5000打記念
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窓から差し込む朝日と、僅かな衣擦れの音で目を覚ます。朝日を受けて目覚めるというのはすごく久しぶりな気がする。どうやら昨日、カーテンを閉め忘れてしまったらしい。昨日は、久しぶりに酒を飲んだからな。…待てよ。朝日が差し込むのは分かる。僕がカーテンを閉め忘れたからだ。しかし、この衣擦れの音は一体なんだ。僕の家には、僕しか住んではいないはずである。
そこに思考が行き着いたところで一気に頭が覚醒し、パチリと目を開ける。
「!おまえ、は…!」
「あ…ごめんなさい、起こしちゃいました?」
予想外の人物、予想外の状況、そして情けなくも二日酔いで頭痛がして、ガバリと上半身を起こしたと同時に頭を抱えた。
なぜ、この女─みょうじなまえがここにいる。それも、下着姿で、だ。よくよく見てみたら僕も服を着ていないが、まさかとは思うが僕と彼女が……そんな、まさかな。
「すみません。こっそり出ていこうと思ったんですけど…。」
はっきり言って、僕は彼女が苦手だ。仗助達のように嫌いとまでは言わないが、いつも見かける度に奴らと一緒につるんでいるしニコニコと薄気味悪い笑顔を浮かべていて人間味がない。だから極力関わらないようにしていたというのに。一体なぜだ。昨日の夜、僕らの間に何があったんだ。
「すまないが、僕には昨日の記憶がない。単刀直入に聞くが、僕と君は、最後までしたのか?」
「しましたよ。…嘘をついても無駄なので…本当です。」
なんにも気にしてないですよ、とでも言うような声、表情で自分の服を探して、身につける彼女は、そう言いながら部屋の隅を指さした。その指し示す先にあるのはゴミ箱で、確かに丸まったティッシュがいくつか。これは…確かなようだ。
「昨日、ここの近くの居酒屋で偶然会ったの、覚えてます?カウンター席で。」
「…あぁ…朧気だが、覚えているような…。」
「そこで意外にも話が盛り上がって……、露伴先生、大丈夫です?ちょっとキッチン借りますね。」
服を着終えた彼女は僕を見てぎょっとした表情を浮かべたあと、小走りで寝室を出ていった。大丈夫です?って、大丈夫なわけがあるかよ。と心の中で悪態をつきながら、ふと気づいたら床に散らばっていた服が丁寧に布団の端の方に纏められているのに気がついた。あいつは意外と、気が利くのかもしれない。
「露伴先生、お水持ってきました。…あとですね、露伴先生が起きる前ならそのまま帰ったんですけど、歯ブラシの買い置きってあります?あと、洗顔もお借りしたいです。」
「お前……。…いや、いいよ。階段を降りて、左だ。行けば分かる。好きに漁って使えよ。」
「ありがとうございま〜す。」
こういうところだよ。僕が彼女を苦手と感じるのは。一般的な常識や気遣いは心得ている素振りをみせるのに、絶対的にマイペースというか…。自分が他人にどう思われようが構わない、と思っている節がある。典型的な来る者拒まず去るもの追わず、とでも言うべきか…とにかく彼女の態度からは、人間味を感じられない。まるで高性能のアンドロイドと話しているようだ。
とはいえやる事はやったという事は彼女はれっきとした人間なわけで……酒に酔った僕が、一体彼女とどんな会話をしてそうなったのか、皆目見当もつかない。
「え…、露伴先生、まだお水飲んでなかったんですか?」
一体どのくらいの間頭を抱えて蹲っていたのか、歯を磨き洗顔をしたであろう彼女が戻ってきて目を丸くした。こうして見ると案外表情が変わるようだが…ダメだ、頭が痛い。
「…いま飲むよ。飲むから、昨日何があったのか、教えてくれ。」
「いいですけど…本当に、ただお話しただけですよ?」
そんなわけがあるか、と視線だけで訴えて、水を飲む。喉に染みていく感覚が気持ちいい。
「えぇと…、最初は私が、キャンプに行きたいっていう話をして…大人数でワイワイするんじゃなく、少人数で、なんなら1人で行きたいなーって。そしたら、露伴先生が食いついてきたんですよ。」
「…意外だな。…と、昨日の僕も言ってたか?」
「あはは!言ってましたよ。ちなみに昨日も言いましたけど、仗助達に言うとそういうバーベキューだー!っていう雰囲気になりそうなので、言ってないんです。それに行くなら露伴先生と行きたいなって。」
「…はぁ?」
そこでなんで僕?まさか彼女は、僕の事を友達だとでも思ってるのか?僕は彼女が、苦手なのだが。
「露伴先生って、地味な作業も苦もなくできるタイプでしょう?むしろたまには自然の中で、静かに過ごすのも好きそうだなって。それに、静かですし。」
「…まぁ、そうだな。」
「じゃなきゃわざわざ杜王町に帰ってきませんもんね。」
あはは、と笑う彼女の顔は、心做しかいくらか人間味があるように見えてきた。僕はなにか、彼女に対して思い違いをしていたのかもしれない。
「…今まで僕は、君を誤解していたかもしれない。面白味のない人間だと。」
どう考えても失礼な一言。だが彼女はやはり何でもないように笑顔を浮かべて「それ、昨日も聞きましたよ」と。
「なーんか、最近なまえ、露伴と仲良くねぇ?」
「うん。友達だよ。この前は2人でキャンプ行ってきた。」
「はぁ!!?ふ、2人で…!!?」
「女性1人だと、危ないからって言って…、あ、露伴先生。」
あれから何やかんやなまえとは友人になり、たまに旅行に行ったりするようにまでなった。街で見かければお互い声を掛けるし、次の予定を決めるために連絡を取ったりしている。今だっていつものカフェのテラス席で仗助と食事をしていたのに僕に気づいて席を立って……仗助の恨みの籠った視線を受けるのは、非常に気分が良い。
「君ら、またここにいるのか。」
「他に行くとこないですもん。今日は特に、天気が良いですし。露伴先生はこれから何を?」
「あぁ、図書館に行って調べ物をな。君も来るか?」
「良いんですか?行きたいです。」
「はぁっ!?なまえ…!?」
残念だったな仗助。なまえはお前との時間よりも、僕との時間の方が魅力的らしい。
「じゃーな、気をつけて帰れよ。」
「ばいばい仗助。またねー。」
いつものなんて事ないような彼女の態度は、仗助にとって特大ダメージだったらしい。本当、煽りがいのある奴だな。
「……悪い顔。」
「そりゃどーも。」
近くのパーキングに停めた車の車内でするのは、恋人達のするようなキス。だというのにその前後はそういった雰囲気なんてものは皆無で、お互いがお互いのタイミングで、だ。
「調べ物が終わったら、今日は泊まって行くか?」
「そうですね。帰りにスーパーに寄って頂ければ、なにか作りますよ。」
好きや嫌いといった言葉は、未だどちらからも無い。僕はむしろ、今のままでいいと思っている。きっと彼女も、そう思っているはずだ。だってほら、やっぱり彼女は今も、なんでもないような顔をしている。