答え合わせをしよう
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仗助達との恋愛トークはあれで終わりと思いきや「えっ、花京院さんの好きな人って、どんな人なんスか!?」とさらに盛り上がってしまって最終的には手がつけられなくなってしまって。結局「元気であたたかい笑顔の、守ってあげたくなるような人かな」とまで言わされてしまった。本当、若い子の勢いはすごい。
「…露伴、どうしてみょうじさんと一緒に?」
「ダメだったか?今日は花京院さんと特訓するっていうから、どういう特訓をするのか気になってついてきたんだが。」
彼女との特訓のため待ち合わせ場所へ行くと、なぜか彼女の隣には露伴の姿。せっかくの彼女との二人の時間だというのに邪魔された気がして、思わずムッとした表情を浮かべてしまった気がする。
「危ないからやめた方がいいって言ったんだけどね…ダメだった?」
不安そうにこちらの様子を伺う彼女は今日もかわいい。かわいいが。
彼女も僕との時間を楽しいと思っているものだと思っていたため、何となく裏切られた気分だ。なんて幼稚なのだろうと、自分でも思う。だけど彼女の前ではそれが上手く制御できなくて、それを彼女に気づかれぬようにと、プイと背を向けた。
「別に構わない。くれぐれも邪魔だけはしないでくれよ。」
「あぁ、感謝するよ。なまえさんも。」
歩きながら、思わずピク、と反応する。
今、露伴は"なまえさん"と、彼女の事を名前で呼ばなかったか?と。
仗助達だってそう呼んでいる。僕だって昔は名前で呼んでいた。今だって、言おうと思えば……、…いや、今の僕には、きっと無理だ。
それを自覚して、言いたい事をグッと飲み込んで、ただ自分の拳を握りしめた。
「あっ。」
彼女のそんな気の抜けた声の直後、ドシン、と重い音が響く。音の正体は、真っ二つに切れた一本の木が倒れた音。彼女が、スタンド能力でやったのだ。
「典くん!できたよ!」
「っ、あぁ、見てたよ。すごいじゃあないか!」
少しの間を置いてこちらを振り返った彼女はいつものあの明るい笑顔で、思わず反応が少し遅れてしまった。が、彼女の成長を間近で見られて、僕も嬉しい。いつもよりも表情が緩むのが分かる。彼女が心から喜んでいるから、余計にだ。
「…典くん、笑顔も素敵ね…。」
「っ、またそれか…?揶揄うのはやめてくれ。」
「揶揄ってなんか…、本当だよ?」
「…もし本当だとしても、これからは心の内に留めておいてくれると助かるよ…。」
「そう…分かった。」
じっと訝しげな表情でこちらを見つめる露伴の視線が痛い。こんなところを見られたくないから、彼女と二人が良かったんだ。
「それにしても、見事に真っ二つだな。電動ノコギリで切ったって、こんな綺麗には切れないぜ。」
「ほんと?典くんの教え方が上手だからかな。」
「いや、君が頑張ったからだよ。まさかこんなに早くここまでできるとは思わなかった。」
本当、飲み込みが早い。これができれば万が一誰かに襲われたとしても、ただでは済まないだろう。
「今度はこれが咄嗟に出るようになるまで、反復練習だ。…できるかい?」
「うん。そうだよね。繰り返さなきゃ、身につかないもんね。」
グッと両手を握り締める仕草がかわいくて微笑ましい気持ちになったが、露伴に何か言われぬようにと表情筋を引き締めた。
あぁ、かわいいなぁ。顔に傷があろうと、昔と何も変わらない、かわいい子。と、考えたところでハッとした。
もしかして彼女は、本当の本当に気にしていないのではないかと。
本音のところは分からないが、別に傷があろうがなかろうが彼女は彼女らしく振る舞い、人と付き合って生きてきたのではないかと。
もしそうだとしたら、彼女はやっぱり、すごい人だ。すごく、強い人。強くて、かっこいい人。それも僕よりも何倍も何十倍もだ。そんな彼女だから、スタンドの扱いが上手くパワーも充分にあるのではないだろうか。彼女の強さが、スタンドに現れている。
「…守ってあげたいだなんて、烏滸がましかったな…。」
思わず漏れた心の声は、露伴には届いてしまっただろうか。
僕は、一体どうしたいのだろうか。
ホテルの部屋に備え付けの浴槽に湯を張って、ゆっくりと体を沈める。湯船に浸かるのは久しぶりだ。強ばった体から徐々に力が抜けて、解れた頃にバスタブに背を預けた。
ここ杜王町で彼女に出会ったのは偶然だ。だがしかし、彼女が住んでいるかもしれないこの街に今まで十数年間も近寄らなかったというのに、今になって赴いたのは、果たして偶然だろうか?もちろん仕事で来ているとはいえ、答えは否だ。僕はここに向かう途中の船で、彼女の事を思い出していた。彼女は元気に暮らしているだろうかと、一目でいいから会いたいと、確かに思っていた。まさか港まで迎えに来ている中に彼女がいるとは、想定していなかったが。
「なまえちゃん…。」
かつての呼び方を口に出してみるとやっぱりどうしても気恥ずかしくて、ため息が出る。本当、意気地無し。いい歳した大人が一人の女の子の名前も呼びたいように呼べないなんて、目も当てられないじゃあないか。
それに…僕はまだ彼女に、きちんと謝れていないのだ。あの時、彼女の顔に怪我をさせてしまった事を。
無事に矢を回収して彼女に再会した時、元気そうな姿を見て安心し、すぐに帰ろうと思った。また僕は、彼女から逃げようと思っていたのだ。
しかしその後すぐに2本目の矢があると分かった時、彼女とまた顔を合わせなければならないという事実に気分が重くなりつつもホッとしたのも事実。当時はその気持ちが理解できなかったが恐らく、彼女との関われる時間ができた事が嬉しかったのだと思う。それに……やっぱり僕は、彼女にきちんと、謝りたいのだ。
ザバッ──
そうと決まれば、謝るだけ。彼女に誠心誠意あの時の事を謝れば良い。
謝ってその後どうなるかは分からないが、それはその時考えるしかない。
ここで謝らなければ、意気地無しのまま。
男が廃るぞ、花京院典明。
なんてらしくない事を考えつつも、やる事が分かっているだけでやる気が湧いてくる。やる気が無くならない内に会う約束を取り付けようと、濡れた頭を拭きながら携帯電話を探し彼女に1通のメールを送った。
『明日の夜は、二人で外で食事をしよう』と。