5部 DIOの館
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「おはよう、なまえ。」
瞼越しに朝日を感じて薄らと目を開けると、典明の声が聞こえて、視線を少し上げると彼の瞳と目が合った。
少し前に目を覚ましたであろう典明は、寝起きの髪もそのままだ。かわいい。
お互い服を身につけていないのは思い出していたが、私はゆるゆると典明に近づき、そのまま抱きしめた。
「おはよう……典明…。」
なんて、幸せな目覚めだろうか。まるで、この後死地に赴くなど、誰が想像できようか。私だって信じられない。このままここで典明と、ずっと一緒にいたい。思わず、そう心の中で願ってしまい、腕に力が篭った。
「ふ…、僕のプリンセスは、朝から熱烈だね。」
典明はそんな私の想いを知ってか知らずか、優しい言葉と共に頭にキスをするので私はさらに彼の胸に顔を埋めて擦り寄った。いい匂い。すべすべで気持ちいい。
「…あの…、そんな、かわいい事されると、困るというか…。いや、嬉しいんだけど…。」
戸惑ったような、困ったようなその言い方に、ふふ、と笑いが零れた。かわいくて、いとおしい。
「私、典明と出会えて良かった。」
何気なく口をついたその言葉に、自分の心臓がきゅ、と握られたように痛んだ。まるで、別れの挨拶のようで。
「…なまえ。」
彼の私に呼ぶ声に、体を離して彼を見上げると柔らかい笑顔を浮かべていて、私と数秒視線を絡めたのち、体を起こした。外気が肌に当たって少し寒い。
「なまえ。眼鏡をくれたお返しに、僕からもプレゼントがあるんだ。」
「えっ?」
思わず飛び起きて典明の横顔を見た。典明からのプレゼント?既にこの旅で、典明にはたくさん貰っているのに。
「なまえ…。左手を出して。」
典明の手の上に左手を乗せると、「ふ…。」と短く笑って目を細めた。あ、今の笑顔、綺麗だな…と見とれていたら手のひらを下に向かされたので、間違っていたのだと恥ずかしくなった。だって、何かくれるって言うから……。
ゆっくりと動く典明の指は、私の左手の指を滑って、やがて離れた。
「ッ!典明…これ、……ッ!」
私の左手の薬指には、薄い紫色の、パープルダイヤモンドの指輪。言葉が胸につかえて、手が震えてしまう。
「なまえ。言葉では言い表せないほど、どんな言葉でも足りないほどに、君の事が好きなんだ。僕の想いが伝わってくれると、嬉しいんだけど。」
とうとう、目からは涙が溢れてきた。そんなの、私だって……!
「私も…ッ同じ…!……同じだよ、典明……!」
典明、好き、大好き、愛してる。そう言葉を繰り返すが、やっぱり言葉では足りなかった。どちらともなく口付けをし、しばらく2人で抱き合っていた。気づいた時には朝の9時を回っていて、名残惜しいがお互い体を離した。そろそろ本当に、行かなければ。
「…行こう、なまえ。」
そう言った彼の瞳は、静かに、燃えているようだった。
「!イギー!!!」
承太郎達の居場所を探し歩いていると、子供に抱かれている傷だらけのイギーと遭遇した。
「ありがとう、僕。この子、私のワンちゃんなの。凄い上手なお医者さんの所に連れていくから、あとはもう大丈夫よ。」
本当にありがとう、と感謝を述べ、イギーを受け取った。彼は心配そうにイギーを見つめていたが、やがて「元気でね。」と一声かけ、帰って行った。
「イギー……がんばったね。」
息が上がり、痛みに耐えている小さい子に、心が痛む。前脚が…なくなっているじゃないか…。
「すぐSPW財団と合流しなきゃ。」
私は事前に聞いていた待機場所でも比較的近くの場所へ歩を進めた。あのイギーが、こんなにもやられるなんて…!やはり、これまでの敵なんて比じゃないのだと目の当たりにして思った。
すぐにSPW財団に合流し、車内で治療が始まった。私達には今、何もできない。
「なまえ、大丈夫。イギーはきっと、大丈夫だ。」
典明が肩に手を置いて大丈夫、と言ってくれるが、不安は消えなかった。イギーの怪我自体は、命には別状ないのは分かっている。しかし、今まで何度も覚悟を決めてきたが、その覚悟では足りなかったのだと、実感させられたからだ。
「応急処置はしました。義足の作成には、1週間ほど…あっ!」
処置後に医師の説明を聞いていると、イギーが私の膝に飛び乗ってきた。そのイギーの瞳は力強く燃えていて、早く承太郎達の所へ帰ろうとしているのだと、私はそう解釈した。
「分かった。行こう。すみません、義足はこの戦いが終わってからで大丈夫です。ありがとうございました!」
イギーを落とさないようにしっかりと腕に抱き、SPW財団へ頭を下げると、彼らもそれ以上、何も言おうとはしなかった。
「行こう、典明。」
そのまま私達は車を降り、イギーの鼻を頼りに走り出した。
「イギー。さっきなまえも言ってたけど…よくがんばったね。」
典明がイギーに向かってそう言うと、腕の中のイギーはチラリと典明を見てフン、と鼻を鳴らした。今、笑った、ような…犬なのに。
「あっ!イギー!」
しばらく走っていたら急に、イギーが腕から飛び出して走っていってしまった。イギーは怪我をしているとはいえ、さすがは犬。どんどん距離が離されて、角を曲がっていって見えなくなった。
「イギー!ッわ!」
「なまえ!」
イギーに追いつこうとスピードを上げていて、足がもつれたようだ。後ろを走る典明の声を聞きながら、このままだと転ぶな…と無意識に腕を前に伸ばすと、伸ばした手がなにかを掴んで止まった。
「えっ。」
手には確かに感触があるが、そこには何もない。空中だった場所。手を離してもう一度握ると、もうそこには何もない。
「なまえ…?今のは……。」
典明が不思議そうに聞いてくるが、私にも何が起こったのか分からない。典明と顔を見合わせる。が、……もしかして。
今、空間を掴んだ、のか……?
その仮説が頭の中に浮かんだ途端、イギーの事を思い出した。今は、私の能力よりイギーだ。
「イギー。探さなきゃ。」
私の言葉で典明も頭を切り替え、同時に走り出した。
あの子は怪我をしている。だから私が抱いていた。それなのにいきなり飛び出して行ったということは、近くに承太郎達がいるはずだ。
「承太郎!」
イギーではなく、承太郎の名を呼んで辺りを探し回っていると「なまえ、こっちだ。」と典明が声を上げる。見ると、ハイエロファントを伸ばしているようで、その手があったか、と頭が回っていない事に気がついて、少し落ち込んだ。なんにしても、この先に、承太郎がいるのだ。早く、合流しなくては!