第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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「…おかしい…。初流乃が電話に出ない…。」
朝に日本を経ち、イタリアのナポリ・カポディキーノ国際空港に到着した今はもう日も落ちた夜である。
日中であれば学校で授業を受けているのかもしれないと思うのだが、電話に出ない、それに着信履歴に私の名前が残っているのに掛け直してこないのはどう考えたっておかしい。それに、昨日送った「イタリアに行くから初流乃の時間のある時に会おう」というメールにも返信がないのだ。
「…学校に忍び込むか…。」
物騒だと思うだろうか?しかし、ポルナレフに続いて初流乃とも連絡が取れないとなると不安で仕方がないのだ。
以前教えてもらった学校の住所を調べるとここから少しばかり離れているらしいが、今は夜。空を跳んだって、きっとバレない。
「典明、行こう。」
忍び込むという言葉を否定しなかったという事は、典明だって私と同じ事を考えていたに違いない。スタスタと人気のない場所へ移動し典明と荷物を抱え、一気に空へと飛び上がった。
寮の外に守衛室がひとつあったが、そんなものジャンプして入れば問題ない。が、正面に見える玄関を見つめて重要な事に気がついた。
「着いたはいいけど…どの部屋…?」
「ふふ…僕がハイエロファントを伸ばして、名簿か何か探してみるよ。」
「…典明、分かってて笑ってたでしょ。」
「はは、バレたか。」
きゅん。かわいい。好き。
この1年の間にどんどん典明は歳をとり、今では生きていたら27歳なのだが年相応の顔付きになった。つまり、大人の色気が混じっていて未だにドキドキする。そんな人の子供のように笑った顔なんて、かわいいに決まってる。
「あ、あった。ここから見える、3階の、左から3つ目の窓みたいだ。」
「ありがと、典明。よし、じゃあ行こう。」
「待て。君…まさか跳んで行こうとしてるんじゃあないだろうな?……、あの勢いで突っ込んだら、窓ガラスが割れて大騒ぎになるだろう。ハイエロファントで行こう。」
ちょっと失礼だな。私だってガラスに突っ込む前にちゃんと止まれるのに。からかっているのだろうが、私ってそんなに馬鹿?
だけど典明の差し出した手のひらに自分の手を重ねたら、なんだかお姫様になった気がしてすごく気分がいい。そのままふわりと宙に浮き上がるので、なんというか優雅だ。スカートでも履いてたら見栄えもいいだろう。
トン、と壁に着地して、手足を壁にくっ付けて窓の鍵に手を伸ばした。
"鍵を掴む"とイメージすれば、私の手は窓ガラスをすり抜けて鍵に触れたので静かに回した。これで、簡単に部屋に侵入できる。
カラカラと小さな音を立てて開かれた窓から中を覗くと、暗くてよくは見えないがやはり予想通り初流乃の姿はないようだった。僅かばかり残されていた希望が、打ち砕かれた瞬間である。
「携帯電話を無くしたとか…壊れちゃっただとかだったら良かったのに…。」
「携帯電話なら、ここにある。…壊れてもいないようだな。」
丁寧にデスクの端に置かれた携帯電話は、私が初流乃に買い与えた物だ。1年使ったというのにほとんど傷もなく、大事に使っていたのだと分かるそれ。画面を見ると私からの不在着信と、新着メールが数件。それも、私が送ったものだろう。
「なまえ、これ。君が最初に送ったメールから未読になってる。その前は全部読まれてるという事は、この間にいなくなったんだろう。」
「そうだね。…私が送ったメールの、1日前…?って事は、一昨日のこの時間はここにいたんだ…。」
一体初流乃の身に、何があったというのだろうか。なんにしても、ここにいてもなんにもならない。すぐにここを出て、初流乃を探さなければ。
そう思い、顔を上げたのだが…ここにきて、私がイタリアにやってきた、本来の目的を思い出す。
