答え合わせをしよう
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「無理言って来てもらって、ごめんね。ありがとう。」
「いや…、承太郎の言う通り、今は急ぎの仕事はないんだ。だから気にするな。」
申し訳なさそうに眉を下げて謝罪する彼女がなんだかとても可哀想で、咄嗟に優しい言葉が口から出てきた。これで終わりにしようと思っているのに優しくするなんて、なんて矛盾しているのだろうか。
「この前は、泣いちゃってごめんなさい…。」
「…君が謝る事じゃあない。第一君が泣いたのは、僕のせいだろう。」
「違うの…!あれは典くんが悪いとかじゃなくて、私の心が、弱かったから…!」
「いや、あれは僕が悪い。それでいいんだよ、なまえちゃん。」
「っ、…本当に、違うの…。典くん…私に甘すぎるよ。でも典くんの…、そういうところが好きなの…。」
「…っ…!」
思いもよらない、なまえちゃんからの2度目の告白。どうやらそのために、僕を呼び出したらしい。
いま僕は、どんな顔をしているだろうか。時間を置いてもやっぱり僕が好きだと言う言葉を聞いて、嬉しい。けれどもそれに応える勇気はなく、困っているのも確か。それに断らなきゃいけなくて、悲しい気持ちだってある。そして…彼女を幸せにしてやるという気概のない自分自身に、腹が立つ。意気地無し。
なんと言っていいか、分からない。分からないのに、僕の口は勝手に開いて、言葉を並べ始めた。
「僕も…、君の事が好きだよ。可能ならば、ずっと君と一緒にいたい。」
違う。そんなの、言いたくない。思っていたとしても、彼女に伝えるつもりはないんだ!
「本当…?」
「うん。あの頃から…杜王町で一番仲の良い友達だった時からずっと、僕は君だけを想っていた。ずっと、好きだったんだ。」
「でも…、じゃあ、どうして?どうしてあの時、私を無視したり、今も私の事を拒むの…?」
嫌だ…、ダメだ、やめてくれ。こんなの、僕の思い描いていた筋書きと違う!なんなんだ、これは…!となまえちゃんから意識を逸らした瞬間、ひとつ頭に思い浮かんだ。…露伴だ。きっと露伴はあの時、僕に自分の意思とは関係ない言葉を発する何かを書き込んだに違いない。じゃなきゃこんなの、僕が言うわけないだろ!
「僕から見た君は、純粋で真っ白で…とても高潔な存在なんだ。そんな君に僕が触れてしまったら、きっと君を穢してしまうだろう。それが怖くて、嫌なんだ。」
「…、えぇと…私、そんなに綺麗な人間じゃないよ…?みんなと変わらないよ。」
「君はそう言うだろうね…。でもね、僕から見る君は、そうなんだよ。」
「……典くん。私ね…典くんと同じ景色が見たかったの。あの時は見えなかったハイエロファント・グリーンが見えて、私、嬉しかったの。」
俯きながら、なまえちゃんは一歩、また一歩とこちらへ近づいてきて、僕の手を取る。久しぶりに触れた彼女の手は僕のものより小さく、温かかった。
「典くんがいなくなってからも、典くんの事、忘れなかったよ。ずっと好きだった。告白された時は、いつか絶対に典くんに会えるからって、全部断ったの。…それくらい、ずっと典くんの事が好き。それだけは典くんに、ちゃんと、正しく、伝わって欲しいの…。」
彼女の手によって、僕の手のひらが彼女の頬を包む。目尻から零れる涙が僕の手を濡らして、キラキラと輝いている。思わず体が勝手に動いて、彼女の頬に残る傷跡を撫でた。
あぁ、本当に…かわいいなぁ…。それに、とても綺麗だ。
「僕だって……!…僕だって、ずっと君が好きだった!小学生の時も、中学だって高校だって…大人になってからも!ずっと君だけを想って、君だけを見ていたんだ…!!…っ他の誰かになんて、渡したくないッ…!!」
あーあ、もうダメだ。口から出てくる言葉は制御は効かないし、情けなくも涙だって出てきてしまった。それを見られたくなくて、ギュッと彼女を抱きしめてしまって……もう、全部全部台無しだ。
「典くん…、きっとこれは運命だから…、もう諦めて?諦めて、私を受け入れて…?」
彼女の言う言葉はまるで悪魔の囁きのようで、甘すぎる誘惑を前に、僕はとうとう、耐えきれなかった。
「なまえちゃん…。僕が君のそばにいて…君に触れても……キスをしても、許してくれるかい?」
至近距離で見つめる彼女の瞳に映る自分自身の顔が情けなくて、一度ぎゅ、と目を閉じて、無理やり笑顔に変えた。
「うん、…むしろ全部、典くんにしてほしい。典くん…、私と、今までできなかった事、いっぱいしようね。」
そのセリフを聞いた瞬間体中が熱くなって頭に血が上って、気がついたら唇が重なっていて。今度は幸せすぎて意識が飛びそうになった。
なんだ、これ。ホテルを出る時には想像もつかなかった結末だが、こんなにも幸福感に満たされる事になるなんて…これではもう、僕は絶対になまえちゃんを手放せなくなってしまった。さようなら、過去の僕。頑張れ、未来の僕。
「典くん!見て!飛べたよ!」
雲ひとつないよく晴れた日の昼間。無理やり承太郎へ投げたなまえちゃんとの特訓を再開して1時間と少し。なまえちゃんは風の渦を纏いながら、ようやく空へと一人、浮き上がった。下から見上げる僕には眩しくて、目を細めてその様子を見上げた。
「ふふ…やっぱり、君ならできると信じてたよ…。」
もしかしたらなまえちゃんは、その昔、天使だったのかもしれない。なんて自分でもバカだなと思いつつも、疑わずにはいられないほど、彼女はかわいくて、とても神聖なものに見えた。
『答え合わせをしよう』
-完-
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