あの人ごと、私を愛して
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「はよーっす、なまえさん。」
「おはよう、仗助。お、今日から高校生かぁ。制服、よく似合ってるじゃん。」
1999年4月。
私が記憶を失ってしまってから、10年が経った。
一体私の身に何が起こったのかは分からないが、自分の名前と行くべき所、そして大切な人の記憶だけを残して、他は全て無くしてしまった。
大切な人とどこでどのようにして出会ったのかは、記憶が曖昧で思い出せない。
あの日、電車でふと気がついたらそうだった。そうなっていた。
お医者様が言うには余程忘れたい記憶だったようだが…私には何故かずっと、絶対に忘れてはならない記憶なのではないかというモヤモヤを胸に抱えていた。
大切な人──花京院くんは、どこにいるのだろうか。
考えても分からなくて、思い出せなくて。だけど杜王町は彼に関わりのある大事なピースな気がして、10年もの間離れられずにいる。
…何をどうしたらいいか分からず、私はただ無駄に、10年を過ごした。
「入学祝いにお花を贈りたいから、帰る時にまた寄ってね。」
「あざっす。じゃ、またあとで。」
今日はよく晴れた気持ちのいい日のはずだが、私は何故か、妙な胸騒ぎを感じていた。
まるで10年前に記憶を失った時のような、不安な気持ち。
「なまえさ〜ん。来たっすよ〜。」
「仗助。待ってたよ。いらっしゃ…、」
ドサッ
朝聞いたばかりの仗助の私を呼ぶ声に店先に視線を向けると、仗助の他に高身長の男性が1人。
その人を見た瞬間に体は強ばり硬直し、仗助に渡そうと用意していた花束はカウンターから地面へと音を立てて取り落としてしまった。
「ちょ、なまえさん、大丈夫すか?」
「なまえ…だと?」
知らない人。
初めて会った人のはずなのに、その日本人離れした高身長の男性から目が離せない。
顔が整っているからではない。
私はこの人を見て何故だか、恐怖を感じているからだ。…いや、恐怖とも少し違うかもしれない。恐怖心というよりもこれは……不安感だ。
私はもしかしたら、この人を知っている。…のかも、しれない。
「…う……、…頭、が…。」
頭が痛い。それに脳内がグルグルと不規則に回転しているような感覚がして、気持ち悪い。
「マジで大丈夫すか…!?承太郎さんスンマセン。今日は帰ってもらって良いっすか?」
「いや、しかし……。…いや、明日また改める。」
2人の声は、どこか遠くの方で聞こえる。私と二人の間に壁でもあるかのようにくぐもって聞こえてくる男性の声はやっぱり、知らないのに懐かしいような、変な感覚がして気持ち悪い。
背を向けて踵を返すその人は、最後に何かを言おうと1度振り返って、やっぱり言葉を飲み込んで今度こそ去っていった。
私も何かを言おうと口を開いたが、初対面の人を呼び止めるような何かがあるわけでもなく口を閉じた。
彼は、誰なのだろう。仗助が口にした"承太郎さん"という名前は、やはり聞いた事はないのに懐かしさを感じさせて、頭の中のモヤモヤが一層濃くなった。
「なまえさん…マジに大丈夫すか?病院とか…。」
「大丈夫…。病院に行っても、きっと何ともならないから…。」
未だズキズキと痛む頭を抑えて蹲っていた場所から移動しようと立ち上がると、今度は目眩を感じて咄嗟にカウンターに手をつく。体調は相変わらず、最悪だ。
「ごめん、仗助…。せっかく花束、用意したのに…。」
「……はぁ…。気にしなくていーっすよ、そんなの。今はなまえさんの体の方が大事っすよ。」
仗助は徐ろに立ち上がり、床に落ちた花弁の散ってしまった花束を拾い上げた。私が、仗助の入学祝いにと用意した物だ。
「ドラ」とかわいらしい掛け声と共に一瞬姿を現した仗助の分身─スタンドと呼ばれるものの拳が軽く生き残った花弁に触れると、床に散らばった花弁達はみるみるうちに宙へと浮き上がり……やがて、元通りの綺麗な花束へと跡形もなく戻っていった。
これが、仗助の持つスタンド能力。
一体どこでどう知ったのかは思い出せないが、私は10年前からその存在を知っていた。
私の数少ない記憶に残っている花京院くんも、スタンド使いだった。
……じゃあ、私もスタンド使い?そう思った事は何度もある。しかしその記憶を思い出そうとするとさっきみたいに頭の中がグルグルと回りだし気分が悪くなるので、そういうものだと受け入れる事で何とか自分を保ってきた。私はいつからか、思い出そうとするのをやめてしまっていた。
思い出したら自分がどうなってしまうのか、怖かったからだ。
今私の中にあるのは、ただ"花京院くんが好き"。それだけだ。