答え合わせをしよう
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「それで走って逃げて来たっていうのか?花京院。」
「……あぁ、そうだよ。本当に僕は、意気地無しだ…。」
もしも…もしも彼女にまた会えたら、その時は謝りたいと思っていた。怪我をさせた事も、その後もずっと僕に話しかけてくれていたのに、無視し続けていた事も、全部。
それなのに今日再会した彼女はそんなのまるで気にしていなくて、むしろ"見慣れた"とまで言っていて、あの傷跡に囚われているのは僕だけなのだと思ったら、言おうと思った「ごめん」の一言がどうしても出てこなくて、僕は承太郎の言う通り、走って彼女の前から逃げ出した。
僕が逃げ帰った事で結局、新たなスタンド使いである彼女の能力や名前すらまともに聞けなくて、もう27歳の大人だというのに情けなくて仕方がない。
「みょうじなまえ、27歳。風を操るスタンド使いだそうだぜ。」
「…なぜ、承太郎がそれを…。」
「仗助からメールが入っていた。テメーが走って帰っちまったから、情報だけでも、ってな。」
「うっ…、明日から、顔を合わせるのが気まずいな…。」
「…らしくねぇな、花京院。」
僕らしい?僕らしいって、何だ?
普段は公私混同はせず、淡々と仕事をこなしているが…それの事を言っているのであれば、確かにそれは僕らしくはないだろう。
しかしそれは今まで、彼女と関わりがなかったからであって…、彼女の事はずっと、気にかかっていたのだ。それこそ、僕が転校してから今日まで、ずっと。
「そのみょうじって奴の事は頼んだぜ、花京院。」
「は…、君は鬼か、承太郎。」
「まさかここに滞在中、ずっと逃げ回るつもりか?」
「……分かったよ。公私混同はしない。気をつける。」
「あぁ、頼んだぜ。」
不器用な承太郎なりの、気遣いだろうか。今の僕には到底お節介にしかなり得ないが、無碍にもできないのが困りものだ。
「みょうじさん。昨日はごめんね。今日こそはスタンド能力について教えてくれると助かるんだけど。」
翌日。重い腰を上げて仗助に連絡を取り彼女を呼び出して昨日ぶりの再会。みょうじさん、なんて呼び方はいかにも他人行儀すぎるしその後に続いた言葉だって昨日の僕の行いを棚に上げているようで、公私混同はしないとは言ったがあまりに酷すぎてもはや笑えてくるほどだ。
しかし彼女はそんな僕の態度に気分を害するどころか「うん。よろしくね」と相変わらずの笑顔で、それがより僕をひどく醜いものだと感じさせた。
彼女は今も昔も、光そのものだ。
「風を操る能力という事は、承太郎づてに昨日仗助から聞いている。具体的にどんな事ができるのか、実際に見せてほしいんだ。」
「えっ…と…。」
「大丈夫っスよ、なまえさん。花京院さんはめちゃめちゃ強いし、もし万が一怪我したとしても、俺が治すんで!」
随分と、仗助と仲が良い。
不安そうに顔色を伺ったのは僕ではなく仗助の方で。付き合いの長さを考えると当たり前なのだがそれが何となく嫌で、思わずフイと視線を逸らした。公私混同はしないと承太郎に誓ったじゃあないかと、自分に言い聞かせた。
「じゃあ…、やってみるね。」
そう言って距離を取る彼女に視線を戻すと、薄い緑色のスタンドが彼女のそばに立っているのが目に止まった。風を操るだけあって大きな扇子を持っていて、それがバサッと開かれると同時に突風が襲ってきた。
「なるほどね…鎌鼬か…。僕には気にせず、続けてくれ。」
ピッ、ピッ、と腹や肌が切れ、血が流れる。それを見た彼女は一瞬攻撃の手を緩めようとしたが、僕の言葉を聞いてパワーを上げた。むしろ先程よりも強い風で、吹き飛ばされまいと僕もスタンドを出して近くの電柱へと触脚を絡ませた。
「エメラルドスプラッシュ!」
こちらからも攻撃をしてみるが、今までこちらに向かっていた空気の流れが変わり今度は彼女の周りに竜巻のような空気の渦が作られ、エメラルドスプラッシュは全て、見事に弾き返された。
パワーは充分あるし、防御もできる。
僕としてはあまり喜ばしくない事ではあるが、彼女の能力はとても強いと、認めざるを得なかった。
「ありがとう、みょうじさん。他にも何か、できる事はあるかい?」
仗助に傷を治してもらいながら彼女に声をかけると、徐々に彼女を取り巻く竜巻は小さくなり、やがて消えた。彼女のスタンド能力は色々と応用が利きそうだし試したい事もあるが…一旦はここまでで大丈夫だろう。
「あっ、うん。えぇとね、風の力で浮けるんじゃないかって思ってるんだけど、その、高いところが怖くって、勇気が出なくて。」
その言葉を聞いて、心臓がドキリと嫌な音を立てた。高いところが怖いって、それは、そんなの、僕のせいじゃあないかと思ったからだ。
彼女は当時6歳か7歳の小さい体で、自分の意思とは関係なく、高いところから落とされた。それがトラウマになっているかもしれないなんて、安易に想像できる。
彼女の事がずっと気がかりだったという割りにはそういうところまで考えが及んでいない自分に、無性に腹が立った。
「…無理はしなくていい。」
違うだろう。口からはズレた発言ばかりが飛び出してきて、自己嫌悪に溺れそうだ。それでも彼女はホッとしたような表情を浮かべていて、なんていい子なのだろうと、また申し訳なく思った。
「あの、典くんのスタンド…。」
「あ、あぁ。ハイエロファントグリーンっていうんだ。」
「ハイエロファント…。やっと見られて、嬉しい…!あの時は、見えなかったから…!ねぇ典くん、今日このあと時間ある?典くんと話したい事、たくさんあるの!」
我慢ならずといった様子で瞳をキラキラさせ僕の手を取る彼女に、思わずたじろいだ。彼女はなぜそこまでして、僕に構うのだろう。僕にあんなに酷い事をされたのにも関わらず、こうして僕に眩しいほどの笑顔を向けられるのだろう。僕には彼女が、ちっとも分からない。
「で、断って逃げてきたのか?」
「…君の言い方はいつもストレートだな…。何も間違ってはいないが。」
今日も今日とて、承太郎に報告だ。別にプライベートな事まで話さなくとも良かったが、承太郎の誘導尋問によりあれよあれよという間に話してしまい、結局今日も情けない失態を自ら話す羽目になってしまった。いつもは口下手で言葉足らずなのにこういう時は口が上手いというかなんというか。
「それで、彼女のスタンド能力を調べて、どうするつもりだ?」
「そうだな…矢の捜索に協力してもらえると助かるんだが。」
「はぁ…そう言うと思った。言っとくが、僕は反対だからな。彼女はスタンド使いではあるが、ただの一般人なんだ。僕らと違って、誰かと戦うなんて事とは無縁の、か弱い女の子なんだよ。」
「それは分かっている。なにも俺らと同じように動けと言うつもりはない。ただ、たまに手を貸してもらえたら良いなと。」
承太郎は、仗助や億泰達にも積極的に協力を仰いでいる節がある。僕としてはそれすらも反対だったのだが、どうしてか毎回良い結果を持ち帰ってくるので言うに言えずにいる状況だ。ましてや仗助や億泰と違って、今度は女性に協力を仰ぐなんて…承太郎の感性は、到底理解できそうにない。