あの人ごと、私を愛して
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「今度、露伴くんの取材のお手伝いをしてきます。」
「……、…取材…?」
取材とは…何だ?
数日置きの食事の席で、俺となまえはすでに何気ない会話をするまでの仲になっていた。だから今の今まで気を抜いていて、なまえの言った言葉の意味が分からず首を傾げた。聞けば「2、3日ほど、海外に」とだけ返ってきて、余計にわけが分からなくなった。要約すると、"露伴と2人で"、"2、3日の間"、"海外に行く"という事か?…なぜ?
困惑して言葉に詰まっていると「ふふ…露伴くんは漫画家でしょう?漫画を描くには、取材はつきものですよ」と笑われてしまった。だから、その取材とやらは一体なんなんだ。というか、2人きりで海外、だと…!?到底見過ごせるものではない。が、自身にそれを止める権利は、果たしてあるのだろうか。
「海外って…どこに行くつもりなんだ?」
「えーっと…、…ふふ、ナイショです。気になりますか?」
「…まぁ、な。」
「お土産、買ってきますね。それを見て、どこに行ったか当ててください。」
「あぁ…分かった。」
しまった…。これではもう、止める事は叶わないではないか。と焦ったが、もはやあとの祭り。「いや、やっぱり行くな」とは、どうしても自身の口からは出てこない。ものすごく楽しみにしている様子の彼女を見てしまっては。
▽岸辺露伴視点
「露伴くん。ちょくちょく海外に行ってるって、ほんと?」
一体彼女の中で、人との距離感はどうなっているのか。そして彼女の中で僕はどういう位置付けなのか。
「たまにお話したいな」という社交辞令に「構わないぜ。僕は一人暮らしで仕事も好きな時にできるし、暇な時に来れば良い」と返したら3日に1回は我が家を訪問してくるようになった。杜王町に危機が迫っていると聞いたが、そんな中で彼女は暇すぎやしないだろうか?
「あぁ。漫画を描くために、取材でな。一体誰に聞いたんだ?」
「康一くんに。いいなぁ…日本とは違う風景を見られて、違うものを食べて、違う空気を感じられるなんて。ねぇ、次はどこに行く予定なの?」
「…インドだ。インドの中でもどこに行くかはまだ未定だが、2、3日は滞在するつもりだ。」
「へぇ…、インド…!ね、いつ行くの?私も着いてっちゃダメ?」
「はぁ?」
なぜ。そう思ったら反射で「はぁ?」が出てしまった。いやしかし、本当にどういう思考回路をしているんだ。
なぜと聞けば行きたいから、以外の言葉は出ないだろうが、だからといって着いていくなんて思考になるなんてコイツ…もしやバカか?僕は仕事で行くのに対しコイツは観光目的で着いてこようとしているだろうし、第一、コイツは女で僕は男。恋人でもない男女がなんで一緒に行けると思うのかマジに謎だ。
いや、待てよ…?一旦彼女の思考回路や距離感の異常さは置いておいて、己の記憶を読み返してみる。
彼女は確か10年前、エジプトへ向かう旅をしていた。その道中で、一度インドを経由してはいなかっただろうか?
彼女の記憶は最近読んだばかり。やはり、僕の記憶によればインドには行っている。ならば、記憶を取り戻すためのひとつの手段になり得るのかもしれない。
そう思ったらもう、俄然連れていく気になった。なぜなら、記憶喪失の人間が自力で記憶を取り戻す瞬間を、この目で見たいと思ってしまったからだ。そんなの、滅多に見られるものではない。
それが見られるというなら…まぁ、アリだ。彼女が記憶を取り戻すかどうかは別として、良い刺激にはなるだろう。
「考えが変わった。オーケーだ。君の旅費もこちらが支払う。」
「え…、それはさすがに申し訳ないよ。」
「バカか君は。経費だよ。仕事で行くんだからな。」
「そういう事なら…ありがとう、露伴くん。」
「その代わり、色々と手伝ってもらうから覚悟しておけよ。」
お互いにとってwin-winな取引になった…と思っていた。…この時は。
しかし後日この話をなまえさんから聞いたであろう承太郎さんからしつこく詰められた時は正直、めんどくせー、と思った。相変わらず承太郎さんは、なまえさんに対して過保護というかなんというか…。
「承太郎さん。あなたがなまえさんの事を好きなのは分かるが、今のなまえさんはあの頃のなまえさんじゃあない。今の彼女だって、彼女なりに考えて自分の力で生きてるんだ。それにまさか、僕から彼女を誘ったとでも思ってるんですか?だとしたら心外だな。この件は向こうから着いてくると言い出したんだぜ?」
「……なまえの方から、だと…?」
本当、心外だな。承太郎さんは僕の事をなんだと思っているんだ。
「別に、記憶に関する事はわざわざ話しませんよ。ただ単に、僕は仕事で、取材に行くだけだ。彼女は、その僕の手伝いをするだけ。旅費も全額負担するんだし、れっきとした"仕事"。…ですよね?」
「……余計な事は、話さないでくれ。読む事も禁止だ。」
「分かってますよ。」
「それと、危険な事には巻き込むな。」
「しつこいなぁ。承太郎さん、僕を何だと思ってるんです?」
「……くれぐれも、頼んだぜ。」
言い難い事は言わない彼の事だ。今の沈黙はつまり、言い難い事を僕に対して思ったという事。本当に、失礼な人だな。