答え合わせをしよう
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「随分と派手にやられたな、承太郎。」
杜王町の殺人鬼─吉良吉影と対峙したと連絡を受け駆けつけると、現場は酷い有様であった。
敵のスタンド能力の詳細はまだ聞いてはいないが、承太郎も康一くんも瀕死の怪我を追っているのを見るに中々に厄介で汎用性の高い能力である事が伺える。そうでなければ、承太郎はここまでの怪我を負わされる事はないはずなのだ。
運転をしながらも、頭は吉良吉影の事を考える。
「仗助が向かって来ていなければ、2人ともやられていたぜ…。結局、逃がしちまったがな…。」
「しかし、敵のスタンド能力は分かったんだろう?性別や体格なんかも。犠牲を出さずに手掛かりが増えただけ、良かったじゃあないか。」
承太郎の言った通り、仗助ありきのこの結果で済んだ。その点はこちらの方がいくらか有利かもしれないな…なんて、およそ僕らしくない思考が頭を過ぎる。仗助はスタンド能力を持っているだけで、ただの高校生だ。それを本人が望んでいるかも分からないのに、こうして戦場へと引っ張り出すなんて…やっぱり気分のいいものではない。…とはいえ仗助に助けられているのは事実なのだ。
そして、いつなんどきなまえちゃんがこういう目に遭わされるかも分からないのだ。
「…気になるなら、会いに行ったらどうだ?」
「!」
表情に出てしまっていただろうか。
思わずボーッと遠くを見ていた瞳を承太郎へと向け、そのまま睨みつけた。
「なんの事かな?」
キッ、といつもよりも乱雑に車を停め、ドアを開け車から降りる。その僕の様子を見た承太郎はため息をつきながらも、ワンテンポ遅れて僕のあとを着いてくる。と、携帯が着信を告げた。僕のではない。承太郎のだ。
「…あぁ、みょうじか。何か用か?」
「!!」
『なまえちゃんから!?』と思わず大声を出しそうになるのを飲み込んで、勢いよく振り返る。目が合った承太郎はフイと視線を逸らして、なんだかとても、腹立たしい。
承太郎の奴、いつの間になまえちゃんの連絡先を…!と頭に血が上りかけたが、この前特訓を承太郎に丸投げしたので恐らくその時だろう。過去の自分の行動が悔やまれる。
「あぁ、俺は無事だ。しばらくは向こうも派手な動きはしないだろうが…君も気をつけるんだな。…あぁ、…花京院?今はいないが…、あぁ、伝えとくぜ。じゃあな。」
「……。」
電話を切り携帯をポケットへ仕舞いこちらを見る承太郎を、僕は黙って、ただ睨みつけた。羨ましかった。僕だって彼女の連絡先くらい知っているし、何度も電話で話した事だってある。しかし今彼女から僕に電話がかかってきたからといって、僕が電話を取る事はない。取れない。取れるわけがない。だから、羨ましいのだ。なんの制約もなしに自由に連絡を取れる、承太郎が。制約なんて自分自身で課した枷なのだが、それすらも嫌になる。本当、僕はどうしようもなく面倒臭い。
「花京院も気をつけろと、言っていたぜ。」
「っ、…なまえちゃんは、そんな言い方しない。」
きっと「典くんは強いから心配ないかもしれないけど…くれぐれも気をつけてと、伝えてください」辺りだ。
「ハァ…、…そうかよ。」
呆れたようにため息をつき、ヒラヒラと手を振って承太郎は去っていってしまった。イライラする。承太郎に、と言いたいが、自分の行動全てにイライラする。本当、面倒臭い奴。何もかもが、上手くいかない。
「おい!なまえちゃんまで吉良吉影の自宅に連れていくなんて、何考えてんるだ!聞いてないぞ!」
翌日、吉良吉影の自宅に手がかりを探しに行くと言う承太郎を送り出したのだが…あろう事か仗助や康一くんだけでなくなまえちゃんまで連れていったと聞き、仕事をほっぽり出して承太郎のホテルの部屋の扉を叩いた。今回ばかりは本当に、信じられない。
しかし「みょうじの処遇については、テメーに一任されたはずだが?」と凄まれ、僕の口からは次の言葉は出てこなくなった。確かに、僕はなまえちゃんの特訓を承太郎に丸投げして、逃げている。しかしそれはそれであって、彼女を危険な事に巻き込む事は許さない。…なんて、僕に言う資格はないのかもしれない。
「…俺は始めから、この街のスタンド使い全員に協力を仰ぐつもりで関わっている。それはテメーも承知の上じゃあなかったか?」
「…承知した覚えはない。反対してただろ。」
「ではなぜ、みょうじの特訓を引き受けた。まさかみょうじと仲良しこよしがしたくて引き受けたってのか?」
「そんなわけないだろ。なまえちゃんが…自分の身を守る術を持つのは、いい事だと思ったからだ。」
「俺は、敵を知る事も大事だと思うがな。吉良吉影がどんなにヤバい奴なのか、事前に知っておかねーと咄嗟には動けねぇと思うぜ。今までスタンド使いと戦った事があるのは、俺らだけなんだぜ、花京院。」
言われてみればそうかもしれない…と、承太郎の言葉に納得してしまった。僕らの当たり前は、みんなの当たり前じゃない。僕らが敵のスタンド使いと戦う術や勘を持っているのは、生まれながらそうなのではなくそういう環境に身を置いた事があったからだ。殺すか死ぬかのギリギリのやり取りを、僕や承太郎は経験した事があるというだけ。どうやら僕は、そんな事も忘れていたらしい。
「それでもどうしてもみょうじが心配なら、最後までテメーで面倒見るんだな。」
「君の言い方はいちいち癪に障るな。…ハァ…、分かったよ。怪我をしないよう、くれぐれも気をつけてくれ。」
「…意外だな。てっきりみょうじの事は自分で守ると言うのかと思ったぜ。」
「…できる事なら、そうしたいさ。だけどダメなんだ。彼女と関わるときっと、また欲が出てきてしまう。それは僕の本意じゃあない。……なんだよ、その顔は。僕だって、面倒臭い性格だって思ってるよ!でも仕方ないじゃあないか!」
「…何も言ってねぇぜ。」
「顔に出てるんだよ!」
顔に出してそれを隠そうともしない承太郎に、面倒臭い自分に、全てに腹が立ってとうとう大声を張り上げる。こんな事で大声を出している自分も恥ずかしくて、情けなくて、余計に腹が立つ。
「はぁ…。」
一体どうして、こんな事になってしまったんだ…。