第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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「……、綺麗、だね。」
トン、と目的の地であるカプリ島へ足を下ろし辺りを見渡すと、どこを切り取っても絵になる綺麗な街で、思わず足を止めてしまった。夜という事で灯りが海に反射したりして、なんだか泣きそうになるくらいだ。
「そうだね。君とこんなに綺麗な景色が見られて、嬉しいよ。」
「…これが終わったら、また一緒に来ようね。初流乃も連れて。」
「うん。…ふふ、今から楽しみだな。…!なまえ、あれ…!」
ほのぼのとした雰囲気も束の間、典明はとある方向を見て視線を止め、それを指さした。"それ"とは一隻のヨットであり、ナポリの港でブチャラティが借りて行ったとされる物であった。それはブチャラティがここに来た事を証明していて、とりあえずはホッと胸を撫で下ろした。
ハイエロファントで人影がない事を確認し少し船内を見てみたが、多少の血痕が落ちているばかりで何も手掛かりはない。それも誰の血痕なのかは分からないが、量を見てみるに致死量の出血では無さそうだ。万が一初流乃の物だとしても、死んではいない。はずだ。
「あの小屋もボロボロだし、ここで戦闘があったのは明らか…だよね。」
「ギャングであるブチャラティと戦闘なんて…この島に余程の何かがあったのか…。」
「一度ぐるっと島を回ってみよう。何か手掛かりがあれば良いんだけど…。」
ヨットがあるし、ブチャラティ達が戻って来るかもしれない。しかし、昨日の昼過ぎにこちらへ乗ってきて、2泊するなんてあるだろうか?それも恐らく、同じチームの男達数人で。船を貸した人の証言では、ブチャラティを除けば連れは5人はいたらしいし、そもそもイタリア産まれイタリア育ちの人達が揃って今さらカプリ島で2泊もするのだろうか…。うーん、限りなく薄い。
であれば、ブチャラティ達を襲った人物達を当たりたいが…。それも難しいだろう。何せ私は、パッショーネというギャング組織のブチャラティが初流乃と一緒にいる(かもしれない)という情報以外、何も知らないのだ。このままでは、詰んでしまう。どんな小さい手掛かりでもいいから、何かしらは見つけなくては。そうしないと、不安で仕方がないから。
「なんだ、これは…?あっ、こら、なまえ!!」
先程いた港から坂道を登った先(私達はひとっ飛びだったが)で手掛かりを探していると、典明がトイレの前で声を上げるのですぐにそちらに向かった。何でもいい。何でもいいから、不審な点があれば、全て見ておかなければ。
「…これが、どうかしたの?」
典明の制止の声を無視して入ったのは男性トイレで、通りで典明が止める訳である。「それ以上進むなよ」という声はいつもよりも低い。
で、だ。この目の前にある小便器。典明が気になっているのはこれのようだが、おかしなところなどは無いように見えるが。
「この小便器の上のところ。僅かだが隙間があるんだ。そこからハイエロファントの触手を入れてみたら、これの裏に謎の空間がある事が分かったんだ。生憎、空だが…、っ、なまえ!!」
直後、ガシャァン!と大きな音が響き渡る。私が横から、足で蹴り壊したのだが。間を置かず出てきた壁は予想通り他の部分よりは薄く、つま先でコツンと小突いただけで穴が空いた。典明の言った通り空っぽだったが、確かに謎の空洞があった。
「なまえ…!君、もう少し考えて行動をするようにだな…!」
「大丈夫だよ、典明。とりあえず、外に出よう。」
典明のお説教を聞くのは結構好きだが、今は一旦外へ出たい。この状況を万が一一般人に見られたら、言い訳が面倒くさいだろう。
「なまえ…、君、まさか何か考えがあるのか…?」
典明のその問いには、笑顔を返しておく。
ブチャラティはギャングだ。そのブチャラティが(恐らく)部下を引き連れてこの島までやってきて何かを探していたのだとすると、それは恐らく、さっき壊した壁の中にあったはず。"何か探していた"というのは私のただの仮説ではあるが…。
「大きな音がしたから来てみれば…。…君は、観光客かな?それとも、あの中にある物を取りに来たか…。」
暗闇からぬっ、と姿を現したのは、意外にも歳のいったおじいさんで、少し拍子抜けした。が、このおじいさんはどうやら一般人ではないらしい。あの壁の中に何が入っているか知っているようだし、何より威圧感がある。
「生憎、どっちでもないわ。」
「何…?」
「私は今、人探しをしているの。数日前から行方が分からなくて…。ブチャラティと一緒にいたらしいから、そのブチャラティを追ってここまで来たの。」
「……。」
あちらもこちらと同様、警戒心を緩めない。真意を探るようにまっすぐ見つめてくる、その視線が痛い。
「昨日の昼にブチャラティがここに来たのは分かってるんだけど、その後どこに行ったのか…。これ私の息子なんだけど…見てないです?」
私と初流乃が写った写真を手に取り目の前の男に見せる。しかし視線は写真に向いているのに表情は変わらず、やはり只者ではないのだと確信した。
「息子に会いに日本からきたんだけど、着いてみたら連絡は取れないし、いるはずの寮にもいないし…。心配で心配で…。」
「……君は、どこまで知っている。」
「!…どこまで、とは…?」
相手はこちらの質問には答えない。そう簡単には情報は貰えないか。
「私の息子、初流乃…ジョルノ・ジョバァーナが、なぜかは分からないけどこの辺りのギャング、パッショーネのブチャラティと共にいる。…という事だけ。…本当よ。22時に空港に着いたばかりだもの。」
ピラ、と航空機のチケットを見せそれを証明するが、信じてくれるだろうか?信じてほしい。だって8割方、真実なのだから。
「…君は、どうやってここに来たんだ?空港からここまで、船に乗らなければ来られないはずだが。」
「あー…、なるほど。それを証明するのは、ちょっと難しいと言いますか…。」
スタンド使いという事は、まだ伏せていたい。この人がギャングの…敵か味方か、分からないから。スタンド使いであれば隣に立つ典明に視線を向けてもいいものだが、視線はずっと私に向いている。
「100年ほど昔から、特殊な呼吸法を使う一族がいてね。私はその一族から呼吸法を教わって、色んな事ができるの。水の上を歩いたり、壁を歩いたり。ほら。」
トイレの外壁に立ってみせると、初めて表情が変わった。驚いてくれて良かった。これがスタンド能力なのではないかと疑われては、元も子もないのだが。でも、別に嘘は言ってない。
「他に聞きたい事は?」
「…いや、いい。」
おじいさんはそう言って踵を返し、近くにあったベンチへと腰掛けた。あぁ良かった。さっきまでの圧が消え失せた。
「息子を心配する気持ちは…分かる。」
「!はる、…ジョルノも一緒にいたんですね!?ブチャラティと一緒に!」
「ハハッ、ああ、いたとも。髪型は違ったが、確かに彼だった。」
良かった…!私の、私と典明の予想は当たってたんだ!ブチャラティの後を追ってここまで来て、本当に良かった…!!
足取りが掴めたという安堵から、足の力が抜けてヘナヘナと座り込む、前におじいさんの隣へと腰掛けた。
あぁ、これでやっと一歩前進だ。