第1の任務 汐華初流乃に合流せよ
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「ポルナレフと連絡が取れなくなった。」
杜王町でのあれやこれやが落ち着いてから早1年。
住まいは変えたが生活スタイルなどは以前と同じように世界各地を飛び回りながら過ごしていたところ、承太郎から突然、そんな物騒な連絡が来た。
「ポルナレフがぁ?」という茶化した私の声は届いているはずだが、電話の向こうからは沈黙しか帰ってこなくてこれは本気なのだと悟った。
「…経緯は。」
一言目にポルナレフの安否を気遣うわけでもなく、経緯の説明を求めた。加えて「それと被害状況は」である。
何も心配をしていない訳ではない。ポルナレフはいつだって独断で勝手な行動をするし、それゆえによく怪我もする。それも笑えないくらいに。
だけど心配は不安に変わり、不安は動揺に繋がる。動揺すれば、冷静な判断を下すのが困難になる。スタンド同士の戦いにおいて、焦るのはご法度なのだ。だから、これは正しい。私がいるSPW財団に所属しているならば。
「スタンドの矢が1本、イタリアにあるという情報を得たポルナレフが、単身イタリアで1ヶ月程調査をしていたんだが…。1週間前から、連絡が途絶えた。電話も繋がらねぇ。…被害状況は、不明だ。」
「そう…。定期連絡は貰ってたの?」
「そうだな。と言っても、ほぼ雑談のようなモンだったが…。最後に聞いたのは、ギャングのアジトに矢があるらしいと…。」
「ギャング!!?」
もしかして、もしかしなくても、ポルナレフはそのギャング組織に接触したのではないだろうか。とはいえ1人で真正面から行くわけはないし、ポルナレフは隠密向きではないのは自分でも分かっているはず。という事は、周囲を捜索中にバレた、とか…。
いや、そんな事を考えても仕方がない。ギャングとは関わり合いになるべきではないが、ポルナレフを探し見つけ出すにはイタリアへ行ってギャングについて調べなくてはならないだろう。
「それで、私に連絡してきたって事は私がイタリアへ向かえばいいって事でいい?」
「フー…、悪いが、そういう事になるな。」
確かにこの件は、スタンドを持たない一介の財団員には荷が重すぎる。ギャング内にスタンド使いがいなくとも、だ。まぁ今の話を聞く限りいないなんて事は、ないだろうが。
「それで、承太郎が裏から手を回したおかげで私の予定が消え去ったわけね。」
数日前までは確かに予定がいっぱいだった。それこそ、数ヶ月先まで。それが昨日確認した時には全てバツ印がつけられていたため、何かあるのでは、と典明と話していたのだ。
「今回ばかりは、さすがに心配だな…。君は確かに強いが、相手はギャングだろう?」
ハイエロファントの触手とともに、後ろから腕が絡みつく。視線を横に向けると国宝級に美しい、典明のご尊顔。
「典明…。本当よね。こんな仕事を回してくるなんて、承太郎は私を何だと思ってるのやら。」
「自他ともに認める、最強の女、ってとこか?」
「はぁー…。…典明、お手本を。」
「ふふ、最高にかわいくて、最強のお姫様、かな。」
「もう、典明…好き。」
「おい…。そんな茶番をやってる暇があるのか?」
「少しくらいいいだろう。邪魔をするな。」
「大体今からあれこれやったって、この時間は飛行機も乗れないしね。」
承太郎は日本とアメリカの時差ぐらい、もう分かっているだろうに。夜も耽けたこの時間はもう、日本から飛び立つ飛行機はない。
「はぁ…、明日の朝イチだ。」
「うんうん、分かったよ。あ、初流乃にも会いに行かなきゃね、典明。」
「うん、そうだね。」
未だ後ろからぎゅー、と抱きしめ首元に顔を埋めて離さない典明。はぁ、かわいすぎる…。
「じゃ、チケットの手配よろしくね。空港で受け取るから。」
もちろん、アメリカにいる承太郎ではない、財団員からだ。
「あぁ、話は通しておく。頼んだぜ。」
「はいは〜い。」
