答え合わせをしよう
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承太郎や仗助達が杜王町の殺人鬼の調査をしている間、僕となまえちゃんはというと飛行訓練に励んでいた。みなスタンド使いである殺人鬼を捕まえようと必死になって探しているというのに僕らは、僕らだけは、まるで別の世界線にいるかのようだった。
なまえちゃんは苦手を克服したばかりだというのに真剣にスタンド訓練に励んでいるが…僕はというとなんだか夢見心地であった。こんな事ではいけないと分かってはいるのだが、如何せん、彼女と一緒にいると緊張が解れてしまっていけない。
「わ……!っ、典くん!今の見てた!?」
彼女の興奮したような声に意識を戻すと、僅かに数センチ浮き上がった彼女の体がフワリと地面に降りるところで、一際大きな風を巻き起こし、消えた。
先日会得した攻撃技『大鎌』の時よりも幾分か時間が掛かってしまってはいるが、確実に成長しているのが見て取れる。教えている身としても、とても嬉しい。
「うん、見てたよ。君は本当に努力家だな。教えている僕も、鼻が高いよ。」
「本当?典くんが褒めてくれるなら、私もっと頑張れそう!」
「本当だよ。大鎌とは違って、これはもっと繊細なコントロールが必要になる。時間がかかるのは当たり前だ。それなのにこんなに早くできるなんて…君が頑張っている証拠だよ。」
「っ…!…典くん…、褒めるの上手だね…。」
「そうかな?…ふふ、君が本当に真剣に取り組んでいるから、つい過剰に褒めてしまうのかな。」
あまりに褒められすぎた彼女は、とうとう緩む口元を抑えきれずに少し唇を尖らせた。かわいいな…と思った瞬間、辺りに風が吹いて僕達2人を包み込み、グイ、と強い力で背中を押された。
ドン、と僕の胸にぶつかる、彼女の頭。それが視線のすぐ下に見えて、思わず心臓が音を立てた。
「あ、あれ…?ごめん典くん、わ、わざとじゃなくて…!!」
どうやら、僕達2人を風が包んでいるらしい。竜巻のような渦というより、球体のようになっているのが目で見て分かるほどの強い風だ。
「えぇと…、大丈夫かい?」
「典くん、痛かったりしない?怪我してない?苦しくない?と、止まらなくて…!」
「大丈夫。1回、落ち着こうか。」
一体何が原因かは分からないが、とにかく落ち着いてコントロールできれば自然と収まるはずだ。
ギュッと密着した彼女の体からはドキドキと心臓が脈打っているのが伝わってくる。実は僕もかなり心臓の鼓動が速まっているので、この分だと彼女にも伝わっている事だろう。恐らく彼女とは別の意味のドキドキだが。
とにかく安心させようと背中に腕を回してさすってあげると、一瞬風が揺れ強まったあと、少しずつ、本当に少しずつ、辺りを包む風の渦は薄くなっていく。
どれだけそうしていただろうか。
気づけば体の自由はきくし、僕らの間には隙間ができていて……やがて、完全に風は収まった。なまえちゃんの様子はどうだろうかと見下ろすが、俯いている上に背の低い彼女の表情は、僕からは見えなかった。
「落ち着いたね。大丈夫だったかい?君は最近スタンド使いになったばかりだからね。制御が上手くできないのは、仕方のない事だ。きっとこれからできるようになるから、気にしなくていい。」
「……。」
彼女を気遣う言葉をかけるとやっとなまえちゃんは顔を上げ、こちらを見上げるが…眉は下がり困ったような、しかし緊張しているような、そんな表情を浮かべている。そして開かれた口は少し迷ったように閉じて、また開いて。やがて意を決したように再び開かれた口から紡がれた言葉が僕の耳へと入ってくると、今度は僕の口から言葉を発する事ができなくなった。
「典くん…好きです。」
「っ……!!」
息を飲むという事はこういう事なのかと、初めて知った。
まさか、彼女の口からそういう言葉が出てくるなんて、思ってもみなかった。
なまえちゃんが、僕に向かって「好き」だなんて。
「ずっと…、ずっと好きだよ、典くん。子供の頃から、無視されてた時も、会えなかった10年の間も、ずっと。」
「…、っ……。」
そんなの、僕だってそうだ。
そう言えたなら、どれだけ良かっただろう。
なまえちゃんが僕を嫌っていない事は、最近の関わりの中で何となく分かっていた。だけどそれがまさか好きだったなんて……とてもじゃないが信じられない。
決して彼女を疑っているわけじゃあない。
まるで僕に都合のいい夢を見ているかのようで、到底信じられないのだ。
だって僕は、彼女に一生残る傷をつけた。
その後十何年も謝りもせず、その上ただ僕の勇気がなかったばっかりに彼女を無視し続けた。
そんな男を好きだなんて、おかしいじゃあないか。そうじゃなきゃ、彼女はとても趣味が悪い。もしくは、見る目がない。
「……ごめん。」
僕の口から絞り出した『ごめん』という言葉は、この前彼女に謝った時よりも遥かに弱々しく、それでいてしっかりと聞こえるように発したつもりだった。しかし彼女には届いていないのかキョトンとした顔をしていて、僕はもう一度「ごめんね、なまえちゃん」と今度は目を合わせて同じ言葉を伝えた。
「…どうして、謝るの?」
「僕は、君に好きになってもらえるような人間じゃあないんだよ。」
「?えぇと、ごめん。それはよく分からないや。」
「それは君が、とても純粋な心を持っているからだ。じゃなきゃ、自分の顔に一生残る傷をつけた奴を、許すなんて事できない。」
「典くん…難しい事言ってる…。私は、典くんが好き。ただそれだけだよ。」
「……それは、もう一度よく考えた方がいい。…今日は、ここまでにしよう。君も疲れただろう。」
何を言っても彼女には届かない気がして、強引に会話を終了させた。逃げだと分かってはいたが、今の僕にはこうする以外に、どうする事もできなかった。
純粋な彼女のそばは心地よくて、近づきすぎてしまったのかもしれない。