藤と金木犀
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「ここが大学…大きいねぇ…。」
みょうじなまえ、高校3年生。秋。
高校3年生の秋は、この先の進路を決めるのに重要な時期である。もちろんこの時期に頑張り始めても、遅いのだが。しかしなまえも典明も教師達からの評価は良く、成績も学年1位、2位を1年の時からキープしていたため2人ともそんなに焦ってはいなかった。特に、なまえは。
「ここって学部がたくさんあるから、すっごく広いね。人もいっぱい…。4月からここに通うなんて、想像つかないね。」
入試の試験はこれからだというのに、なまえの中ではもう合格は決まっている事のようだ。典明との憧れのキャンパスライフに想いを馳せている。
「…君には、緊張感というものがないのか?」
「あった方がいい?」
「あった方がいいんじゃあないか?さすがに。」
「典明に至近距離で見つめられたら、緊張するかも。あ、できれば私の事大好き〜っていう顔でお願い。」
「それならいつもしてる。というか、そういう事じゃあないんだけどな。」
この少し肌寒い時期に大学構内にいるという事は、入試試験を受けにきたのだが…なまえはもちろん、典明も充分に緊張感がない。
「じゃあ、絶対に大丈夫なおまじないしてあげる。」
緊張した面持ちの高校生達が近くにいるのにも関わらず、なまえは典明に顔を近付けるので周囲の視線は自ずと2人へと集まった。普段一緒に過ごしているクラスメイトならば微笑ましく見守るところだが、生憎ここは大学の構内で、今は推薦入試の前という事で2人を知らない人しかいなかった。つまり、なんともはた迷惑な話である。
「ね、緊張解けたでしょう?」
「なまえ…、いくらなんでも今ここでそれをやるのは…、いや、でも落ち着きはしたかな。ありがとう。」
「良かった良かった。あ、教室分かれるみたい。私こっちだ。」
じゃあまたあとで、と廊下で別れる2人。各々が指定された教室に入り案内に従って、指定された席に着く。周囲にはなまえ達と同じように試験を受けに来た高校生ばかりだ。みな一様に緊張の面持ちで静かに席に着いておりあまりの空気感になまえも充てられる……かと思われたが、そんな事はなかった。どこまでもマイペースを突き通すのが、みょうじなまえなのだ。
ガタン、ゴトン、と電車に揺られながら、典明はなまえを見下ろし、考えた。
(こうしてなまえと、電車通学もいいなぁ)と。
つい先程まで大学入試の試験を受けていたというのに、こちらもかなりマイペースというか、肝が座っている。
「ん…、どうしたの?典明。そんなに熱の籠った目で見つめられたら、さすがに照れちゃうよ。」
「ふふ…、端っこに追い詰められた君が、かわいくて。」
「典明が端に追いやったんじゃない。…もしかして私、典明に捕まっちゃった?」
「ははっ、気づくのが遅かったね。…おっと。」
ドン、と二人の間で、鈍い音が鳴る。突然の電車の揺れにふたりの体が揺れ、なまえの顔と典明の胸がぶつかった音だった。
「ごめんなまえ…!大丈夫かい…!?」
俯いて鼻を抑えるなまえ。典明からはその表情は見えないが、まさか怪我でもしたのではないかとなまえの心配をしていたのだが当の本人から出てきたのは「典明の胸…硬いのに柔らかくて最高だね…」と些か危ない発言であった。
「怪我はしてないから、心配しないで。それよりも典明、また筋肉ついた?制服、キツそうだけど。」
「それよりも、じゃあない。なまえの顔に傷がついたらどうするんだ。ちゃんと僕に、よく見せてくれ。」
「大丈夫だってば。ほら、ね?いつものかわいいなまえちゃんでしょ?」
「……君……、…鼻が赤くなっても、かわいいんだな。」
「ふふ、そうでしょう?典明がかっこよすぎて、毎日ドキドキしてるからね。」
「……そんなの…僕だってしてる。」
かわいすぎて困る、と、典明は眉を下げた。なまえからしてみれば典明のそんな表情すら綺麗で、かわいくて、かっこよくて。
「早く帰りたいな…。典明、今日は帰ったら自己採点するんだよね?早く終わらせて、イチャイチャしたいな。」
「……それは、僕だってそうしたいが…。明日は面接だろ?」
「大丈夫。いつも通りで問題ないよ。本当に。典明がそれでも心配だっていうなら、付き合うけど。」
「…はぁ…。君が大丈夫と言うなら、本当に大丈夫な気がしてきたよ。」
「大丈夫大丈夫。典明は本番に強いし、あとは自信を持てばいいだけ。視線をさ迷わせたりしないで視線を逸らさずに、余裕の笑みを浮かべれば絶対に大丈夫。女性だけじゃなく男性だってイチコロよ。」
「⋯他視点からの意見はありがたいが、君のそれは、少しズレている気がするな⋯。」
「他に、まだ心配事はある?私が綺麗さっぱり取ってあげるよ。」
満面の笑みで簡単にそう言ってのけるなまえに、典明は至極愛おしそうに彼女を見つめ、そして、ため息を吐いた。
「君がそう言ってくれるだけで、僕はいつも救われてる。ありがとう、なまえ。絶対一緒に、あの大学に通おうね。」
「うん。」
(本当に、君はいつも僕を掬いあげてくれる。なまえは僕の、救世主だな。)
典明の心からはもう、不安は綺麗さっぱり消え去っていた。なまえが典明を信じ、絶対大丈夫だと言ったから。なまえはなまえで本当に典明ならば心配ないと思っているので、慰めてあげようだとか気遣っていたりだとかお世辞で言っているわけではないのに、本当に心から、信じて疑わないのだ。2人の絆は、そんなふうに成り立っている。お互いがお互いから、離れられるわけがないのである。