第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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謎のおじいさんはやはり只者ではなく、ギャング パッショーネの人間であった。それもわりと上の人っぽい事を言っていたが、ギャングの内情を探るのにいい人を利用するのは気が引けてポルナレフの事は言い出せなかった。ごめん。
そしておじいさんの名はペリーコロというらしく、昨日ブチャラティに会い任務を言い渡したらしい。が、どこに行くかはブチャラティに任せたと…。うーん、結局詰んでる…?
「しかし君、タイミングが良かったな。実はブチャラティ達の隠れ家が、そろそろ敵に見つかりそうでな。」
「えっ!」
「明日の夕方、特急列車でベネツィアへ移動する手筈となっている。」
という事は、ネアポリス駅で待っていれば、初流乃に会える…!?
「あ、ありがとうペリーコロさん!…あの、そんなに私に色々話しちゃって、良かったんですか?」
あまりにいい人すぎて、思わず敬語になってしまう。こんな人がギャングの一員だなんて、誰が思うだろうか。
「息子を心配する気持ちに、共感しちまった。」
「もしかして、ペリーコロさんにも息子さんが?...ふふ、きっと優しい人なんでしょうね。」
「ははっ、ギャングだぞ。」
「えぇ〜!息子さんも!?」
こうして話してみたら、ペリーコロさんめちゃめちゃよく笑うじゃん。本当にギャングなのか?と疑いたくなるが、先程感じた圧は確かにギャングのそれだった。
「さ、そろそろホテルに帰って寝なさい。儂もそろそろ、行くところがある。」
「⋯ペリーコロさん。これ、私の名刺です。私に情報を渡した事で組織に追われる事があったら、電話してください。」
「SPW財団⋯。これは驚いた。だが⋯これは儂には不要だ。」
ス、と差し出した私の名刺は、やんわりと突き返された。不要だなんて、典明の姿が視認できていない、スタンド使いではないペリーコロさんを守るのに絶対に役に立つのに。
「⋯なまえ。ペリーコロさんは、君をギャングのいざこざに巻き込みたくないんだよ。彼はただ、初流乃の行き先を教えてくれただけだ。」
今まで黙っていた典明の言葉は尤もだ。私だってペリーコロさんの立場だったらそうする。だけど、だけど⋯。
「儂はボスに、充分良くしてもらった。いい人生だった、と胸を張って言える。だからボスを裏切るような事はせんよ。君にジョルノ・ジョバァーナの行き先を教えたのは、君がボスの脅威になるような人間にはとても見えんかったからだ。」
「でも⋯、でも、そんなの分からないじゃないですか。今はそうでも、数日後には変わるかもしれないじゃないですか。」
「なまえ。」
分かってる。分かってるんだよ、典明。ペリーコロさんが、私達SPW財団の助けを必要としていない事も、危険が及ばないように言ってくれている事も。だけど、私にこんなに優しくしてくれた人が死ぬかもしれないなんて、想像したくないんだよ。
「それが、ギャングの世界だ。自分やボスの決断を信じて、間違っていたら死ぬ。その覚悟がなきゃ、ギャングなんてやっていけねぇ。ギャングってのは、そういう世界なんだ。」
「っ⋯⋯!」
ギャングの世界。そう言われてしまっては、ギャングを知らない私には、無関係の私には、何も言い返せないじゃないか。
返す言葉もなく視線を伏せた私を見て、ペリーコロさんはもう話す事はないとばかりにベンチから腰を上げ、ポン、と私の頭に温かい手のひらを乗せた。温かい。ただそれだけで涙が出そうだった。
「ペリーコロさん⋯、元気でね。」
「⋯あぁ。君もな、なまえ。」
ややあってから、頭にあった温もりが離れていった。
せっかく、強くなったのに。力が強くても、SPW財団でも守れないものがあるなんて、思ってもみなかった。心だって、数年前よりも強くなったと思っていたのに、全然だめだ。私はまた、大切なものを守れない。
