第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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「なまえさん⋯。なまえさんは、これからどうするおつもりですか?」
重い空気の中、口を開いたのは初流乃であった。世間話をするような雰囲気ではなく真剣な顔をしていて、私が初めて見るような表情だった。
「それを答える前に⋯初流乃。初流乃は⋯、ブチャラティ達に着いていくの?」
これは、ただの確認であった。一体初流乃に何があったのかは分からないが、こうして姿を眩ませたという事は何か成し遂げたい事ができたに違いないと、内心確信をしていた。
案の定初流乃はしばしの沈黙のあと「⋯はい」と真っ直ぐな瞳でこちらを見据えた。
「そう⋯。ブチャラティ達は⋯ギャング パッショーネの組員、なのよね?」
「⋯まぁ、そうだな。」
「私達は⋯ブチャラティ達が何か大事な任務をしているのは知ってる。でもその内容までは知らないし、聞かないわ。私達には関係ないからね。ただ⋯⋯。」
ブチャラティに、この先を言っていいものかと口を噤んだ。私達が調査しているのは、パッショーネ内部の事。そしてブチャラティ達は、そのパッショーネの一員だ。
「初流乃。ポルナレフが、行方不明になった。」
言葉を選ぶ私を差し置いて口を開いたのは、それまで言葉を発さなかった典明だった。それも初流乃にだけ伝わるように日本語で。ハイエロファントの触手が緩く体に巻きついてきて、まるで「ここは僕に任せてくれ」と言っているようで、安心して見守りに徹する事にした。
「ポルナレフさん⋯。お2人の結婚式の時にお会いした方ですね?」
「あぁ。スタンドの矢の調査でパッショーネ内部に潜入したか、その前にバレたか何かで行方を眩ませているんだ。僕となまえは、そのポルナレフを助けるために来た。何か情報を掴めるまでで構わない。僕となまえを、少しの間同行させて貰えないだろうか?」
昨日の今日で少し調べただけで得る事ができたパッショーネとブチャラティというツテ。ギャングを調べに来たというのに、こんなにもあっさりツテができるなんてなんて運が良いのだろうか。それに、ブチャラティ達相手ならば戦闘になる心配もない。とはいえブチャラティだってギャングに属している事は確か。そうそう簡単には情報が得られるとは思っていないが⋯⋯。明らかに組織に追われるよりは、良いでしょ。というのが、私と典明の無言の総意だった。
「⋯良いでしょう。僕達も、もしもなまえさん、花京院さんが戦力になってくれるのなら頼もしいです。尤も、決断を下すのは僕ではなくブチャラティなんですけどね。」
「では、彼に話しても?」
「えぇ。ただし、理由を話すのはブチャラティにだけです。」
「⋯そう⋯分かった。私から話してくる。ブチャラティ、ちょっといい?」
初流乃は随分とブチャラティに信頼を置いているようだ。私も少し話しただけで彼の人の上に立つべき人間の立ち振る舞いは理想そのものだ。初流乃には、人を見る目がある。
「…という訳なんだけど、どうかな?」
一通りの説明はした。あとはブチャラティがどう判断を下すか待つのみだ。
返答を待つ間に顎に指を添わせて考え込むブチャラティを見て(こうして見てみると、ブチャラティも中々に綺麗な顔してるな…綺麗なのに男らしくて、典明みたい)と緊張感の欠片もない事を思った。あんまりじっと見つめたものだからブチャラティは目が合った瞬間首を傾げるので「ごめん。綺麗な顔してるなって思って」と正直に告げると「あぁ、ありがとう」と軽くあしらわれた。お世辞なんかじゃないのに。
「君…なまえと言ったか?なまえは自身を強いと言っていたが、俺達はその強さを知らない。とりあえずこの列車がベネツィアに着くまで、返事は保留にさせて貰えないだろうか?」
「!…それでいいわ。ありがとう、ブチャラティ。私と典明の事は…そうね…、傭兵と思ってくれて構わないわ。」
「フッ…、随分とかわいらしい傭兵だな。」
「あら、こう見えて27歳なのよ。貴方よりもお姉さんね。」
さすがはイタリア人と言うべきか、女性の扱いには慣れている。なんだかブチャラティとは仲良くなれそうかも、と思い振り返ったところで、ブチャラティの部下達の威嚇するような視線に気がついた。
(みんな、ブチャラティが大好きなのね…)
「お前ら、なまえには少しの間、同行してもらう事になった。戦闘員として考えて構わないそうだ」というブチャラティの声に不快感を露わにする人もちらほらと見受けられ、彼らに認めてもらわなければポルナレフを見つける前に追い出されかねないな…と少し心配になった。まぁ、それでもなんとかするしかないのだが。
「ちょっと待って。私は認めないわよ。勝手に話を進めないでちょうだい。」
「よろしくね〜」とにこやかに挨拶をするつもりが、ひとりの女性に遮られた。そういえば、ブチャラティ達一行は男性だけではなかっただろうか。任務内容が何か分からない以上口を出す事はできないが、この女性に関する事なのではないだろうかと最低限の推測はできる。どう返答すべきかとブチャラティをチラリと見ると、彼も少しばかり困っているように見えた。
「そうだな…勝手に決めたのは良くなかったな。すまない。」
ふーん、自分の非は素直に認めるタイプね。どこかの天邪鬼な彼とは違ってそこは好感が持てる。じゃなくって…、ブチャラティの反応を見るにもしかしてこの目の前の女の子は、依頼主かそれに近い立場なのではないだろうか。ギャングの任務としてみんな動いているのに、この女の子の態度はギャングの一員とは程遠い。
うーん、こうなったら、この子の信頼を得るのが最優先な気がする。
「とはいえ、この列車は止めてくれって言っても止まらないし…せめて列車を降りるまでは一緒にいさせてよ。お願いっ!女の子一人だけなんて、あなたも気が休まらないでしょう?なんなら、召使いのように使ってくれても構わないよ。」
「お、おい。コイツ、めちゃくちゃ我儘だぜ…!?」
本人の前で、なんて失礼な事を言うんだ。いやしかし、これまで無言を貫いていたのにわざわざそんな事を言うという事は、この子は中々にクセのある子という事なのか。
「大丈夫よ。この1年、お前は王様かってレベルの我儘に付き合い続けてるんだから。」
もちろん、露伴の事である。彼以上の我儘な人間には、未だ会った事がない。それに、露伴と付き合ってみて分かった事だが私はたぶん、我儘な人が好きだ。かわいいと思う。
1人日本で待つ露伴を思い出して、思わず緩い笑顔が出てしまった。…少し、恥ずかしい。
「そういう事なら、良いわ。列車が止まるまでね。」
「本当?ありがとう!ねぇ、お名前は?なんて呼べばいい?」
「……、…トリッシュよ。」
「トリッシュね!まずは何をしようか?あ、疲れてるなら休む?冷蔵庫もあるみたいだし何か入ってれば…、あった。みんなも何か飲む?」
とりあえずの危機は脱した。振り返った時に見えた典明と初流乃は優しい笑みを浮かべていて、心臓がぎゅーっとなった。ここまでは、全ていい方向に進んでいる。この調子でポルナレフも、早く見つけられるといいな。
そんな思いとは裏腹に、亀の甲羅の外では何やら不穏な空気が漂っていた。この時はまだ、その事には気付くことができなかったが。