受け継いだ、彼女
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「徐倫が、捕まった。」
何に?と思った。言葉足らずがすぎる承太郎に苛立つのももう慣れたものだが、今回ばかりは我慢ならない。捕まった、なんて言葉、物騒にも程がある。とうとう敵スタンド使いが現れたのかと焦ったが、次に耳に入っていたのは予想もしていなかった言葉で、意味を理解するのに時間を要した。
「徐倫が、恋人の車を盗み、轢き逃げをしたと…。」
「…徐倫が…恋人の車で…轢き逃げ…?」
一体、どういう事だ。何がどうなったら、そんな事になる?
「…どこ?」
「…グリーンドルフィンストリート刑務所だ。」
「今すぐ向かう。空港に着いたら連絡するから。」
ブチ、と乱雑に通話を切って、携帯電話をテーブルに置いた。一体何が起こっているのか、全く分からない。ただ今の承太郎に聞いても、ロクに会話もできない事は確か。今すぐ徐倫に会いに行って話を聞いた方が手っ取り早い。
「なまえ…?何かあったのか?」
「今すぐアメリカに行く。徐倫が轢き逃げの容疑で逮捕されたらしいの。承太郎は放心状態で話にならなそうだから、徐倫に直接聞きに行く。」
私の不穏な空気を感じ取った典明が部屋の外から顔を覗かせる。しかし私の話した事ではやはり急すぎて理解が追いつかないのか「一体なぜ…」と呟くばかり。私も、同じ気持ちだ。
「露伴。急用ができて、今すぐアメリカに行かなきゃならないの。」
「随分急だな。まさか、またスタンド関連か?」
「いいや、今回は違うみたいだ。承太郎の娘の事で、ちょっとね。」
「ふーん…ならいい。気をつけて行ってこいよ。」
「うん。行ってきます。」
行ってきますのキスを交わして、最低限の荷物を持って家を出る。既に厄介な事になっているが、時間が経ってさらにややこしい事になるのは避けたい。だから今は一刻も早く、徐倫の元へ行かなくては。
逸る気持ちを抑えつつ、電車へと乗り込んだ。そこで徐倫の母親からメールが来ていた事に気がつき開いてみると、徐倫が恋人の車で轢き逃げをした容疑で逮捕されてしまった事や、恋人を庇っているに違いないなど書かれていて、ようやく少し理解した。「私も今すぐそちらに向かうから、安心して」と気休め程度の返信をして、携帯電話を閉じる。徐倫はきっと、彼女の言う通り轢き逃げなんてしていない。徐倫の事だから、恋人の事を庇って捕まってしまっているだけなのだ。徐倫が罪を認めさえしなければ、まだ猶予はある。
そう自分に言い聞かせて、電車から新幹線、飛行機を乗り継ぎアメリカへと渡った。
しかしそんな淡い期待とは裏腹に徐倫は何故か罪を認め、懲役15年の刑でグリーンドルフィンストリート刑務所に収監されてしまったと、空港まで迎えにきた承太郎に聞かされた。一体なぜ…、なぜそんな事を…!!
