第2の任務 トリッシュを護衛せよ
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「!ブチャラティ!トリッシュ!」
「トリッシュ…!ブチャラティ…酷い怪我…!」
教会内。一見異常は見当たらないが気を失っているトリッシュと、全身から血を流して倒れているいるブチャラティを見つけ心臓が嫌な音を立てる。鳩尾に…穴、が…。
「なまえ。今は僕の瞳を見るんだ。…ほら、大丈夫。僕はここにいるし、あれは僕じゃない。ブチャラティだ。初流乃がもう、傷を治してる。」
膝をついて崩れ落ちた私の頬を典明の両手が包んで、いつもよりも強い力で強制的に上を向かされる。至近距離で見える典明の瞳は相変わらずキラキラしてて綺麗で、そしてしっかりしろと励ましてくれているようで、次第に頭は落ち着いてきた。未だ手は少し震えているし足の力も戻らないが、それを察した典明が、優しく抱き上げてくれた。
「ごめん典明…、まだ、怖くて…。」
「いいんだよ。その度に僕がこうして、慰めてあげるから。それに…きっとこういうのは、慣れない方がいい。」
「ん…。」
ちゅ、と近づいた額に、キスをひとつ。触れたところが温かくて、ようやく手足の震えは収まった。いつも典明がしてくれる、落ち着くためのおまじない。
「ま、まさか…!ブチャラティ…!」
「!…トリッシュ!」
焦ったような初流乃。そして手首から血を流すトリッシュ。
「ブチャラティ!息をしてくれ!」
「!」
まさか、間に合わなかったというのか…!
典明がブチャラティの傍に寄り、私を優しく降ろした。焦る初流乃をよそに私も脈を確認すると、確かに脈はない。
「!ブチャラティ!」
ガシ、と視界の端に見えたブチャラティ…恐らくその魂を、掴んだ。そしてその勢いのまま、床に横たわるブチャラティの体の中へと入れた。傷が治っているのなら、きっと、これで生き返る、はず…!
「アバッキオ達を呼べと、言ったのだ…。脱出するんだ…!」
復活した!未だ苦しそうではあるが、確かに体を動かし、初流乃へ指示をするブチャラティ。
なんとか命が繋がって一度ホッと胸を撫で下ろした。が、ブチャラティの口ぶりから、未だここが安全ではないのだというのが伺える。
ブチャラティは"アバッキオ達を呼べ"と言った。しかし今呼びに行って、その後戻ってきて敵との戦闘…果たして間に合うだろうか。それならば、一度私が全員を抱き抱えて脱出した方が速い!
そう思ったが早いか、私はトリッシュを右腕に、乱雑で申し訳ないがブチャラティと初流乃を一纏めにし、ドンッ、と教会の外目掛けて跳躍をした。
「すぐに脱出する!」
案外近くにいたアバッキオ達にブチャラティ達が指示を飛ばし、全員ボートまで引き返した。どうやら、一旦射程圏外まで出る事が最優先事項だったらしい。
中で何があったのかは分からないが、トリッシュもブチャラティも、無事帰ってこられて、良かった…!
