第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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フィレンツェ行き特別急行列車、6番ホーム。
ペリーコロさんから夕方という情報しか聞いていなかったため、数本、列車を見送った。今の時刻は16時20分。いい加減待つだけのこの状況にも飽きてきたし、長い事ホームを彷徨いているので駅員さんの視線も痛くなってきた気がする。それにまさかとは思うが、見逃してしまったなんて事はないだろうかと不安になってきた頃、辺りを気にしながら切羽詰まったような様子で列車に駆け込んでくる集団が目に止まった。その中にあの綺麗な金髪を見つけ、顔が見えた訳でもないのに、まだ確証はないのに、気がついたら足を踏み出し駆け出していた。
「えっ、誰だ⋯!?」
黒髪の子が最初に私に気付き戦闘態勢を取るのを横目に、私は金髪の少年から、目を離す事ができなかった。
「初流乃っ!!」
「っ、なまえさん⋯!!?」
勢いそのままに久しぶりの初流乃を腕に抱きしめる。あぁ、初流乃だ。また、大きくなっている。走った勢いのまま抱きしめたので、初流乃の体が後ろに吹き飛びそうになるのを電車に腕をついて阻止したらダァァアン!と轟音が鳴ってしまったがそんなのはどうでもいい。初流乃がいた。昨日いるはずのところにいなくて、連絡も取れなくて心配していた初流乃が、今、目の前にいる。
「初流乃ッ⋯!心配したんだからね⋯!!」
「あ、えぇと、なまえさん。どうしてここに?」
「ジョルノ。知り合いか?すまないが今はそんな事をしている暇はない。」
「あぁ、そうですね、ブチャラティ。なまえさん、すみません。今、僕達急いでて⋯!」
「ブチャラティ!貴方が⋯!」
ブチャラティ。名前しか知らない、初流乃と行動を共にしていたギャング。
「急いでいるのは分かった。この列車に乗るのよね?私は、どうしても初流乃と話さなければならないの。少しの間だけでも、話を聞いて。」
「悪いが、その時間もない。敵ではないのなら、今は何も聞かず、ここから立ち去ってくれ。」
「⋯じゃあ、これだけ聞いて判断して。私は、初流乃⋯ジョルノの母親。血の繋がりはないけどね。それで、スタンド使い。それもかなり強い、と思ってる。」
「何ッ⋯!?」
「とりあえず、あなた達に協力するとだけ宣言するわ。事情も、別に聞かない。今初流乃と離されるのは、困るもの。」
しばしの沈黙。しかしそれはたった2秒ほどで、次の瞬間にはブチャラティは動き出していた。
「お前ら、先に列車に乗るんだ。単独行動はするな。いいな。」
「マジかよブチャラティ!その子、めちゃくちゃ怪しいぜ!?」
「いいから、早く乗るんだ。」
ふむ。ブチャラティは、このメンバーの中ではリーダー的立ち位置にいるらしい。頭の回転も早いし、指示も的確。部下からの信頼も厚い。たった数十秒観察しただけでも分かる、できる上司そのものだ。
「ブチャラティ。今、何かを探しているの?」
メンバーを先に列車に乗せ、ブチャラティは1人ホームに残り、キョロキョロと何かを探している様子であった。
「⋯ああ。この鍵を使って開ける、何かだ。」
彼の右手の中にあったのは、少し大きめの鍵。金色の土台に、赤い宝石が埋め込まれている。まるで宝箱の鍵のような派手な見た目だが、そんな鍵を使って開けるような扉なんて、この辺りにあっただろうか?