「私はこのまま…徐倫を脱獄させるため刑務所に向かう。」
「は…?本気…?」
「本気だ。…もしかしたら、の可能性の話だが…徐倫を利用しようとしている誰かの仕業なら、危険だからな。」
「それは、そう…だけど…。」
「テメーは…財団で待っていてくれて良い。何もテメーまで、危険を侵す必要はないからな。」
「…、…私も、行くよ。承太郎だけだと、徐倫を説得できないでしょう…?」
「っ、なまえ…!」
「…恩に着る。」
承太郎と私のスタンドなら、きっと脱獄させてあげられる。可能性が少しでも上がるなら、協力しないわけにはいかない。典明は反対なのだろうが、徐倫の事を心配しているのは私達と同じはず。その証拠に、もう何も言葉を発さなくなったから。
「空条徐倫に、面会を。」
「被受刑者との関係は?」
「私は、空条徐倫の父だ。そしてこっちは…私の妹で、空条徐倫の叔母だ。」
「…なるほど。こちらの書類に記入を。のちほど、身体検査を受けてもらいます。」
刑務所に来たのなんて初めてだが、当たり前ではあるがかなりセキュリティが厳しいらしい。ここに至るまでにも一体何台カメラがあるんだと無駄にキョロキョロしてしまったし、鍵付きの鉄格子の扉だって何枚も潜った。少しばかり、不安になってくる。
「お2人とも、どうぞこちらへ。面会時間は30分以内。手を握る事は可能ですが、キスなどの過度な接触は禁止です。それと差し入れはできますが、こちらで全てチェックさせて頂きます。最後に、外国語は禁止とさせて頂いております。」
「あぁ。承知した。」
「それでは、椅子にかけてお待ちください。」
看守からの注意事項を聞いて、待つ事数分。電動で動く向こう側の扉から姿を現した徐倫は両方の手首に手錠を嵌められていて、思わず体が飛び出しそうになってしまった。しかしそんな私を手で制したのは典明で、その顔を見てなんとか落ち着く事ができた。
「徐倫…、母さんからペンダントは受け取ったか?」
「親父…、それになまえ、ノリアキ…。」
「…徐倫、聞いているのか…?」
「待って、承太郎…!徐倫、承太郎がごめんね…!」
こんな時に何を言っているんだ、承太郎は…!!徐倫の代わりに1発、肩に入れておいた。
「なまえ…あたし…あたし…、やってないのに…!」
「!徐倫…。そうだよね…、徐倫はやってないのよね…?大丈夫。私も典明も、信じてるよ。」
「なまえ…。」
「えぇと…ペンダント、って、何?承太郎がどうしても聞きたそうにしてるんだけど、私何も聞いてなくて…。」
「……受け取ったわよ。…それが何っ!?」
「!徐倫!!」
ドゴッと鈍い音が、面会室に響く。徐倫が看守を殴った音だ。ドサッと床に倒れた看守は、そのまま動かなくなってしまった。なんだかまるで、高校生の時の承太郎を見ているかのようで頭痛がしてきた。
「やれやれだ…。徐倫、よく聞け。お前に殺人の罪を被せこの刑務所に入れたのは、ロメオとかいうボーイフレンドではない。」
「は…?…承太郎、そんな話、聞いてないんだけど…!?」
「…ジョンガリ・A。現在、ここの男子監に収監されている。元軍人で、風速20mの中でも仕事をこなしたというスナイパーだ。」
こういう時にだけ饒舌になる承太郎に、イライラが募る。そんな大事な情報、先に私に伝えてくれても良いものを。だいたい、昨日の今日でこんなに情報を持っているなんて…!
「なんのためにだ…。…コイツは、なんのためにあたしを刑務所に入れたと聞いているんだ!!」
「…座れ。」
「答えろ!」
「…とにかく座れ。」
このままでは話が進まないと、椅子に腰かけた承太郎の隣に静かに腰をかける。私のその様子を見た徐倫も、それに倣って向かいの席に腰掛けた。もちろん、承太郎の前ではなく、私の前に。
そしてようやく話し始めた承太郎の話は、回りくどい言い方ではあったが有り得る話ではあって。DIOの元部下が承太郎を恨み、その娘である徐倫を殺そうとしているという。…ジョースター一族の因縁は承太郎があの時断ち切ったと思ったのに…どうやら未だに、DIOの呪縛からは逃れられないらしい。
「今はお前が狙われている事だけ理解しろ。すぐにここから出す。法律は無視する。…スタンド能力は、身についたか?」
「スタンド…?」
「娘であるお前には遺伝しなかったが、素質はあったはずだ。お前に渡したペンダントで、何か異変は?」
「!」
「承太郎…まさか、矢の力を…!?」
「…手に入れたらしいな。それがスタンドだ。」
承太郎はいつもいつも、自分のペースでしか会話ができない。今は私の問いかけなんて聞こえていないかのように振舞っていて、そろそろ怒りが頂点に達しそうだ。
「うるせぇぞ…いまさら父親ヅラすんな。やっと助けにきたってわけか。愛情ってわけか。あんたの事はもう、心の中にはないのにさ。」
徐倫の言う事は、尤もだ。散々言ったにも関わらず父親として何もしてこなかったのは、承太郎の責任。承太郎が悪い。だけど承太郎の行動の真意を知っている身としては…徐倫の言葉はとても、胸が痛んだ。なぜ、こんなにも不器用なのか。本当に愛し方が下手くそな人だ。空条承太郎という人は。