1万打記念
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「典明ー、ジャージ貸して。」
「なまえ。ジャージ忘れたのか?貸してもいいが、他のクラスの女子に借りた方が良いんじゃあないのか?」
「そうしたいのは山々なんだけどさ、ほら、私女の子の友達いないからさ。」
僕の幼馴染、みょうじなまえ。こいつはとにかく顔が良い。ゆえに(女子の考え方は全く理解できないが)何かとやっかまれる立場にあるらしい。
しかし彼女は自分の顔が良いのを正しく理解し「かわいいから、羨ましいのね」と全く気にしていないかのように振舞っている。いや、そう振舞っているだけで、本当は同性の友達を欲しがっているのを僕は知っている。
「ほら。僕は今日はもう使わないから、帰りに返してくれれば良いよ。」
「ん、ありがと。助かるよ。」
じゃあ帰りにね、と別れの言葉を交わして、口元を隠した。これで今日もなまえと一緒に帰る口実ができたと思ったら、思わず口元が緩んでしまったからだ。
それを見つけたのは、偶然だった。本当に、たまたま。
掃除の当番でゴミを捨てに行ったら捨ててある袋の中に見覚えのあるトートバッグの柄がゴミに混じっているのが見えて、それがまぁなんというか、なまえの体操着袋だったのだ。
「なまえはなんだって、こんな事をするような子と仲良くなりたいんだか…。」
もちろん全員が全員そうではない。いじめる人、傍観者、なまえが高嶺の花だからといって話をする事すら憚られると言う人。そんな人達ばかりで、なまえはずっと孤立している。本当に、友達に恵まれない奴。
…まぁ、その分僕が独占できるからいいんだけど。
「典明〜。典明も掃除当番だったの?…って、あれ?」
教室へ戻るとクラスメイトの姿はなく、代わりに隣のクラスであるなまえだけが教室で僕の帰りを待っていた。クラスメイトには「あとはゴミを捨てるだけだから」と先に帰るよう促したからで、なまえの方は…口ぶりから察するに僕と同様掃除当番で、逆に先に帰るように言われたようだった。当たり前のように僕の席に腰かけているのが、なんともかわいらしく思う。
「あぁ、これ。拾った。」
「そうなの?ありがと。あとこれも、貸してくれてありがとね。」
「どういたしまして。」
教室から見えた、僕のジャージを着て授業を受けるなまえ、かわいかったな。おまけに僕を見つけて手を振るところも、全部が愛おしい。
そんな幼馴染が今置かれている状況を思うと、胸の中に力になりたいと─守ってあげたいという思いがフツフツと湧き上がってくるのが分かった。
「…なまえ。君は…女の子の友達が欲しいのか?」
「!…うん…まぁ、憧れはあるよね。」
「…僕は、君の事をよく知っているし、君の事を絶対に裏切らない。」
「え、…うん。」
なまえの置かれている状況を目の当たりにして、どうしても言わずにはいられなかった。もしかしたら関係が崩れるかもしれないという懸念はあったが、それでも、僕は何があってもなまえの味方なのだと伝えたい。
「僕は、君が好きだ。守りたいと思っている。君の側にいるのは、他の女の子じゃあなく、僕じゃダメか?」
我ながら、なんて芝居がかっていてストレートな物言いなんだと思った。だけど思いつきで話し始めてしまって、他に言葉が浮かばなかったのだから仕方がない。
彼女の反応はというと、鳩が豆鉄砲を食らったみたいなキョトンという効果音でもつきそうな顔をしたあと、戸惑ったような表情で顔を伏せた。無理もない。今まで十何年も、僕とは幼馴染の友人として付き合ってきたのだから。
「…僕が君をずっと好きだったのは、意外か?」
「意外…、…そうね、意外かも。」
「それで、君の今の気持ちを聞きたいんだが。…迷惑か?」
「迷惑とかじゃなくて…、他でもない典明にそういう感情を向けられてると知って…現実味がないというか…。…典明は私と、一般的な恋人同士がするような事、できるの?」
「もちろん。そういう君は?」
「…んー…、それがねぇ、できる気がしてるんだよね。」
とりあえずは一旦、内心で胸を撫で下ろした。ここで無理だと言われてしまえば、こちらからはもう何も言える事はなくなってしまうから。しかしなまえは、物事を複雑に考えてしまう傾向にある。答えを急かすつもりはないが、このまま勢いでもいいから自分の物にしてしまいたいのも事実。
「なら、1回試してみるか?」
一歩踏み出してグッと距離を縮めるとなまえはようやく顔を上げ、視線が交わった。こんなに近くでなまえを見るのは、初めてかもしれない。元々顔が良いのは知っていたが至近距離で見ても粗がひとつもない。もはや芸術的と言ってもいいのではないだろうか。
「試すって、何を…?」
「君が僕とキス…できるのかどうかだ。恋人同士がするような事だろ?」
「え、っと…、それって、試すものなの?」
「さぁ…どうだろうな。僕も今、初めて言った。」
「……いい。試さなくていい。」
せっかく交わった視線は、あっけなくフイと逸らされた。もしかしたら呆れられてしまったかもしれないが、それでもなまえは、僕から離れる事はしないだろうという確信があった。だって、この子の事を一番知っているのは、僕だから。
「この際だから言っちゃうけど、私も典明の事、好きよ。もうずいぶん前から。」
「は…?」
「…誰かに告白されるたび、典明よりもいい人っていないんじゃないかって、ずっと思ってた。典明は私の事をよく理解してるし、尊重してくれるし、何より一緒にいて安心できて、楽しいし。ねぇ、典明もそうだよね?」
「……うん。」
僕がなまえの事を理解しているように、彼女も僕の事をよく分かっている。十何年も一緒に過ごした時間が、そうさせたのだ。
僕もなまえも、お互い以外ありえない。
「だから、試さなくていい。普通に、キスしよう。」
僕らは、お互いを知りすぎてしまったのかもしれない。知りすぎてしまったからこそ、今まで相手にこの気持ちが気付かれぬよう隠してきた。本当はもっと前から、お互いを想いあっていたのに。
「…ふふ、さすがに典明相手でもドキドキしちゃう。」
初めてのキス─それも相手がなまえという事もあり急激に緊張してきてチョンと触れるだけのキスになってしまった。だというのにそのあとにはにかんだ彼女の笑顔がかわいすぎて、とうとう心臓が大きな音を立て始めた。
「…君、本当にかわいいよな。」
「うん、知ってる。そういう典明は、かっこいいよね。」
「は?からかってるのか?」
「からかってないよ。今まで言うタイミングがなかっただけで、ずっと思ってたよ。典明だって、今まで私に"かわいい"なんて、言った事ないじゃない。」
結局、僕らは似たもの同士だったって事か。
幼馴染というものは、距離が近いゆえに見えないものもあるのだと思い知らされた。まぁとりあえず、ハッピーエンドって事でいいだろうか?
なまえを守るのは、明日からでも遅くはない。
「今のキス、納得いかないからもう一回やり直させてくれ。」
こういう事を言いやすいのは、幼馴染のいい所だな。
2/2ページ