐倫は、いつの間にかスタンド攻撃を受けたのか?しかし、そんな素振りは一度も…。
「言葉なんか必要ない。俺も同じ気持ちだ。俺にキスしたいんだろう?でも、いきなり舌を絡ませるやつ……」
パァンッ!!
「グッ…!!」
あんまり私の言葉が届かないので、つい手が出てしまった。痛いだろうが、話を聞かないのが悪い。それにグーパンでなくて平手打ちなのだから、手加減はしたつもりだ。離してしまった操縦桿を再度掴み直して、再びボートを発進させる。全く、今はそんな事をしている場合ではないというのに。
「今の君、かっこよかったな…。」
「本当?さっきすぐに徐倫に駆け寄った典明も、素敵だった。本当に王子様だった。」
「その事なんだが、徐倫の舌に、穴が空いているんだ。それのせいで空気が漏れて、ヒューヒュー鳴っていたらしい。」
「舌が…。…ねぇあなた。徐倫に、何かした?」
「わ、私ですか?滅相もない!」
そんなわけがない。今この場にいる敵は、コイツしかいないのだから。
プーン…、パンッ!
「蚊…。湿地帯だからか、多いわね…。」
「!なまえ…、君、手が…!」
ボコ、と手のひらに感じた違和感と、典明の声を聞き見てみると、手のひらに穴が開いている。一体いつの間に…。今、蚊を叩き潰した。それが合図なら…と、考えたが、突如として徐倫の顔半分が溶けだし、ドサ、とその場に倒れた。一体、何をきっかけとしてこの攻撃は発動しているのだろうか。
一度ボートを止め、物陰へと隠す。
そしてアナスイを見た時、彼の体が穴だらけになっていて驚いた。
「アナスイ…!あなたいつの間にそんなに…!」
「なまえさん…。俺の事は今はどうでも良い。アイツだ…。アイツから、目を逸らさないでくれ。」
アナスイの足元には"Be All Eyes"という文字。徐倫が伝えようとしている事だ。
「アナスイ…もうちょっと、耐えてて。」
ボートで体を横たえる徐倫の元へ近づき、彼女の手を取る。そして私が次にした事は、徐倫への、スタンド越しの会話だ。
『徐倫…聞こえる?徐倫はもう、奴の攻撃方法に見当がついてる?』
『…なまえ…?これは…。』
『上手ね、徐倫。私達はね、スタンド越しに会話ができるの。便利でしょう?それで、奴の攻撃方法はどう?』
『…おそらくは奴の…涎…。それが飛び散って、溶けている…。多分ね…。』
『そう…。ありがとう。』
「なまえ…!君、顔が…!!」
感覚はないが、典明の様子を見るに私も顔に穴が開き始めたのだと悟った。ないよりはマシかとここに来る時に着てきたコートを徐倫へとかけてやり、立ち上がる。アナスイの穴は、増えていた。
「大丈夫よ、典明。コイツを倒したら、治癒の波紋で治すから。」
「そういう問題じゃあないっ!僕のなまえの顔に、傷をつけるなんて…!」
「ありがと、典明。」
私のために怒ってくれる典明が、愛おしい。私だって、典明の顔に傷をつけられたらそうなる。だから嬉しい。好き。
「…アナスイ。奴は私達の見ていない隙に、涎を飛ばしているみたい。おそらく、瞬きの間にも…。涎を食らえば、溶ける。それが現状、分かっている事。…大丈夫。こうして待っていればきっと、FFが本体を倒してくれる。」
時には仲間を信頼し、任せる事も大事。私は彼女とはほとんど関わりはないが、徐倫が信頼した人だ。だからきっと、やってくれる。
ジュウゥゥゥ、という音と共に敵スタンド─ヨーヨーマッの体は消滅していく。FFが、本体を倒したからだ。
あの卵みたいな実は…と視線を巡らせて、気付く。
「実が…割れている…!」
木の表面のように硬い殻の下で、何かが蠢く。それはやはり赤ちゃんのようで、やがて腕が覗き、星型の痣が顕になった。
「生まれた、って事なのか…!?」