答え合わせをしよう
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「調子はどうだ、花京院。」
別行動を始めて数日経った頃、承太郎と進捗状況の共有のため杜王グランドホテルの彼の部屋で落ち合って開口一番に言われたのが、上記のセリフ。そこで前に話した時は彼女との関係がまだギクシャクしていたんだったと思い出しとりあえず「謝罪したよ」とだけ返すと長い間を開けたのちに「…生きててよかったな」と短い言葉で返された。
彼は僕の面倒くさい部分をよく分かっているから、僕の「謝罪した」という言葉の重みも分かっているし、彼の言った「生きててよかったな」の重みも分かる。
本当、あの時死んでいたら、死んでも死にきれなかっただろうと思う。生きていて良かった。本当に。
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「花京院。別に言いたくなきゃ言わなくても良いんだが…何か、気がかりな事でもあるのか?」
まだ17歳。DIOを倒すためにエジプトに向かう旅の最中の事だ。みんなの輪から外れてコーヒーを淹れながらボーッとしていた時、突然承太郎にそう声をかけられた。
最初は何の事か分からず「いや?今は特に何も」と答えたのだが「そうじゃあねぇ。そうだな…DIOとは関係ねぇ、他の事だ」と言われ考えるフリをして視線を逸らした。
この旅をしている間僕は、もしもこの旅で死んでしまったら、古い記憶の中のあの子に謝れないままなのか…と、少しの後悔を胸に抱いていた。人の変化に聡い承太郎にはどうやら、何かは分からないまでも僕の異変に気づかれていたらしい。
実際承太郎に肉の芽を取ってもらってから今まで、彼女に会いに行く時間なんて微塵もなかった。僕は承太郎の家で肉の芽を抜いてもらってそのまま、エジプトまでやってきたのだから。
「…昔…子供の頃に、顔に怪我をさせてしまった女の子がいてね…。当時、7歳か8歳だったかな。…まだ、謝れていないんだよ。情けない事にね…。」
「…そうか。」
「…もしも僕が死んでしまったら、彼女には一生謝れないって事だ。もしそうなったら、の話だけど…これはそういう旅だろう?」
「あぁ…そうだな。」
決して聞き上手というわけではない承太郎相手だというのに、不思議とスラスラと言葉が出てくる。返ってくる反応は僅かだが、独り言よりはいくらかマシだと、話を聞いてもらっている立場だというのに失礼な事を考えた。
「…そうだ。彼女に宛てた手紙を書くから、もしも僕が死んだ時は彼女に届けてくれないか?住所は思い出せないんだが、M県杜王町に住んでいるのは確かなんだ。」
「断る。」
「…ダメか…。いや、すまない。今のは忘れてくれ。」
「知らねぇ奴に遺書なんて渡されて、それも内容が一方的な謝罪ってのは気分悪ぃだろ。そんなくだらねぇ事を考えてる暇があるなら、何がなんでも生き残る方法を考えるんだな。」
「それは、そうだが…。ハァ…君はもう少し、言い方を何とかした方が良い。言いたい事は分かるが、君のその言い方は相手を怒らせるだけだぞ。」
「テメーも、その卑屈な考え方をどうにかしやがれ。最悪のケースを考えるのは結構だが、最良のケースも考えて置かねーと、いずれ潰れちまうぜ。」
本当、彼は言い方は最悪だが、いつも実に良い事を言う。言い方は、最悪だが。
「善処するよ。君も、気をつけてくれ。」
「…俺は別に気にしねぇから、構わねぇぜ。」
「君のソレで僕らも迷惑を被るから言っているんだが?」
「……善処するぜ。」
この会話の数日後の事だ。DIOと対峙し、僕が致命傷を負わされたのは。つい先日話していた事が現実になってしまったと、死を受け入れようと思った。しかし意識を失う寸前に過ぎったのはあの子が泣いている顔で、やっぱり死んでいる場合ではないと思い直した。内臓がこぼれ落ちぬよう死ぬ気でハイエロファントを出し触脚を巻き付けて、意識を失わぬよう必死に記憶の中の彼女の顔を思い出した。あの時ほど必死に生にしがみついたのは、後にも先にもないだろう。決して死ぬわけにはいかないと、死んでたまるかと、生きていつか彼女に会ったら、その時は必ず、「あの時はごめん」と伝えようと、ただそれだけを思った。
そうして僕は、何とか生き残ったのだ。
しかし。しかしだ。
何とか死に物狂いで生き延びたというのに僕は気を失ったまま数ヶ月を過ごし、目覚めたと思ってもベッドから動く事は叶わず、気づけば1年もの月日が流れていて。
間が空いてしまった事でやる気は削がれ勇気も失い、ただダラダラと時間を浪費する事しかできずに過ごしていた。承太郎はそんな僕を見て何も言わなかったが、彼はいつも何か僕に対して思っている事があるようなそんな表情で。僕が早く動けば良い方に転ぶか悪い方に転ぶかは分からないが何かは変わるという事は分かっていた。だけどそれでも僕は、動けなかったのだ。
もう少しで死ぬところを救ったのは、紛れもなく彼女だ。そんな女神と呼んでも遜色ない存在の彼女に謝罪をして、見放されるのが怖かった。そしてもしも恨まれていたら、せっかく助かった命を捨ててしまいたくなるのではないかとさえ思えて、怯えた。…そんなの全て、言い訳にしかならないが。
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「…あの時の僕も、救われただろうか。」
「…さぁな。テメーがそう思うなら、そうなんじゃあねぇか?」
自分がハイエロファントの事を話したから、怪我をさせてしまったと思っていたあの頃の臆病な僕。仲良くなったから話したのにあんな事になってしまって、それならば仲のいい友達なんて作らない方がいいと、いない方がいいと思っていたあの頃の僕に、"なまえちゃんとまた、仲良くなれたよ"と、笑顔で伝えてあげたい。そうすればきっと、もっと早くに彼女と再会できただろうから。
彼女は僕の大好きで大切な人で、女神だ。