答え合わせをしよう
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「一体何があったらそんな風になるんだ…花京院。」
「……うるさいな。彼女が僕を好きだとか言い出したんだよ…。」
ズンと沈んだ気持ちのままホテルへ向かうと、用事がある時は中々捕まらないというのにこういう時だけ姿を現す男─承太郎にバッタリ出くわして現在に至る。顔を合わせた途端に承太郎は面倒くさいという顔をしながらも僕の腕を掴み問答無用で僕を自身の部屋へと入れた。全く、こういうのには目敏く気づくんだから腹が立つ。
「?それは、テメーとしても嬉しいんじゃあねぇのか?」
あくまでそれは様子の変化にいち早く気づくというだけで。人の心情だったりはまるで汲み取れないのが空条承太郎という男なのだ。思わず、盛大なため息が漏れる。
「確かに僕はなまえちゃんが好きだし、守りたいと思ってる。だから正直、嬉しかったさ。でも、万が一本当に彼女が僕の事を好いていてくれているとして、両想いだから付き合わなきゃいけないなんて、決まりはないはずだ。」
「それはそうだが…テメーはなぜそんなに、自分を不幸にしたがる。」
「…別に僕だって、不幸になりたいわけじゃあない。ただ彼女に負い目を感じているだけだ。彼女には僕なんかじゃあなく、もっと良い奴と一緒に幸せになって欲しいんだよ。」
「へぇ…それでテメーは、ソイツを許せるって言うのか?テメーには、何がなんでも自分が幸せにしてやるっていう気概も勇気もないってわけだ。」
「なん、っ…!!…承太郎ッ!」
売り言葉に買い言葉。実にわかり易い煽り文句だとは分かっていながらも、大声を出さずにはいられなかった。僕よりも一回りも二回りも大きい彼の胸ぐらを掴んだというのに、抵抗する事なく承太郎は背中を壁へとぶつけて真っ直ぐとこちらを見据えていて、それすらも腹立たしい。
「テメーは……何のためにあの時生き残ったんだ?ただ謝罪をするためか?それならあの時、遺書でも書いておけば事足りたんじゃあねぇのか?そいつは、死んでいるのと同じだぜ。」
「ッ…!!!」
「生きようと思ったのは、確かに謝らなきゃ気が済まねぇからだったかもしれんが…生き延びたあとはどうだ。なぁ、花京院?」
「……っ、…僕らの事は、放っといてくれ!」
掴んでいた服を乱雑に離して、そのまま承太郎の部屋を出る。ドアが閉まる直前に聞こえた「俺はテメーにも、幸せになって欲しいんだがな…」という呟きはドアの閉まる音で聞こえなかったフリをして、行く宛てもなくホテルから飛び出した。
今はとにかく、1人になりたい。僕を取り巻く全てから、逃げ出したかった。
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「ねぇ、典くん。」
「……。」
またか。またあの子──なまえちゃんか。
小学生の頃に自身のトモダチが彼女に怪我を負わせてから、僕は彼女から距離を取った。もう僕らは中学生になったから、5年もの間、僕らはこうしている。
ただひたすらに僕に声を掛け続けるなまえちゃん。
そしてそれを尽く無視し続ける僕。
僕らの関係を見た教師達は何度も話をしにきたが「僕があの子のそばにいると傷つけてしまうので」と主張し続け、最近はもう諦めたのか何も言われなくなっていた。良いんだ、これで。
あれから、僕は彼女だけでなく自分を取り巻く環境全てを遮断した。新しく友達を作ることもなく、良く言えば一匹狼。悪く言えば独りぼっち。僕の場合は完全に後者なのだが。
「なまえちゃんってさ…良い子だしかわいいのに、顔に傷があって可哀想だよね…。あれ、どうしたんだろう。」
今まで何度か、クラスメイトがそんな話をしているのを聞いた。
可哀想。
彼女の傷は、僕がつけた。
女の子なのに顔に傷があって、可哀想。
僕は彼女に、可哀想な事をしてしまった。