「水飲み場の近くにあると聞いたんだが⋯これも、これも⋯!サイズが合わないんだ!」
「⋯⋯、亀⋯?」
駅のホームの、水飲み場。こんな人工物しかない場所に、亀?のそのそと手足を動かすその姿は大変かわいらしいが、違和感がものすごい。野生か、飼育されていたのか。どちらにしたって、ここにいるのは不自然だ。それに⋯。
「ブチャラティ⋯この亀、甲羅が⋯。」
そう。ブチャラティの持っている鍵とほぼ同じサイズ、同じ形に、甲羅が削られているのだ。
「!⋯これだ⋯!」
そう言ってブチャラティが亀を持って列車に飛び乗るのに慌てて着いていき、ハイエロファントの触手の助けも借りながらも列車内に飛び込んだ。と、思ったのだが。
突然視界がぐるりと回って、何かに吸い込まれる感覚がして気が付いたら⋯⋯部屋の中⋯?
「驚いたな⋯この亀が、スタンド使いだったとは。」
つまり、そういう事だったらしい。イギーも犬なのに立派なスタンド使いだし、亀がスタンド使いでも、おかしくなはいか。
とりあえずは列車が出る前になんとか、目的を達成できたらしい。
「驚いたのはそれだけじゃあねぇ。この子もそうだ。」
赤青の服のお兄さんがそう言い私を指さした事で、全員の視線が一点へと集まる。もちろん、私にだ。うーん、イタリア人は背が高いし、顔の掘りも深くて圧がある。
「私ね。一旦自分で自分の説明をするから、聞いてくれる?」
きっとこの人達の知りたい事は、山ほどある。質問にひとつひとつ答えるのもいいが、先に言うべき情報は全て言ってしまった方が早い。
刺すような視線を受けながらも頭の中で優先順位をつけて、反論の声がないのを確認し皆にひとまず座るように促してから口を開いた。
「まず、私はみょうじなまえ。日本人。こう見えて28歳。ここにいる初流乃、ジョルノ・ジョバァーナの母親よ。⋯たった、数ヶ月しか一緒にいられなかったけど。⋯スタンド使いになったのは、12年前。スタンドの矢で。今はSPW財団でスタンドの矢について調べていて、イタリアに行くから我が子に会いに行こうと思ったら行方不明になってて、死に物狂いで探してたってわけ。⋯質問は?」
口を挟む隙を与えず、言いたい事は言った。相手はまだ若いとはいえギャング。隠し事をするのは得策ではないと思い矢の調査に来た事も話した。名刺を1枚取り出しブチャラティへと渡すと、周りにいたメンバー達が一斉にブチャラティの元へと集まり、その名刺を覗き込んだ。
「⋯君のスタンド、見せてもらえるか?」
「あぁ、そうだね。いいよ。⋯ん?」
そう言われてみればそうだ、とクイーンを出そうと思ったのだが、先にハイエロファントの触手がウネ⋯と背後から伸びてきた。これは、少しからかっちゃおう、とついついイタズラ心に火がついた。
「こっちは、ハイエロファントグリーンっていうの。この触手は100メートル以上伸ばせて、索敵ができたりするよ。それと、こっちはクイーン・オブ・カップ。水でも空気でもなんでも掴めて、掴まなかった物はすり抜けるの。」
「スタンドが、2体⋯!!?」
ざわ、と辺りが騒然となった。当たり前だ。スタンドは、1人1体と決まっている。精神エネルギーが具現化したものなのだから、2体いるとなれば、精神が2つあるという事になってしまう。
「ふふ⋯ごめんね、冗談だよ。このハイエロファントはね、夫のものなの。出てきて、典明。」
「えっ⋯何なに、どういう事!!?」
私を説明するには、典明の事もきちんと説明しなきゃね。
「⋯と、まぁ、私達の過去はこんな感じ。長くなっちゃって、ごめんね。」
シーーン⋯
私という人間を説明するのに、ものすごい情報量の多さだというのにこの時気が付いた。話を聞いた全員が分かってるんだか分かってないんだか微妙な顔をして黙ってしまった。余裕の表情を浮かべているのは、初流乃だけだ。
「君⋯、中々に壮絶な人生を送ってるんだな⋯。」
「壮絶⋯。そう言われてみたら、そうかもね⋯。でも、今は幸せだから、大丈夫。典明もいるし。」
「そうか⋯。」
沈黙。軽くではあるが私のあれやこれやを話したのだから無理もない事だが、少し気まずい。