答え合わせをしよう
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「みょうじさん。杜王町が今、危険な場所だという事は知っているね?それを承知でここに住み続けるというのなら、君のスタンド能力を強化しなければならないと思うんだ。」
あれから約1週間。その間特に彼女と会う事もなく過ごしていたのだが…仗助や億泰の友人がこの街に潜む殺人鬼の存在を知って殺されてしまい、さらにそれがスタンド使いであるという事が分かり我々も帰るに帰れなくなった。
我々の知る限りの杜王町にいるスタンド使い全員を集めた際に彼女もその場にいたため、詳細は知っているはずだ。
昨日の夜承太郎に「戦う術のないスタンド使いは、自分の身くらいは守れるようにしておかねぇとな」と言われ同意はしたが…まさかそれを丸投げされるとは思ってもみなかった。いや、実際僕は真っ先に彼女の心配をしたし、特訓した時の成果を自分の目で確かめたいのも事実だ。本当、承太郎に良いように使われているようで些か腹立たしい。
「…そうだね。私は、この街に住んでいたい。だから、自分の身は自分で守らなきゃね。」
「……僕としても、そうしてもらえると助かるよ。」
「典くん、手伝ってくれる?」
「もちろん。君は誰かと戦うなんて事とは無縁だっただろうからね。スタンド使いになったのも最近のようだし、力になるよ。」
「……ふふ。」
不意に、今話している話題とは正反対の笑い声を漏らす彼女。見るとやっぱり嬉しそうに笑っていて、思わず首を傾げた。この子は本当に、今の状況を分かっているのだろうかと不安になってくる。
「ごめんね。…変わらないなぁと思って。典くん、昔からいつも私に優しかったから。」
「…今は命がかかってるんだから、当たり前だろう。」
「そうだね。ありがとう、典くん。」
戦いなんて、彼女には似合わない。彼女がスタンド使いになって嬉しい反面、こんな事になるならスタンド使いにならないでいてほしかったとも思う。彼女は例えハイエロファントグリーンが見えても見えなくとも、その存在を信じてくれる純粋な子なのだから。
「そういえば君、仕事は何をしてるんだい?会う度いつも外を出歩いているが…まさか無職とか?」
「…ふふっ。私ね、写真家なの。だから、時間はあるよ。」
「へぇ、そうなのか。じゃあ早速、今から特訓を始めても?」
「うん。よろしくお願いします。」
写真家か…。彼女の見ている世界には、興味がある。だがしかし、今はそんな事に構っている暇はない。時間があるというのならその時間みっちり特訓をし、一刻も早く強くなってもらわなくては。彼女の写真については、それからだ。
「君の鎌鼬のような風。あれをもっと1点に集めて、薄く平たくできないだろうか?電動の丸いノコギリのようなイメージで、薄く平たくすればもっと威力が上がると思うんだ。」
そう提案してから1時間。森の中の木々は表面には無数の引っかき傷がついてはいるが、どれも浅い傷ばかり。ふわふわした彼女は早くに音を上げるかと思いきや1時間経った今でも真剣な顔で特訓に励んでおり、その点は少し驚いている。
「みょうじさん、少し休憩しよう。何も今すぐできるようになれと言っているわけじゃあないんだ。焦らなくていい。」
「…うん、分かった。え、もうこんなに経ってたの?」
「すごい集中力だね。これなら、案外早く習得できるかもな。とは言っても、休息は大事だ。ちゃんと休むんだぞ。」
「うん。…なんだか典くん、かっこいいね。」
「はっ?」
彼女の何気ない一言に思わず心臓が跳ねて、その後も心臓がドキドキ音を立ててうるさい。今まで何人かの女性にもそういう事を言われた事はあるが、彼女からの言葉だと思うと嬉しさは格別で、それを僕のこの心臓の音が物語っている。
「典くん、大人になって本当にかっこよくなった。それに典くん、仕事できるでしょう?教え方も上手だし…、仕事ができる人って、素敵ね。」
「……そんなに褒めたって、何も出ないぞ。」
「…ふふっ、えー残念。帰りにれんが亭で典くんとケーキでも食べたかったな。」
なんだこの褒め殺し…と居た堪れない気分になってしまいついかわいくない事を口走ったら、予想に反して彼女の方がかわいいセリフを吐いて。気がついたら最近彼女と距離を置いていたのも忘れて「なんだ、それくらいなら構わないよ」と流されてしまっていた。僕のバカ。
「本当?嬉しい!」と花が咲くように笑う彼女は今日も眩しくて、かわいらしかった。
「花京院さんて、結婚とかしてるんスか?」
一人で街を歩いていると、先日彼女とケーキを食べたカフェれんが亭で屯している仗助と億泰に遭遇してしまい案の定「奢ってくれ」と集られ、しまいには上記のセリフだ。懐いてくれる若い子がかわいくてつい「仕方ないな」と同席してしまったが、その若い子のエネルギッシュさ、及び遠慮のなさにはさすがの僕も苦笑いを返すしかできなかった。僕も昔は、あんなだっただろうか?
「笑ってねーで教えてくださいよー。承太郎さんが結婚してて子供もいるってんで、俺ら驚いてるんスよ?」
「そーそー。あんなにイケメンなのに"女が騒ぐのは嫌いなんだ"とか言ってたのによー。」
「それはそうかも。僕も突然"結婚する"って聞かされて驚いた記憶があるよ。」
「そうなんスか!?信じられねーっスわ、承太郎さん…。で、花京院さんは?」
承太郎の話にすり替えようと思ったんだが…ダメか。内心頭を抑えつつ、紅茶を一口。この前も思ったが、ここの紅茶は香りが良い。ケーキも絶品だったし、この店はもう少し価格を上げていいのではないかと思う。
それで、僕の恋愛事情、だったっけ…。
「結婚は、してないよ。そもそも、するつもりはない。」
「えぇっ!そうなんスか!?なんでまた!」
「別に…結婚したいと思えるような人がいないだけだよ。それに、何も結婚イコール幸せとは限らないしね。」
「へぇー、なんか、難しいっスね。」
「大人になったら俺らにも分かるのかァ…?」
上っ面の言葉を並べてしまって、少しばかり罪悪感を抱く。結婚したいと思える人がいないだなんて、嘘だ。僕は叶う事ならなまえちゃんと、一緒になりたい。だけどそれをできないのは、僕には勇気と資格がないからだ。それに彼女からしてみれば僕は彼女に一生残る傷跡をつけた男なわけで。そんな彼女に一生謝り続けるのが、僕ができる唯一の彼女への関わり方だと、思っている。我ながら卑屈な考え方だが、彼女と一緒に幸せになりたいだなんて、烏滸がましいにも程がある。ましてや彼女を差し置いて僕が幸せになるのは…もっとない。考えられる中で一番、最低最悪の選択である事は確か。
「彼女とか、好きな人はいないんスか?」
最後にこれだけでもと仗助が口にした質問には少し悩んだあと「好きな子なら、いるよ」と、正直に答えた。