「てん⋯、⋯典明⋯。」
「⋯うん。ここにいるよ、なまえ。」
震える声で典明を呼ぶとすぐに寄り添ってくれて、我慢していた涙が溢れてくる。そんな私を典明は、ぎゅう、と力強く抱きしめてくれて余計に涙が止まらなくなった。
「私⋯、強くなった、のに⋯。」
「うん。君は、強いよ。」
「強くなれば、守れると思ってた⋯。私に優しくしてくれた人達、みんな。」
「そうだね⋯。どれだけ強くなれば、全てを守れるんだろうね⋯。」
そんなの、きっと無理だ。そんな事ができるのなら、典明の事だって守れていたはずなのだ。
久しぶりの感覚。頭が痛い。典明。典明。死なないで、典明。
思い出したくないあの時の記憶が勝手に再生されて、頭から離れない。
「なまえ。」
典明の私を呼ぶ声を聞き、体がビクッ、と大きく跳ねた。ハッとして目を開けて、いつの間にか目をキツく閉じていたのだと気付いた。
「典明⋯、ごめ、⋯怖く、なっちゃって⋯。」
「大丈夫、僕はちゃんとここにいるから。」
「!」
痛い、身体中が、痛い。どうやら私は無意識に、力いっぱい典明を抱きしめてしまっていたらしい。
「ご、ごめん典明⋯!私⋯っ!」
「僕はいいんだ。痛いのは、君の方だろう?」
それは正しい。正しいけど、抱きしめられていた間は、典明だって痛くて、苦しかったはずだ。それなのに、そんな事を気にもとめずに私を見つめる典明の笑顔は優しい。
「なまえ。いつの間にか、君にとって大切な人が、ずいぶん増えたね。」
典明の瞳は、優しく細められている。街灯の灯りが反射しているのか、昼に見るのと同じくらい、キラキラして見える。それなのになんだか切ないような、温かいような雰囲気を孕んでいる。
「その人達をみんな、守りたいよね。君には、守るための力があるから。」
「ん⋯、私⋯守りたいから、強く、なったのに⋯。」
「うん。僕はちゃんと、知ってるよ。だけど、誰がいくらがんばっても、どうしようもない事だってある。⋯今回の敵は、あまりに大きすぎた⋯。」
典明の優しく諭すような声は、私の涙を誘い、胸を震わせた。典明だって、何もできない事に憤っているはずだ。その証拠に、私を抱きしめる典明の腕が、微かに震えている。
「気休めかもしれないけど、ペリーコロさんが君に情報を渡したと、組織の上層部は気が付かないかもしれない。⋯と、思うしかないな。」
「うん⋯。ねぇ、典明。典明は⋯、⋯死ぬ時、怖かった⋯?」
私の重すぎる問いを聞いた典明は、僅かに体を硬くした。そして少しの沈黙のあと、静かに言葉を紡いだ。
「怖くなかった、と言えば、嘘になる。けど⋯、君が⋯、⋯⋯なまえが、後悔しないように生きているのを見て、あの時、決心したんだ。⋯だからね、死ぬ時は穏やかな気持ちだったよ。DIOとは関係のない世界線で、君と出会いたかった、と思ったくらいかな。」
「典明⋯。⋯⋯ペリーコロさん、"良い人生だった"って言ってた。⋯後悔とか、ないといいな⋯。」
たった数分間、言葉を交わしただけの相手。だと言うのに、どうにも気になってしまう。死んで欲しくないと、思ってしまう。のこのこ1人でここまでやってきてしまったが、1年もの間杜王町に住んで私は、平和に慣れすぎてしまったのかもしれない。こんなんじゃ、きっとだめだ。私が今立ち向かっているのは、ギャングなのだから。ギャングがどんなものなのかは、さっきペリーコロさんに教えてもらったのだから。
「⋯⋯よし、気持ちを切り替えなきゃ。」
涙を拭って、顔を上げる。少し高い位置にあるこの展望台からは、海の少し向こうに未だあかりの灯るイタリアの街が見える。海に光が反射して、キラキラ光っている。
「ふ⋯⋯、ははっ。⋯やっぱり君、かっこいいな。」
「⋯惚れ直した?私も、典明がかっこよすぎて毎日惚れ直してるよ。ありがとう、典明。好き。大好き。ずっと好き。愛してる。」
「ふふ、うん。僕もずっと、愛してるよ。」
自然な動作で私の手の甲にキスを落とす典明は、相も変わらず王子様だ。何年経っても、ずっと。