"突然姿を消したポルナレフの捜索"そして"最後に聞いた情報から、ポルナレフの失踪にはイタリアのギャングが絡んでいる可能性がある"という事。それも、ギャングアジトには恐らくだがスタンドの矢まである。
「典明。今から私が言う事に、そんなわけないだろうって言って欲しいんだけど…。」
「……内容によるかな……。」
珍しく典明の歯切れが悪い。もしかしたら典明も、同じ考えに行き着いてしまったのかもしれない。
「スタンド使いは、スタンド使いと惹かれ合う。悲しいかなそれは的を得ているよね。それで、私達の予想が正しければ、イタリアにあるギャングアジトに、スタンドの矢があって、もちろん、ギャング内でそれが悪用されているのは簡単に想像がつくわけで…。……もしかして初流乃、そのギャングのトラブルに、巻き込まれてない…?」
最後の方は、少し声が震えてしまったかもしれない。気遣わしげに私を見ていた典明の綺麗な瞳は一度伏せられ、長い沈黙のあと「そう、かもしれないね…」という言葉と共に私を見た。典明の口から、否定、してほしかったな…。
「ごめん、典明…。」
一応断りを入れてから、典明の胸に顔を埋めた。典明はそんな私の行動を受け入れ、優しく、だけど力強く抱きしめてくれた。それこそ、大切な物を守るように。
「初流乃が…ギャングと何かあったなんて…!」
初流乃は、私の子だ。ポルナレフには悪いが、私がするのはポルナレフの心配よりも初流乃の心配。スタンド使いとの戦闘なんて縁のないあんなにいい子が、スタンド使い…それもギャングのいざこざに巻き込まれてるかもしれないなんて、いてもたってもいられないだろう。
「まだ、決まったわけじゃない。…でも、それを想定して動いた方が、いいかもしれないね…。」
「うん…。」
典明も、心配だろう。でもこんな時にも道を示そうとしてくれる典明が、私は大好きだ。典明が冷静でいてくれるから、私も典明を見て落ち着きを取り戻せる。
「…行こう、典明。」
もうここで得られる情報は、何も無い。一刻も早く、初流乃を見つけださなくては。もちろん、ポルナレフの事も忘れてはいない。
また来た時と同じように私達は静かに学生寮を抜け出し、夜の闇に溶けた。
「しばらくは、寝ないで探す。荷物も預けたし、必要最低限の物だけ持って…。まずは、ギャングについて調べよう。」
そうして街に繰り出し食事がてら周囲の会話に耳を澄ませていると、案外簡単にこの辺を牛耳っているギャングについての情報を得た。
ギャングの名はパッショーネ。どの飲食店へ行ってもその名を聞くので、かなり大きな組織だというのが伺える。そして意外だったのが、イメージと違いとても評判が良い事だった。どこに行ってもみんな「ブチャラティが」「ブチャラティに」と、個人名を口にしていた。ブチャラティという男が市民の信頼を得ているという事で、私はギャングというものがなんなのか分からなくなった。
「ねぇ、ブチャラティってどこに行ったら会えるかしら?前にブチャラティに助けてもらった事があるんだけど、感謝の言葉を伝えそびれちゃって…どうしてもお礼を伝えたいの。」
嘘も方便。どうやらブチャラティって人は市民にはとても優しく信頼が厚いらしいし、私がアジア人の旅行者であっても困っていたら放ってはおかないだろう。
「あらそうなの。さすがブチャラティね!」
ほら、早速信じてもらえた。
「けど、昨日も今日も見てないねぇ。一昨日は大人数で来てくれたんだけど、それが最後ね。」
「あら、私昨日港で見たわよ。クルーザーをレンタルしてたみたいだから、あそこから行くならカプリ島に行ったんじゃないかしら?」
「本当?カプリ島って、青の洞窟がある所よね?一度行ってみたかったの!」
「でもブチャラティを見たのは昨日の昼頃だったから、もういないと思うわよ。あそこに行ったって、それこそ青の洞窟しか見るところはないもの。」
「そっかぁ…。じゃあ会えなさそうね。」
とりあえず、今はこの情報があれば充分だ。
イタリア人は明るくお喋りで本当助かる。
「色々教えてくれてありがとう。また来るわ。グラッツェ。」
とりあえずは、話に出てきたカプリ島に行くしかないだろう。また、夜の空を跳んで。