あの人ごと、私を愛して
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「テメー…、岸辺露伴!なまえさんの記憶を返しやがれ!!」
漫画家、岸辺露伴。なまえさんの記憶を奪ったのは、コイツだった。康一もなまえさんと同じように記憶を奪われ、同時に体重が大幅に減ったというような事を聞き確信した。つい数分前にキレて思うままに殴りつけた後だったが、なまえさんに危害を加えた張本人だと分かった今、再び怒りが湧き上がってきた。
「承太郎さん!!なまえさんの記憶を奪った奴を見つけたっスよ!!」
岸辺露伴の胸倉を掴み怒りのまま承太郎さんへ電話をかけると、向こうも怒りを隠しきれない様子で「そうか…すぐ行く」とドスの効いた声が聞こえてきた。
「みょうじなまえ…彼女の記憶は、凄かった…。壮絶な旅の末、愛する人と共に記憶を失ったなんて…!まさに事実は小説よりも奇なり、ってやつじゃあないか!」
「…?おい、ちょっと待てよ岸辺露伴。」
今、聞き捨てならねー言葉が聞こえた気がした。それを問い質そうと声を上げたところで家の中に人が入ってくる気配。おそらくなまえさんと承太郎さんだろう。なまえさんの前で聞くのは何となく憚られて、口を噤んだ。
ややあって部屋へと入ってきたのはやはりなまえさんと承太郎さんで、なまえさんは部屋の惨事を見回したあと「仗助、承太郎さん。記憶は戻りました。岸辺さんが犯人だったんですね。二人とも、ありがとうございました」と笑顔を浮かべた。
「……それだけっスか?」
5分とかからず岸辺露伴宅へとやってきた二人は対称的な空気を纏っていて、なまえさんは記憶が戻った事が嬉しいのか柔らかく笑顔を浮かべていた。…承太郎さんは、言わずもがな、だ。
「岸辺露伴……テメー、命拾いしたな。」
恐らく殺意の込められた承太郎さんの眼差しや声は、既に気絶した岸辺露伴には届いていないだろう。代わりにすぐ側にしゃがんでいた俺が、モロにそれを食らっちまって。承太郎さんを怒らせねーように、気をつけようと誓った。
「露伴の奴が、なまえの記憶を…?」
承太郎さんへ気になっていた件を報告すると、意外や意外、怒るでもなく悲しむでもなく、そして戸惑いや焦りもなく、落ち着いた表情で顔を伏せるのみだった。
いや、本当は何かしらの感情を抱いているのかもしれねーが、俺には承太郎さんが何を考えているのか、全く読めない。ただ、なまえさんの事を考えている事だけは確かだ。
「露伴には、しっかり口止めをしておかなきゃならねぇな。」
そう言って承太郎さんはどこか遠くを見て、もう一度瞳を伏せた。
この前も少し気になったが、もしかしたら承太郎さんはなまえさんの事が好きなんじゃあねーか?もしそうなら…俺はこの前伝えた「なまえさんにあんまし、関わらねーでいてくれねーっすか…?」という言葉は、とても残酷な言葉だったのかもしれねぇと、今さらになって気がついた。しかし、承太郎さんはそれを認めねーだろうし、何より、吐いた言葉は取り消せない。「この前は、すいませんっした」なんて、今さら言えるわけがなかった。
「承太郎さん、こんにちは。あと30分もしたら上がりなので、お花でも見て待っていてもらえますか?」
驚いた事に今、俺と承太郎さんは揃ってなまえさんの勤め先の花屋に来ている。男二人で花を買いに来た……というわけではなく、なまえさんに招待されてやってきていた。それも俺じゃあなく承太郎さんの方を招待したので、余計に驚きだ。
「今日は、お忙しくなかったですか?」
「あぁ…。」
「なら良かったです。承太郎さん、お忙しそうですからね。」
「あぁ…。」
いつにも増して口数の減っている承太郎さんは、珍しく戸惑っている、のだろうか。さすがの承太郎さんも、なまえさんに急に砕けた態度を見せられれば戸惑いもするだろう。関係のない俺だって、戸惑ってる。
「なまえちゃん、お友達が来てるなら、もう上がってもいいわよ。」
「良いんですか?」
「ご覧の通り今はお店も暇だし、私一人で大丈夫よ。」
「じゃあ…お言葉に甘えて。」
そう言ってこちらを振り返るなまえさんを見て…承太郎さんは、目を細めた。まるで眩しいものを見るような、懐かしいものを見るような、そんな感じで。
「じゃあ…カフェにでも行きましょうか。」
「…そうだな。」
俺もなまえさんも置いて、一人さっさとその長い脚を動かして店の外へと出る承太郎さん。その後ろ姿をしばし眺めたなまえさんは一歩遅れて歩き出し、承太郎さんの手首を掴み取った。直後に流れた空気は、戸惑い。承太郎さんも、なまえさんも、そして二人の様子を眺めていた俺までも、だ。
「…ごめんなさい。いきなり失礼でしたね。…置いていかれるかと思って…。」
「……いや、そうだな、悪い。」
なんか…なんつーか…、俺、完全に蚊帳の外じゃあねぇか?今さらながら、承太郎さんに誘われるままにここに来た事を後悔した。