藤と金木犀
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「承太郎⋯せっかく新しい制服なのに、改造したの?」
みょうじなまえ、中学3年生。
承太郎は一足先に高校へと上がり、典明となまえとは登下校が別々になった。
典明となまえはそれでも帰りは合流するつもりでいたのだが、承太郎と会う事はなく、やっと会えたのは承太郎が高校生になって初めての週末の事であった。
「あぁ⋯まぁな。」
「ふーん⋯。」
以前と比べて所謂不良のような見た目になった承太郎の姿を不思議そうな顔で眺める典明となまえ。
一応理由を聞くと「こうしていれば、うっとおしい奴らに話しかけられねぇんじゃねぇかと思って」と返ってきたのだが、典明は(それは、違うんじゃあないか?)と思いながらも、口にする事はできなかった。
「いいじゃん。私は好きだよ。」
「えっ。」
「ねぇ承太郎、ピアス開けたの?痛かった?」
「いや⋯そんなに⋯。」
軽率ななまえの承太郎に対する「好き」に反応したのは、もちろん典明である。
しかしなまえはそれよりも、承太郎のピアスに興味を持っていた。
承太郎の男らしさがありながらも綺麗に整った顔に、黒い石のついたピアスはよく似合っていた。
あるのとないのとでは、雰囲気が変わるものだな⋯と興味津々である。
「なまえ⋯君、もしかしてピアスの穴を開けたいのか?」
「開けようかな⋯。というか、典明も似合いそうね!ねぇ、典明も開けよ。」
じっと典明がピアスを着けているのを想像するかのように見つめてなまえが言うので、典明も悪い気はしなかった。
周りには優等生だと思われているが、別に優等生でいようと思っているわけではないし、なまえが似合うと言うのならそうなのだろうと、さっきまではなまえの体に傷がつく事を心配していたというのにすでになまえに似合うピアスはどんなデザインかと、想像すらしていた。
なまえの事となると頭が悪くなるのが、花京院典明という男である。
「典明はなんでも似合いそう。私に選ばせてね。」
思い立ったが吉日。即行動。
翌日には2人揃ってピアッサーとピアスを買いに街に繰り出していた。
アクセサリーショップで典明の耳朶に色々なピアスを当ててうんうん唸るなまえの顔は真剣そのもので、自分の事で真剣に悩んでいるなまえを抱きしめたくなったが、頬を撫でるだけに留めておいた。
「はっ⋯!!」
「っ、なまえ⋯!?」
不意になまえがピアスを手にしたまま息を飲み口元を抑えて眉を顰めて固まるので、典明は何か大変な事が起こったのかと、なまえの肩を掴み顔を覗き込んだ。
当の本人も目を見開いて動揺しており、典明は焦り始めたのだが⋯なまえの「典明に、似合いすぎる⋯!」という声を聞いて、聞き間違いかと思い一瞬頭を悩ませた。
「なまえごめん、いま、なんて?」
「典明に、似合いすぎる、って言ったの⋯!」
よくよく見るとなまえ頬を赤らめているし、手で隠された口元は緩みに緩みまくっており、何か問題が起こったわけではない事が伺えて、典明は内心ホッと胸を撫で下ろした。
しかしなまえが手にしているのは女性向けのデザインのピアスで、それも思っていたよりも大振りなもので、典明は反応に困った。
承太郎が着けていた物に似ているデザインを探しているものだと思っていたのだが、果たしてこのデザインのピアスが本当に自分に似合うのだろうかと不安に思った。
(でも⋯なまえが似合うと言うのなら⋯。)
ピアスを見て、緊張の面持ちで典明を見つめるなまえを見て典明は「君が僕に着けてほしいと言うのなら」と、好物のチェリーに似たピアスを手に取った。
「私達3年生だけど⋯内申に響くかな?」
