1周年記念
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「花京院くんッ!!」
「っ、…なまえさん!!」
砂漠、なまえさん、水、敵スタンド、血。
なまえさんの声とほぼ同時にドン、という衝撃。直後に見えたのはそれだけで、それもスローモーションのようにゆっくりと感じられた。
敵スタンドの攻撃。血が出ている。血を流しているのは、誰だ。
視覚からの情報がゆっくりと脳へと運ばれる。そしてそれを理解できたのは、なまえさんがドサ、と音を立てて砂の上に倒れた頃だった。
「なまえ、さん…!君ッ…!」
抱き上げてみるとなまえさんの綺麗な顔は血だらけで砂まみれで、サァッと自分の血の気が引いていくのが分かった。怪我をしたのは、血を流していたのは、なまえさんだ。おそらく、僕を庇って…!
「花京院!!」
ポルナレフが僕を呼ぶ。ここは敵のテリトリーだ。どこから見ているのか分からないが、本体を探し出さなくては。
「なまえさん!」
「あ…、花京院くん…?ごめんね、今ちょっと見えなくて…、この辺、かな?」
アスワンの病院へ到着後、まっすぐ彼女の病室へと駆けつけた。病院内を走ったのなんか初めてで、ノックもしたかどうか怪しい。それでもそんなの気にしていられない程に心配で、一刻も早く彼女の無事を確かめたかった。
僕を手探りで探すように宙を彷徨う小さな手をそっと包み込むと温かくて柔らかくて、ようやくなまえさんが生きている事を実感し肩の力が抜けた。
「花京院くん…、意外と手、大きいね。」
「なまえさん、君…、そんな事言っている場合か!なんで僕の事を庇ったりなんかしたんだ!」
「……、ごめん…。まさか怒られるとは、思わなかったな…。」
「怒るに決まってるだろう!…あぁもう…!そうじゃない…、僕は、心配してるんだぞ!」
痛々しく巻かれた包帯で両目が隠されているというのに、あからさまにシュンと小さくなったなまえさんは、僕の言葉の意味を理解できていないのか考えるように首を傾ける。瞳が隠されていてもここまで表情の変化が分かるのは、彼女の才能だろうか。
「心配?包帯があるからものすごい怪我に見えるかもしれないけど、数日もすれば治るって先生は言ってたよ。」
「そうじゃあない!…君、女の子なんだぞ?僕を庇って、顔に怪我なんて…!」
「……あぁ…、えぇと…花京院くんは納得してくれないと思うけど、私、別に気にしてないよ。」
「あぁ、君がなんと言おうと、僕は許さないぞ。」
「………。」
沈黙。しかしこの沈黙は彼女が折れたわけではなくて、何を言えば分かってくれるだろうかと考えている間だ。この旅でだいぶ彼女の事は理解してきたのだ。案の定少しの間を置いて、彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。
「私ね、花京院くんが好きです。異性として。」
「え…?…なまえさん?急に、なんの話を…?」
脈絡のないなまえさんの告白に咄嗟に反応できなくて口篭る。彼女が、僕の事を好きだと、言ったか?
「勘違いだったら恥ずかしいし、忘れてほしいんだけど……。…花京院くんも私の事、好きなのかなって、思ってるんだけど、どうかな…?」
「!」
言い当てられて、ボッと火がついたように顔が熱くなる。まさか、見抜かれていたなんて。病室には今は目の見えないなまえさんしかいないのに意味もなく赤くなった顔を隠すのは、彼女の隠された瞳がじっと僕を見つめているような感覚に陥ったからだ。
「花京院くんは確かに綺麗な顔をしているけど、もしもこの傷を負ったのが花京院くんだったとして、傷跡が残ったとして、…私は、それでも花京院くんの事を変わらず好きでいるよ。」
「……僕は男で、君は女の子だ。」
「性別は関係ないよ。……じゃあ花京院くんは、私の顔に傷が残ったら、もう好きでいてくれないの?」
「そんなわけないだろう!」
「…ふふ、良かった。」
良かった?一体何が……と考えたところで、気づいた。僕は彼女に、間接的に好きだと伝えてしまったという事を。
「むしろ、花京院くんを庇ってできた傷だから、私は嬉しいけどな。…おっと、それはちょっと語弊があるな…。えーと、誇らしい、的な?」
「……君、たまに考え方が勇ましいよな。」
「あはは、そうかな?」
「…そういうところも、僕は好きだけど…。」
参ったな。僕の負けだ。そんな風に言われてしまっては、僕も認めざるを得ない。
僕のために負った傷。彼女を愛するように、この傷の事も愛せるように、僕もなれるだろうか。
「典明…大丈夫…?痛む?」
「……なまえ…、もしかして僕、魘されてた…?」
あれから5年。致命傷を負わされたと思われた僕の怪我は奇跡的に回復し、一命を取り留めた。代わりに数ヶ月も眠り続けてすっかり筋肉の落ちた僕を献身的に介護してくれたのはなまえで、彼女の両目にはあの時の傷がくっきりと残っている。
「…今日は、雨かもね。温かくしよう。」
「いや…行かないでくれ。君がいてくれた方が、楽なんだ。」
スリ、と彼女の傷跡を親指でなぞる。ザラザラした感触は痛々しいが、あの時自分が思っていたほど悪いものではないように見える。むしろ彼女が僕を想ってついた傷なのだと思うと、愛おしく感じる。あの時の彼女の言った通りだ。
しばらくそうしていると不意になまえが体を離して、直後ズシ、と腹部に重みと温もりを感じる。随分前に傷は塞がっているので、痛みはない。見るとなまえが頭を擡げているのと視線が交わってフッ、と笑った。その顔があまりに綺麗すぎたので、写真に撮って残しておきたいと思った。
「ゆっくり治そうね。生きてさえいれば、時間はいくらでもあるんだから。」
「…そうだな。」
もしかしたら、何かひとつでも違っていたら、僕は死んでいたかもしれない。言うなればこの腹の傷は、僕が生きている証だ。そして生きてさえいれば、こうして傍にいてくれる、彼女との思い出を作れる。
「…カメラでも始めようかな…。」
「いいね。色んなところに行こう。」
旅の時に通った国を、もう一度ゆっくり見て回ってもいいかもしれない。
なまえと2人なら、きっととても楽しい旅になる。
キレイとは傷跡がないことじゃない
傷さえ愛しいというキセキだ
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『ビンテージ』-Official髭男dism