「トリッシュを連れ帰ったのは、たった今、俺がボスを裏切ったからだ。」
ブチャラティがチームメンバーへと事の経緯を説明している間。私はそっちの話は関係ないとばかりに、ボートに乗せられたトリッシュの傍にいた。未だ気を失っているトリッシュを膝枕しコートをかけて、手首の怪我へと波紋を流す。初流乃が治してくれたが、少しでも痛みを和らげる事ができればと。
トリッシュをこうして連れ帰ったという事は、トリッシュを父親であるボスに渡すわけにはいかないと判断したからだ。ブチャラティが。
私は彼の事をよく知らないが、初流乃はやけにブチャラティを信頼している。だから、私はブチャラティの判断を信じている。しかし…トリッシュ自身はどうだろう。トリッシュは、父親と話す事はできたのだろうか?それよりも前に気を失ってしまったのだとしたら…トリッシュの苦悩は、きっとまだ続くのだろう。
「お、俺…どうしよう…。ねぇ、ブチャラティ…どうすればいい?行った方がいいと思う…?」
なんだか泣きそうな、不安そうなナランチャの声にそちらに視線を向けると目が合ったので、務めて優しく、目を細めた。
「大丈夫よ、ナランチャ。着いてきたければ着いてくればいい。着いてこなかったからと言って、ブチャラティがあなたに幻滅したりする事はないの。本当に、どっちでもいいのよ。…多分ね。」
私ができるのは、せいぜい不安を軽くさせる事だけ。決めるのは、ナランチャだ。
いつの間にかアバッキオとミスタがボートに乗っていて、2人が私に注目しているのに気がついたが…特に気にする事はなく、隣にいる典明に視線を移した。
「今の君…とても素敵だった。今まで僕は、君を可憐な女の子だと思っていたんだが…最近は随分、大人な魅力が出てきてるね。」
「そう?典明にそう思ってもらえたなら、良かった。」
そんな事言ってくれるのは、典明だけだ。特に、可憐な女の子、なんて…私の事を知る人であれば余計に。
典明の、こういうところが好き。いつまでも私を女の子として扱ってくれる、そういうところが。
「ボスにはきっと、バレてるわよね。私の事。」
このたった数日の間に、私は何度も彼らに手を貸した。さっきだって、教会内に足を踏み入れブチャラティ達を逃がすのに手を貸した。私が誰なのかはバレていないのかもしれないが、ブチャラティのチームメンバーではない謎のスタンド使いがブチャラティ達に手を貸していると、バレていると考えていいだろう。
「典明…、私としては、パッショーネに関わるつもりは全くなくて…。」
心の中の葛藤を典明に理解をしてもらおうと、静かに口を開く。典明は優しい顔で、私を見つめている。
「…うん。」
「でもね、パッショーネのボスがトリッシュを殺そうとしているのなら…私は守りたい。組織を裏切ったブチャラティにつく、初流乃の事も。」
「…そうだね。」
「トリッシュを守るなら…きっと、ボスの事は殺さなきゃいけないよね…?」
チラリと少し前に目を覚ましたトリッシュの様子を伺うと視線を逸らし、下を向いてしまった。血の繋がった父に殺されるところだったのだ。とても孤独で、辛いだろう。
「トリッシュ…あなたの事は、私が守るよ。この先も、ずっと。あなたが何不自由なく、自由に暮らしていけるように。」
「…トリッシュ。なまえさんの言ってる事は、気休めなんかじゃあない。この人は本当に、心からそう思っているんだ。そして、それをやってのける力と、経済力がある。…ですよね、なまえさん。」
…驚いた。まさか初流乃が、この話題で口を開くとは思っていなかった。
なんて嬉しい言葉だろう。初流乃は私からの愛を、信じている。疑ってもいない。本当に、なんていい子なのだろうか。
「なまえ。君が初流乃にしてあげた事は、正しかったみたいだね。…僕も嬉しいよ。」
スリ、と手の甲で頬を撫でられて、自分が泣いている事に気がついた。典明の瞳にもうっすらと涙が溜まっていて、キラキラしていて綺麗だ。思わず手を取ってぎゅっと握って「好き…!」と心の声を送ると「ふ…」と目が細められて、一筋の涙が溢れ落ちた。
「さっきも言ったけど、私はトリッシュをいつでも受け入れる。今すぐ答えを出す必要はないから、ゆっくり考えて自分で決めてね。私、ずっと待ってるから。」
「……ありがとう…。」
俄然、やる気が湧いてきた。
こうなったら久しぶりに、好きなだけ美味しいものでも食べたい。一度レストランに行くと言っていたし、そこで好きなだけ食べるぞ!と一人意気込んだ。典明がいて、初流乃が信じてくれて、トリッシュを守りたい。こうなった私はきっと、世界一強い。