「あぁ⋯どうだろうね?」
遅れて気づいた問題に、なまえはピアッサーを開封する手を止めた。
対する典明は、もうピアスの穴を開ける事は決定事項のため躊躇なくパッケージを開けている。
「例え内申に響くとしても、関係ないだろう。僕も君も問題を起こした事は1度もないし、成績だっていいしね。」
「まぁ、そっか⋯典明が言うなら、きっと大丈夫だね。」
典明の言葉通り、典明もなまえも自分達以外の生徒達と壁を作ってはいたが学校内で問題を起こした事はただの1度もない。
その上、入学してから学年でいつも1位と2位の成績を3年間維持し続けているし、今さらピアスの穴があったところで大した問題ではなかった。
「ねぇ典明。どうしてこの色にしたか、聞いてもいい?」
今の話をもう気にしていないかのように、なまえは気になっていた事を典明へと尋ねた。
ピアッサーに付いた、所謂ファーストピアスの事である。
なまえは紫色を選び、典明はオレンジ色を選んだ。
紫色はなまえの好きな色だったからそれを選んだのだが、紫色を好きな理由が理由なだけに、典明にも聞きたかったのだ。
なまえ問いを聞いた典明は「フ⋯」と目尻を細め、なまえはその典明の笑顔に顔を赤くさせたのだが、続いた典明のセリフに心臓を撃ち抜かれたのだった。
「そんなの、君の瞳の色に似てるからに決まってるだろ。⋯むしろ、君もそうだと思ってたんだが、違うのか?」
"違うのか?"と言ってはいるが、典明は確信しているかのように満面の笑みでなまえを煽った。
典明の顔を直視できないなまえは「わ、私も、典明と同じだよ⋯」と小さい声で答えながら両手で顔を隠した。
「かわいいなぁ⋯なまえは。ほら、ピアス、開けるんだろう?ちゃんと見てくれないと、僕もさすがに怖いぞ。」
「う⋯典明のかっこよさが、留まることを知らない⋯!ドキドキしすぎて、早死にしちゃう⋯。」
「⋯はは、それは困ったな⋯。僕は、君を見送るのは嫌だよ。」
「私だってやだよ⋯!でも⋯私が先に死んじゃったら、典明も死んじゃいそう⋯何となく。」
典明は、なまえが何気なく言った言葉に心臓をドキリとさせた。
典明自身、もしもなまえが先に死んでしまうような事があれば、それが故意にしろ他意にしろ、後を追うだろうなと考えていたからである。
それを言い当てられてしまい少し驚いたが「うん⋯だから、僕より先に死なないでくれ」と大事そうになまえを抱きしめた。
なまえは何の気なしに言ったのに真剣さを孕んだ瞳で典明が自身を抱きしめるので、少し戸惑いつつも「うん⋯。でもできれば典明も、おじいちゃんになるまで死なないでね」と落ち着いたトーンで返事をし抱きしめ返した。
何となく、真剣に返答をしなければならない気がして。
「じゃあ⋯お互いお願い事をしながら、開けようか。ピアス。」
「っわ!て、典明⋯!」
ふに、と耳朶を典明の柔らかい唇で挟まれたなまえは、ビクリと体を震わせて体を硬くした。
油断も隙もないとはこの事である。
「ははっ、君、猫みたいだな。」
「もう!典明は自分のかっこよさを全然分かってない!」
典明にはそんな事、どうでもよかった。
なまえの事がかわいくてかっこよくて、大好き。
典明にあるのは、たったこれだけなのだ。
「じゃあ、僕はもう願い事が決まっているから、先に君のを開けるよ。」
典明の願いは、"なまえが僕よりも長く生きられますように"。
それと、"ずっとずっと、なまえのそばにいられますように"だった。
「私も⋯もう決まったよ。」
対するなまえの願いは、"典明と一緒に、おじいちゃんおばあちゃんになれますように"と、"典明が、死ぬまで幸せでいられますように"だ。
タイプの違う2人だが、案外似たもの同士の2人であった。