答え合わせをしよう
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「承太郎!!…、えっ、なまえちゃん…!?」
最早僕が突撃してくる事が分かっていたのか、鍵のかかっていない承太郎の部屋のドアを勢いよく開け放ち中へと入ると、そこに居たのは承太郎と、露伴と、そしてなまえちゃんの3人であった。
承太郎からのメールには『露伴先生とみょうじが敵スタンド使いに遭遇したらしい』と書かれていたため詳細を聞きに部屋に直行してきたのだが…。…やられた。鍵が開いていたという事は、承太郎は無理やりにでも僕となまえちゃんを会わせようとしたに違いないのだ。現にこちらをチラリと見た承太郎は、口の端を僅かに上げているのが証拠だ。
「典くん…。久しぶりだね。元気だった?」
なまえちゃんは突然部屋に入ってきた僕を見て目を丸くさせていたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に変わった。本当に、いつも通りの笑顔だ。それを見ただけで焦っていた気持ちは和らいだし、怪我をしていなくてホッとした。そして同時に、なまえちゃんに対して罪悪感を抱いた。学生の時と同じように、僕は彼女を避けているのだから。彼女はあの時と同じように、何も気にしていないかのように僕に接してくれているのに。
「僕は……大丈夫だから、心配しないで。」
あの時のように、無視する事はできない。したくない。そんな事したら、謝罪した意味がなくなってしまう。そしてそんな事してしまったらきっと、以前にも増して酷い関係になる事は目に見えている。
精一杯の笑顔でした返事は、相当酷いものだったらしい。なまえちゃんの奥に見えた露伴は顰めっ面を僕に向けていたし、承太郎の視線にも呆れが含まれていた。
しかし…久しぶりに近くで見るなまえちゃんはやっぱりかわいくて。僕よりも低い位置からこちらを見上げて僅かに首を傾げる仕草は破壊力のあるかわいさだ。…首を傾げる?と思ってから気づいた。しまった…なまえちゃんを見すぎた。
「…コホン。…なまえちゃんも露伴も、怪我は無いようで安心したよ。」
「花京院さん。僕は手足の自由を奪われたんだが?」
「そうなのか?まぁ、こうしてここに来たって事は、もう治っているんだろう?良かったな。」
「アンタ、本当に良い性格してるよな。それにとても面倒臭いし。絶対に友達にはなりたくないタイプだ。」
「奇遇だな、僕もだよ。」
露伴とは友達になりたくはないし、僕も僕自身と友達になんて、死んでもごめんだ。その両方の意味で言った。
「治ったって事は、そのスタンド使いは倒したんだな。なら、僕はもう失礼するよ。」
この場に留まり続ける勇気はなくて、自然と体は回れ右をしようとする。しかしそれを逃がさないのが、承太郎と露伴だ。承太郎が「みょうじを家まで送ってやれ」と無責任な事を言い出し「そうだな。なまえさんも、花京院さんなら安心だろ?」と援護射撃を撃ってきて、タチが悪いったらない。こういう時だけ息を合わせるんじゃあないよ、全く。
「えぇと…とても助かるけど…バスで帰りますよ、私。」
「何が起こるか分からねぇんだ。一人で出歩くのは危険だぜ。」
「でも…、私も、頑張って特訓してますし。」
「……いいよ、なまえちゃん。行こうか。」
「…典くん…、いいの?」
この二人の元になまえちゃんを残すのもなんだか可哀想だと、後先考えずに了承の言葉を口にしていた。しかし、口から出た言葉を撤回する事もできず…結局は承太郎と露伴の思惑通り、なまえちゃんを自宅まで送り届ける羽目になった。…最悪だ。
SPW財団の車に乗り込んで発進の準備を終えたところで「フゥ…」と思わずため息が漏れて、なまえちゃんが「ごめんね…」と謝るので慌てて否定をした。悪いのはあの二人で、なまえちゃんではないのだと。
「あ…、ねぇ典くん。チェリーは今も好き?」
「チェリー?うん、まぁ好きだよ。」
なまえちゃんにナビの設定を任せて緩やかに車を発進させ走り出したところで、彼女は思い出したかのように口を開いた。スタンド関連の事でもなく最近の事でもなく唐突な話題で、思わず以前のように返答してしまった。
「あのね、数年前からさくらんぼ農家さんが杜王町に住んでてね、さくらんぼ狩りができるの。そういえば典くん、さくらんぼとかチェリーが好きだったなと思って。ねぇ、今度一緒に行こうよ。」
「……。」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「っ、…そうじゃあ、ない…。」
運転中で見えないが、笑顔で話し出した彼女の声色がしょんぼりとしたものに変わって、咄嗟に気の利いた返しができなかった自分を恨んだ。こんな風になるなら送るなんて簡単に言うべきじゃなかったのに、それでもこうして出てきたのは…、僕が、彼女に会いたかったからだ。
「なまえちゃん…、…君には僕なんかよりも、もっと素敵な、君に見合った人がいいと思うんだ。」
「……、えぇ、と…。」
「君はかわいい。それに、とても純粋で気立ても良くて、愛嬌もある。一方で僕は…卑屈で面倒臭くて、臆病な男だ。君の隣にいていい人間じゃあない。」
「…典くん…、色々と言いたい事はあるけど…そうだなぁ…。…ねぇ、典くんは、私の事が嫌い?」
なまえちゃんのストレートな物言いに、後続車がない事をいい事にキッ、と車を停車させて彼女を見る。そうして見えた彼女は眉を下げて不安そうな…困ったような、そんな表情を浮かべていてきゅ、と口を結んだ。
「嫌いなわけ……ないだろう…っ!」
それだけ絞り出して、再度車を発進させる。
僕がなまえちゃんを嫌いかだって?そんなわけない。むしろ好きだから、大切だからこうして悩んでいるのに。しかし付き合う気もないのに「好きだよ」なんて言えるはずもなく、車内には沈黙が流れた。本当はすぐにでも抱きしめて、「大好きだよ、なまえちゃん」と言いたいのに……僕にはどうしても、それができないのだ。