あの人ごと、私を愛して
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「……こんにちは。」
「…あぁ。」
目の前にいるのは、空条承太郎さん。
そして隣には仗助。
あの後も頭のモヤモヤが晴れなくて、私から1度会ってお話してみたいと呼び出してもらった。
さっきまでは何ともなかったのに、やっぱりこの人と会うと頭が痛む。
だけどせっかくこちらから呼び出したのにまた解散なんて、簡単にできないと、一旦は頭痛には気付かないふりをした。
しかし呼び出したは良いものの……何を話せば良いだろうか?
「あの…今日はありがとうございます。えぇと、空条さん。」
「…承太郎、で良い。」
「えっ。」
「……。」
「じゃあ…承太郎さん。」
「あぁ。」
無言が辛い。
仗助なんかはいつも延々とお喋りしてくれるので相槌を打ったり話を広げたりして会話が弾むのだが……承太郎さんはどうやら、口数が少ない、どころか無口な人らしい。
なにか話さなければとチラリと視線を承太郎さんへとさ迷わせると彼はジッとこちらを見つめていて、思わず心臓がドキリと大きく跳ねた。
「承太郎、さんは…杜王町へはお仕事でいらしたんですか?」
「いや…。ジジイの遺産の件で、ちょっとな。」
「そうなんですか。じゃあ親戚の方が杜王町にいらっしゃるんですね。」
「……。」
え、何この空気。
気まずさを漂わせ口を閉ざしてしまった承太郎さん。そしてチラチラと承太郎さんを見る仗助。私は何か、まずいことでも聞いてしまったのだろうか。
「えぇと、じゃあ…承太郎さん、花京院典明さんについて、なにか知っていたりしますか?」
ならば話題を変えようと一番聞きたかった事を承太郎さんへと聞いてみた。なんとなくだが、私が忘れてしまった花京院くんとの記憶を、この人は知っているのではないかと思ったからだ。
しかし気まずかった空気感はより一層強くなり、むしろ肌に刺さるような鋭さを孕んで…ひゅっと息が詰まる。
「あ、あの…、…ご、ごめんなさい…。」
「いや…。」
こんなの、何か知っていると言っているようなものじゃないか。それが分かっているのに、私にはつい先日出会ったばかりのこの空条承太郎さんに続きを聞く勇気は、ない。
花京院くん。
私の、大事な人。
私の、大好きな人。
私の、何よりも大切な人。
それなのに靄がかかって所々思い出せないのが、悔しくて悲しくて、苦しい。
ズキズキと、頭の痛みが増してくる気がする。
「…顔色が悪いぜ。話の続きは、また今度だ。」
「あ…、…すみません…。」
「良い。…君は記憶を、失ったんだってな。無理に思い出すもんじゃあねぇ。」
率直に、優しい人だな、と思った。
体が大きくて無表情で無口で、見かけはとても怖いけど内面は優しい人なのだと、この数分間という短い時間ではあったが確かに感じられた。
…さっきの空気感は、二度と味わいたくはないけど。
その晩、久しぶりに夢を見た。
私の数少ない記憶で、花京院くんの夢。
場所は日本ではないどこか。
大柄な男性達と共に、旅をしていた記憶。
「なまえさん。僕です。」
突然ホテルの私の部屋を訪ねてきた花京院くんが、背に隠していた紙袋から徐ろに包みをひとつ取り出して「お茶でもどうですか?」と柔らかい笑みで一言。慌てて脱ぎ散らかしていた靴や上着を隠して部屋へと招き入れたのが懐かしい。
私は、彼の蕩けるような優しい笑みが大好きだった。
「突然どうしたの?」
少し緊張しながら備え付けの椅子へと腰掛け尋ねると、彼は少し迷ったあと「少し…君の元気がない気がして…」と眉を下げた。
「気のせいだったらすみません。ただ、心配事があるなら、何か力になれないかと。」
花京院くんは、すごい。だって、会ってまだ1ヶ月しか経っていないのに人の機微に気がつくなんて、気遣いに長けた人だからできる事だ。
「…ごめんね、心配かけて。」
「やっぱり、何か心配事でも?」
「…大した事じゃ、ないの。」
「じゃあ、僕に教えてくれるかい?大した事じゃあ、ないんだろう?」
心配かけないように言った言葉だったが、しまった。言い方を間違えた。
チラリと花京院くんを盗み見ると目を細めて綺麗な笑みを浮かべていて、こちらが話し始めるのを待っているようだった。
「…心配事というか…少し、怖くなってきちゃって…。」
「…怖い、か…。そうだね…。」
花京院くんは私の返答を受け意外にもその表情に影を落とし、ぎゅっと拳を握った。この時初めて、花京院くんも私と同じように恐怖を感じていたのだと知った。
……何に対して恐怖を感じていたのかは、思い出せないが。
「…死ぬのが怖いというよりね…、…私達のうちの誰かが…死んでしまうんじゃないかって思うと、手や足が震えて……。」
「なまえさん…。」
「ごめんね…、こんな事聞いたら、花京院くんも不安になるよね…。」
「……僕の方こそ、ごめん、なまえさん…。正直言うと、僕は君に、すぐ日本へ帰って欲しい。」
「え……。」
彼から言われた言葉は意外なもので、咄嗟に言葉が出ずに返答に詰まった。だって、日本へ帰って欲しい、だなんて…。私と花京院くんの目的は、同じだと思っていたのに、と少なからずショックを受けた。
「ごめん…。本当はこんな事、君に言うつもりはなかったんだ。君も、きっと覚悟をしてここまで来ただろうからね。…確かに君の言う通り、この旅は誰が死んでもおかしくない。だけど僕は君に、死んで欲しくはないんだ。」
「…っ!」
「これはただの、僕の願望だから気にしないでくれ。ただ君が生き残るための励みになればと、思ってる。」
「っ、わ、…私も…!…花京院くんに、生き残って欲しい…!!」
もちろん、花京院くんだけじゃない。私も、全員、みんな、生き残って欲しい。
…みんなって、誰だっけ…?
そう思ったところで視界がぼやけて、夢から醒めるのだと悟った。