5部 DIOの館
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突然開かれたドアに、一同は警戒しながら、扉の向こうを覗き見た。奥までよく見えないが、かなり広く見えるそれは…幻覚、だろうか。薄らと靄がかかっている。
全員で目を凝らして様子を伺っていると、奥の方で何かが動いた。いや、こちらに近づいてきている!
「なまえ。」
敵が接近してきている、と気がついたと同時に、典明は腕で私を後ろに下げた。下がっていろ、という事か。
何か言い返そうと口を開きかけたが、その時には既に、敵は目の前までやってきていた。
「ようこそ。ジョースター様。お待ちしておりました。」
そう言って頭を下げる男は、所作はとても綺麗だが目は酷く冷たい色をしており、何より胡散臭かった。鳥肌が立ってしまって、思わず目の前の典明の腕を握った。
この館の執事だというその男は、名をテレンス・T・ダービーと名乗った。先日承太郎が倒したダニエル・J・ダービーの弟だと言うが…先程から、長々と話をしながら、私をチラチラと見ている気がする。いや、見ている。現に典明が、自分の背中に隠そうと、前に身を乗り出しているのだ。
「暇じゃねえんだ。とっととDIOに会わせな。」
承太郎のスタープラチナが攻撃をしようと前に出ると「賭けよう。スタープラチナの私への第一撃は、まず左腕。」
と、予告をし始めた。しばし見合った後、スタープラチナが右パンチを出すが、あっさりと躱されてしまった。彼は賭けに負けてしまった、と言ってはいるが、ちっとも悔しそうではない。むしろ余裕の表情を浮かべて、こちらを煽っている。
「お詫びにとっておきの世界へ、お連れしましょう。」
奴のその言葉を合図に、突如床に穴があいた。承太郎がみるみる引っ張られていくのを、ハーミットパープルとハイエロファントで引っ張ろうとするが、そのまま引き込まれそうである。
チラ、とテレンスを見ると、嘘臭い笑顔で私を見ていた。コイツ…私を試している…。
「ポルナレフ、イギーをお願い。」
胸に抱いていたイギーをポルナレフへと引渡し、私も承太郎へと手を伸ばした。
「なまえ!下がって!」
典明が私に怒っているが、そんな事はどうでもいい。
とりあえず、承太郎を引き上げなければ、と手に力を込める。が、逆に穴から出てきたテレンスによって、私達は纏めて引き込まれてしまったのだ。クソ、間に合わなかった…!いや、最初から、これが狙いか。
「アブドゥル!10分経ってワシらからなんの合図もなければ、館に火を放て!いいな!」
暗闇でジョセフさんの声を聞きながら、私達は闇に飲み込まれていった。なんにしても、承太郎1人で穴に落ちなくて良かった、と私は考えていた。
気づいたら、海だった。幻覚なのだろうが。波の音とサンセット。不自然な浮島。そこに、私達は立っていた。
「なまえ!君はまた、無茶をして!」
私の肩を掴み、典明が珍しく声を荒らげた。
「典明だって、逆だったら同じ事するでしょ。人の事怒れないよ。」
あまりに怒るものだから思わずそう口にすると「そういう問題じゃあない!」とさらに怒られた。チラリと承太郎を見ると、彼も眉間に皺を寄せている。ジョセフさんも同じような表情で頭に手を当てている。解せないな…。
「ジジイ、花京院。なまえも。ひとつ謎を考えてくれ。」
空気を変えるように、承太郎が浮島の敵を見据えて話し出す。話を聞くに、奴のスタンドの謎を解いてほしい、ということだ。先程の、スタープラチナの行動の予告。そして、予告とは逆の行動を取ったのに躱された事を思い返す。この謎を解かない限り、この敵には勝てない、と承太郎は言い放った。確かに、これまでの奴の行動を考えると、明らかにパワー型ではない。こういったタイプの敵は、だいたい能力をきちんと見極めないと勝てないのだ。
幸い、こちらには典明と私がいる。私達は感覚で動くよりも、頭を使う方が得意なので冷静に見極められれば攻略法は見つかるだろう。まぁ、典明には敵わないが。