典明の熱烈な抱擁に早く応えたくて、早々に通話を終了し携帯電話をベッドへと放り投げた。
緩んだ腕の中で体の向きを変えると、今度は真正面から抱きしめられて幸せオブ幸せ。典明、いい匂い…。
「しかし…次はギャングが相手なんて、本当に君は悪いものを引き寄せるな。」
「私のせいなの!?」
「まぁ…吸血鬼に狙われるよりはマシか…。いや、マシか…?」
「せめてポルナレフの報告が、もっとちゃんとしてたらねぇ…。」
「そうだな…。ギャングの名前だとか、規模だとか、詳細が全く分からないなんて、どうしろって言うんだ。」
言いながらキスを交わし、頬を擦り寄せ、頭を撫でて。典明も私も、器用だなぁ、と他人事のように思う。
「まぁ、この文句はポルナレフを見つけてから、直接ぶつけようか。」
「ふ…、そうだな。」
典明もきっと、絶対に認めないだろうがポルナレフを心配している。こうして私から離れないのは、心配で不安だからだ。そしてこれも絶対に認めないだろうが、私が不安がっていると思って癒そうとしてくれている。少し典明と触れ合えば、いつも不安なんてすぐに消し飛んでいるのだ。それを、典明が知らないわけがない。
「典明、いい匂い〜。」
「ふふ、じゃあ今日は久しぶりに、抱きしめあって眠ろう。」
寝る準備は万端だ。何せ、承太郎から電話がかかってくる前にお風呂を済ませ、髪も乾かしたのだから。
典明の匂いに包まれて、今日はよく眠れる事だろう。朝起きた時に腕が痺れているだろうが、それは明日の私が何とかしてくれる。
「おやすみ、なまえ。」
待っててねポルナレフ。最強の私と、最高にかっこいい典明が、助けに行くからね。それまで、絶対に死なないでね。それまで、ちゃんと生きててね。
「突然だけど、これからイタリアに行ってきます。」
「はぁ?イタリア?昨日は"2連休取れた!"って言ってなかったか?」
「言ったよ!でも昨日寝る前に承太郎がさぁ!」
朝、それも早朝。フライトの時間を考慮して早起きして、露伴が目覚める前に家を出てしまおうと思ったのに…こういう時に限って物音に気が付いて起きてくるのがこの、岸辺露伴という男。
休みだって言ってたのに起きたらいないなんて可哀想だとは思うが、露伴は面白そうだと着いてこようとするのが目に見えている。だからそーっと起きてきたのに…!
「ふーん、承太郎さんが…。何かあったのか?」
「何かあってもなくても露伴には教えないよ。社外秘。機密事項。」
「くっ…!君、いつもそれだな。」
「だってお仕事だもの。それもSPW財団なんだから、機密事項の一つや二つあるでしょ。」
「そうじゃあなくてだな。」
「なまえ、そろそろ出なきゃ。」
あぁぁあ露伴と押し問答してたら、朝食を食べ損ねた…!
冷め始めている残ったお茶をグイ、と一気に喉に流し込んで、1人分の旅行用のキャリーケースを引いた。
「じゃ、今回はどのくらいかかるか分からないけど連絡はするから。」
「どのくらいか分からないって…。おい、僕が寂しくて死んじまったらどうするんだ。」
「はいはい。寂しくないように連絡するって。じゃあね。」
「……、はぁ…気をつけろよ。」
寂しくて死んじゃう、なんてかわいすぎか。そうやって私の気を引こうとしているんだろうが、そんなところも本当にかわいいんだから。
なんとも恨みがましい視線ではあるが一応納得してくれたらしい露伴をよしよしと撫でると「おい、やめろ!」と嫌がる素振りを見せた。かわいい。
いつもどっかに行って寂しいという露伴の気持ちも分かる。だから、本当に心苦しいんだからね。ごめんね。
そういう意味も込めて行ってきますのキスをすると「…君、いつもキスで誤魔化してないか…?」とやっとこさ大人しくなった。ただ、人聞きが悪い。
それにしてもさっきの「寂しくて死んじゃう」はかわいかった。まさか露伴がそんな事を言うなんて…と思ったところで、私はある事に気がついた。
もしも典明がそんな事言ったら、私、一生家から出られない…!と。