彼女が僕の名前を呼ぶ度、昔と同じ笑顔を僕に向ける度、彼女の頬に残る傷痕が嫌でも目に入って、僕の中では後悔や懺悔の気持ちでいっぱいになってしまう。苦しい。このまま消えてしまいたいと、何度思った事だろうか。逃げたい。
なまえちゃんのいない、どこか遠くへ。
「……あのさ…もう僕に構うのは、やめてくれないか?」
「え…?どうして?」
「…僕が、迷惑だから。」
「でも…、典くん、私達、友達だよね?」
「……。」
純粋な彼女の言葉に、僕は否定も肯定もできずフイと視線を逸らし、そのまま逃げた。
一度口に出して伝えれば諦めてくれると思ったから、言葉を交わした。それなのに逆に僕の方が何も言えなくなってしまって余計に苦しくて、以降僕が彼女に何かを言う事はなかった。大人になって、再会するまでは。
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「花京院……テメーは、本当に面倒くさい性格をしてるな。」
「承太郎きみ…、喧嘩を売ってるのか?」
エジプトへ向かう旅の最中、なんの脈絡もなく発された承太郎の言葉の真意が分からず、咄嗟に眉間に皺が寄る。今のはどう考えたって、承太郎が悪い。
「一体なにをそんなに悩む事があるのか知らねーが、随分と生きづらそうだなと思ってな。」
「……君、やっぱり喧嘩を売ってるだろ。」
「…売ってねぇ。…この前、テメーが生徒手帳の中に挟んでる手紙を、読んじまってな。」
「はっ…!?っ、承太郎、勝手に…!」
「わざとじゃあねーぜ。テメーが紙切れを見ながらボーっとしてたのが悪ィ。」
「だからって読むんじゃあない!」
咄嗟に、生徒手帳の入っている胸ポケットを手で抑えた。この中には、小学生の頃になまえちゃんから貰った折り紙に書かれた手紙が入っている。折り目は擦れて白くなってしまっているが破ける事はなく、大事に大事にしてきた宝物だ。それを承太郎に見られたなんて…恥ずかしくて今すぐにでも逃げ出したい気持ちだ!
『のりくん、大すきだよ なまえ』
たったそれだけ。
伝えたい事だけを簡潔に書いたのだろうそれは、実に彼女らしくて、かわいらしい。
さすがにもう、彼女は僕の事なんて嫌いになっている事だろう。だけど、僕はそれでも構わない。これがあれば、僕はあの頃を思い出して、幸せな気分に浸れるのだから。
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「……、…僕は……生き残ったのか……?」
DIOとの戦いのあと、長い眠りから目覚めて第一声はそれだった。衣擦れの音が聞こえてそちらに視線を移すと視界の端には承太郎がいて椅子から腰を浮かせ目を見開いていて、僕の口から次に出てきた言葉は「生徒…手帳…、は……」だ。
最後の記憶の通りならば、怪我が怪我だけに制服は捨てられてしまっただろうと思い、それなら、胸ポケットに入れていた生徒手帳も一緒に捨てられてしまったかもしれないと思い至ったからだ。
しかし心配を他所に承太郎は徐にベッド脇の引き出しを開けしばし掻き回したあと「ちゃんと残してあるぜ」とジッパー付きの透明な袋に入れられた生徒手帳を掲げて見せた。外側には血がべっとり付いてはいたが、内側は白いところがいくらか残っているようで、そこでようやくホッと胸を撫で下ろした。
「体治して、とっとと頭下げに行くんだな。」
そうだ…僕はなまえちゃんに、謝りに行かなければ……。
そう思ったのも束の間。
目覚めたばかりで体力がなかった僕は一言二言言葉を交わした後、再び意識を失うように眠り続けた。体が"もっと休め"と言っているかのように、丸1日寝て10分程目覚める。そんな事を繰り返し、少しずつ少しずつ、体を治していった。
そして最低限の日常生活が遅れるようになった頃には、生死をさ迷い始めてから実に1年半もの月日が経ってしまっていた。あの時の誓いや勇気は、完全に萎んでしまっていた。