第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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「初流乃がいなくなった。」
「……それは本当か?」
先日承太郎がポルナレフの件を話した時と同じように初流乃の失踪を伝えると、電話の向こうの承太郎からは戸惑ったような焦ったような様子が伺えた。そして私が「うん」と一言返すと言葉が途切れたので、今頃頭を抱えている事だろう。
「スタンド使い惹かれ合うって言うし、ギャング内にスタンドの矢があるみたいだし、何かしら巻き込まれているんじゃないかと、考えてる。」
「…そうか…、そうだな。……すまない。」
「それは…何に対する謝罪?」
まさか、私をイタリアへ向かわせるのが遅かった事、なんて事はあるまい。それは結果論だから。
それなら、承太郎がこちらへ来られない事だろうか?それとも、私をこの件に関わらせた事?なんにしたって、承太郎はこちらの問いには答えないので分かるわけがない。
「これから、どうするつもりだ。」
「…初流乃を探すよ。ポルナレフも初流乃も、きっとこの"パッショーネ"っていうギャング組織が関連してる。捜査対象が共通なら…申し訳ないけど、同時に追うつもり。」
「そうか…。分かった、お前がそう決めたのなら、構わない。」
当初の目的であったはずのポルナレフが優先だ、と言わないのは、承太郎の優しさか。いや、私の考えすぎだろうか?
「ところで、今どこにいる。風の音が凄いが…ホテルじゃあなかったのか?」
「あぁ。その例のパッショーネの一員…ブチャラティという男なんだけど、街の人からその男の目撃情報を聞いてね。初流乃と関係あるかは分からないけど、まずはその男に接触しようと思って。今、カプリ島に向かってるとこなの。」
「寝ないつもりか?」
「まぁね。初流乃の安否が確認できるまでは。それにしたって、こんな時に来るところじゃないよね。典明とゆっくり観光したいよ…。」
「また来ようね、なまえ。」
「ね〜!今は暗くて分かりづらいけど、昼間は絶対に綺麗だよね。こんな時じゃなかったら、露伴も連れて……、…あぁーーっ!!」
「ッ…!!…やかましいっ!!」
久々に聞いた承太郎の「やかましい」。いやしかし、そんな事は今はどうでもいい。あの少々面倒くさくて口煩くて、でもなんだかんだかわいい露伴の事だ。私達が発ってからの時間を計算して、もうイタリアに着いている事は薄々分かっているかもしれない。こっちに来てから電話で到着の連絡をするつもりだったのに、初流乃と連絡が取れなくて心配で、すっかり連絡するのを忘れていた。
あぁ…きっと電話したら怒られるんだろうなぁ…!
「ごめん承太郎、急用を思い出した。とりあえず今分かっている事はそんなにないから、また何か分かったら逐一報告する。」
「…そうか。くれぐれも、深入りはするな。あと無茶もするなよ。できれば怪我も。」
「はいはい分かりましたよ。お母さん。じゃあね!」
「誰がお母さんだ」という承太郎の言葉を最後まで聞かずに通話を終了して、そのまま露伴の番号を探し通話ボタンを押した。
掛けたいような掛けたくないような複雑な気持ちだが、嫌な事は先に終わらせた方がいい。例え怒られる事になったとしても、早い方がいい。
「おい。」
「えぇと…もう着いてるよ。着いてすぐに任務が始まって、今移動中で時間ができたから…。」
数コールあとに通話は繋がり、先に言葉を発したのはコールした私ではなく露伴の方で。それも"もしもし"なんてかわいい単語ではなく"おい"とは、やはり私からの連絡が遅いと思っていたようだ。
「着いてるよ、じゃあないよ!着いてすぐに連絡してたら、こんな風に怒られる事もなかったと思わないか?」
「それはご尤もです。いや、やむにやまない理由があって。」
「この期に及んで言い訳するのか?」
うーん、怒ってる。というよりも拗ねてる?自分だけ日本に置いていかれて、挙句着いたという連絡も貰えなくて、そりゃあ拗ねるか。本当、かわいいヤツめ。
「まぁまぁ、私は無事だから。そこは安心して。」
「無事なのに連絡を寄越さなかったのか。」
「だからぁ…!」
「はぁ…、まぁいいよ。……君が無事なら。」
私は、無事だ。少々厄介事に巻き込まれてはいるが、無事。ただ、初流乃がギャングの何かしらに巻き込まれている可能性があるのだが…。
「ちょっと思いの外忙しい任務だったみたいで…しばらく寝ずに調査するつもり。だから次にいつ連絡できるかも分からないの。ごめんね、露伴。」
「…それは、君の身の危険はどれ程の物なんだ。」
「それも今調査中。…何も分かってないの。」
特に露伴に話せる事は殆どない。申し訳なくて、もう一度「ごめん」と口にすると向こうからは小さなため息が聞こえてきた。
「君のその言い方、僕には危険な任務だって言っているように聞こえるが?」
「うーん…スタンド関連の任務はだいたい危険だよ?」
「君がそう簡単に死ぬとは思えないが…。まぁいい、そういう事にしといてやる。」
「わぁ、ありがとう。」
"そういう事に"という事は、今はまだ何も聞かないでおいてくれるという意味だろう。この1年で露伴も、だいぶ落ち着いたものだ。
「帰る時期が分かったら、ちゃんと連絡しろよ。」
「うん。今度は忘れずにするね。」
「あと、時間が取れた時には連絡しろ。こっちが夜中でも構わん。」
「え…、大丈夫なの?」
「君が生きてるのか死んでるのか分からない状況よりはマシだ。それと…、」
一度言葉を切り、間を開けた露伴の声はいつになく真剣なもので「死ぬなよ」と一言。その約束は、守れるだろうか。
「うん…、大丈夫、死なないよ。だって、私には典明がいるから。」
なにも典明に守ってもらおうと思っている訳ではないし、典明がいれば力が湧いてくるだなんていうつもりもない。ただ、典明は…、私が死ねば一緒に消えてしまう。私が死ぬだけならまだいい。だけど私は典明が、2度目の死を迎えるのだけは避けたかった。老衰や病で死んでしまうのならまだしも、健康で若いうちに、それもスタンド使いとの戦いで命を落とすなんて、以ての外である。そうならない為に、私は典明を守る。守りたい。それこそ、死に物狂いで。全身血塗れになったって、骨が折れたって、手足がなくなろうとも、絶対に死なない。…と、思っている。
私の言った事を正しく受け取ったであろう露伴は「それを聞いて安心したよ。生きてさえいてくれれば」と、本気なのか冗談なのか分からない事を軽く言ってみせた。心配してるんだか、してないんだか…いや、してないなんて事はないのだろうが。
「じゃあ、またあとでな。」
「…うん、またあとで。」
なんだか意外にもあっさりしているな、と思っていたらブツッ、と通話が切られた。私が急いでいる事が風の音で伝わったのだろう。意外にもそういう配慮ができるというのだから驚きだ。
「なまえ。僕は君が生きている限り、そばにいるよ。」
「典明…、死んでも一緒、でしょう?」
「あぁ、そうだったね。」
私は、典明は、お互い死んでも離れない。
それってなんて、ロマンチックなんだろうか。