あの人ごと、私を愛して
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「なまえさんの記憶の話は、本人にはしねーであげてほしいんスよ。」
クソッタレ仗助が真剣な顔でそう頭を下げたのは、つい昨日の事。急に呼び出して何の話かと思えば深々と頭を下げるので、正直拍子抜けした。空条承太郎というやけにデカイ男を引き連れてやってきたのでまた殴られるのかと思っていた。しかし"空条承太郎"という名はどこかで聞いた─いや、読んだ記憶があるなと考えていたらみょうじ なまえという名前が出てきたので、そこでようやく思い出した。彼は、空条承太郎は、なまえさんの友人だったはずだ。
みょうじなまえという人間の記憶は、二つあった。生まれてから高校時代の時までと、その後から今まで。そのちょうど分かれ目で彼女は、記憶を失ったのだ。それについては彼女の後半の記憶を読めば分かった。記憶喪失になり途方に暮れていたところを、今目の前にいる東方仗助とその祖父、東方良平に保護された。全く手がかりのない中で、名前以外にただひとつだけ覚えていた"花京院典明"という男の記憶だけを胸に今まで生きてきたのだ。
しかし僕が興味をそそられたのは記憶を失うよりも前の記憶だ。100年前に殺したはずの吸血鬼が復活し、それを倒す旅に出た当時高校生のみょうじなまえと、空条承太郎。そして、花京院典明という男。その時の彼の死がきっかけとなり記憶を失ったのだと、彼女の記憶を読めば分かった。
それで……彼女本人には、この記憶の話はしないでくれ、だったか?バカバカしい。彼女自身は記憶を取り戻したがっているというのに。例え忘れてしまっていたとしても、忘れたかった記憶だったとしても、彼女にとっては彼女自身が体験した大切な記憶。その記憶を奪ってしまった僕がこんな事を思うのはお門違いかもしれないが、彼女が花京院典明という男を愛し続けるには、絶対的に必要不可欠な記憶だと思う。
「ひとつ聞くが、彼女は思い出したくないとでも言っているのか?」
「…いや、…言ってねぇ、けど。」
「話にならないな。僕にそんな事を頼む前に、順序ってものがあるだろ。」
先回りして他人があれやこれやと世話を焼くなんて、子供じゃあるまいし。記憶をなくしたとはいえ、大の大人に対してやる事ではないだろう。それは本人にとってありがた迷惑というもの。もしも僕が彼女の立場だったら「余計な事をするな!」と怒鳴りつけるだろう。
「記憶喪失ってよ…繊細だって言うじゃあねぇか。思い出したくない記憶を思い出して、記憶障害になったりだとか…。」
「……お前さぁ、みょうじの保護者か何かなのか?もしくは彼氏ヅラか?少なくとも、僕が読んだ彼女の記憶ではそんな事実はなかったはずだが。」
「あぁん!?」
「もしそうだとしてだ。例え親であっても、恋人であっても、一人の人間の人生を、他人が決めるなと言いたいんだ。運命を決めるのは、自分自身でなくてはならない。人間誰だって、他人にどうこう言われる筋合いなんてないんだよ。他人の人生を、お前が決めるな。」
ギリ、と奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。本当、下らない話だ。言いたい事は言ったし、話は終わりだと椅子から立ち上がる。
「待て。…いや、待ってくれ、岸辺露伴。」
それまで口を閉ざしていた大男、空条承太郎。彼がとうとう口を開き、鋭い視線をこちらへと向ける。鋭いが、意識してそうしているわけではなく元々の人相や今の感情がそうさせているのだろう。話し方はその見た目とは裏腹に、自信なさげで弱々しかった。
「今はまだ、話さないでいてくれないだろうか?君の言いたい事はよく分かる。それを踏まえた上で、猶予がほしい。…私自身、心の整理がついていないんだ。」
空条承太郎。みょうじなまえとは高校時代の友人同士で、密かに彼女の事が好きだった。しかし突然現れた花京院典明という男に彼女が恋をしている事を察し行方を見守っていたところ、花京院典明が死亡。彼の分まで代わりに彼女を守ろうと告白した事で彼女を傷つけ、結果彼女の記憶がなくなってしまった。
そして10年経った今、偶然彼女と再開した。
これが、僕がみょうじなまえから得た空条承太郎の情報だ。
「こう見えて僕だって、彼女に悪い事をしたと思っているんだ。なにも今すぐ話すつもりはないさ。」
「…恩に着る。」
そう、別に今すぐに彼女に話す必要もない。わざわざ隠さなくともいいってだけだ。しかし──彼女の記憶の中の空条承太郎とは、だいぶイメージがかけ離れているな…なんて、僕には関係ないか。
彼女に会ったのは、その翌日の事。
前日の事があったためむやみに話しかけるべきではないとは思ったが、未だ彼女に対する謝罪ができていないのに素知らぬ顔をして過ごすのは耐えられなくて、結局話しかけてしまった。それで「私の記憶には、どんな事が書かれてましたか?」なんて言われてしまっては、口から出てくる言葉が「めんどくせーなぁ」になってしまうのは仕方のない事だと思う。本当に、面倒くさい。とはいえ相手は久しぶりに現れた心躍る記憶の持ち主で、迷惑をかけたのは事実。手を貸してやりたくなるのも、仕方ない。断るなんて事はできない。…なんて、好奇心に負けた言い訳だろうか。