ジョセフさんがテレンスと話しているのを聞いているのを静かに見つめていると、やはり、時たま奴と目が合う。なんなのだ。なにか言いたいことがあるなら言えばいい。
「急いでいるので、4人掛かりで君を攻撃させてもらう。」
ジョセフさんの一言で、全員戦闘態勢に入るが、奴は未だ余裕綽々といった様子で「まぁそうお急ぎにならないで。」と傍らのラックに手をかけ、扉を開け放った。
「うっ…!」
中に見えたのは、無数の人形。それも、なんだか異様な雰囲気を醸し出している。ジョセフさんが言うには、人形には人の魂が入っている、という。
自分で作った人形に、人間の魂を宿らせた…そう、奴は補足した。それも楽しそうに。コイツは……やはり、DIOのそばにいる人間なだけある。私達には、到底理解できそうもない思想を持っている。そんな奴らの集まりだと、改めて理解した。
「紳士ぶっているが、最低な野郎だ。反吐が出る。」
珍しい典明の暴言に、心の中で同意した。あまりの嫌悪感に、もはや吐きそうである。
「もう話はいい!ムカつくだけだ!早いとこ貴様を叩きのめして、先へ進むだけだ!」
もう一度改めて、全員戦闘態勢を取るが、
「話は聞かなくてはならない。少なくとも承太郎、貴方は既に、私のペースに嵌っている。」
と言う奴の言葉に、みな一斉に承太郎を見る。
「承太郎!」
承太郎の右腕に、奴のスタンドの腕が…!掴んで引き離そうと手を伸ばすが、「触るんじゃあねえ!」と承太郎に一喝されてしまった。奴のスタンドがこちらのスタンドに触るだけでこうなってしまうのだ。これでは、迂闊に触れない!
「テレンス・T・ダービー!さっきから、私をずっと気にしているようだけど、DIOに、私を連れてこいと指示された?ついて行くから、これを外して!」
「「「なまえ!!」」」
こんなところで足止めなんて、時間の無駄なのだ。私が行く事で時間を短縮できるなら、安いものだ!
しかし、奴は笑顔を崩しはしなかった。
「確かに貴方を連れてくるように指示を受けましたが…正確には、全員戦闘不能にした後に、という指示でございます。申し訳ありません。」
そう言って恭しく胸に手を当て、奴は頭を下げた。
ゴンッ!
「グ…ッ!!いったぁぁあ!!!」
承太郎のゲンコツが、私の頭を、脳を揺らした。手加減なんてしていない、本気のゲンコツだった、絶対。
「なまえ!君、何考えてるんだ!!!」
肩を掴んでガクガクと揺さぶる典明は、ここ数日毎日見ていた優しい顔の面影なんて1ミリも感じないくらいに怒っていた。だって、それができたら一番早いじゃないか。
「ハァーー…。お主、時々バカになるのォ…。」
ジョセフさんはまたしても、頭を抱えている。バカとはなんだ、バカとは。
「急がなくて宜しいんですか?」
奴の言葉に全員、奴の方を見る。なんだか分からないが、魂を賭けてゲームをしようと言うのだ。魂を、賭けて…。ゲームに賭けるには、あまりに重い対価だ。
「最初に私と勝負するのは、花京院。貴方を希望します。」
「は?」
未だ痛む頭の事を忘れ、思わず立ち上がる。なぜ、典明を。
「貴方方の魂を奪った後、急に魂を賭けるのは嫌だと、スタンド攻撃に入られると厄介ですので。」
何を言っているんだコイツは。典明が、そんな事をする訳ないだろう!思わず胸倉を掴もうと一歩踏み出すと、またしても典明が腕で制止する。
「典明!」
「いいでしょう。最初は、僕が相手しましょう。」
典明は、自信たっぷりにそう宣言した。そこで私は、入院中に彼が話していた事を思い出した。
彼は、ゲームが好きだと言っていたのだ。それも、かなり。
友達がいなかったからゲームばかりしていた、という悲しいエピソードだったが、いつしかゲームをやり込むほどに好きになっていたと。
この典明の自信たっぷりな言い方。余程勝てる見込みがあるのだろうと、そう思うと、私は一気に冷静になった。
「ごめん…典明。」
熱くなりすぎたと、典明の腕をそっと掴むと「ふ…。」と優しく微笑んだ。いや、今のは、私が落ち着いたのを確認して、ホッとした…が正しいだろうか。
典明は敵に向き直り「ゲームはこの、F-MEGAで、対戦を希望したい。」とゲームのソフトを掲げた。
「魂を賭けよう。」