4部 エジプトから入院・退院まで
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いよいよ、包帯が取れる。いよいよだ。
病室には私達の他に、SPW財団の医師達数名が集まっている。
「外しますよ、花京院さん。」
若干緊張感が走る病室に、静かに医師の言葉が響き、シュルシュルと包帯が外されていく。
やがて見えた瞼には、数日前にも見た2本の傷があって痛々しく、私は思わず一歩前へと進み出た。
そしてゆっくりと開かれた瞼。伏せられた瞳が徐々に見えてくる。あの、藤色の瞳だ。室内の眩しさに一瞬目を細めるが、もう一度開かれる。
「…典明。」
私が一声発すると、瞬きの間に典明はこちらに視線を向け、「なまえ。」と優しい笑顔で私を呼んだ。
視線が、交わっている。彼は、ちゃんと目が、見えている!
「典明…!…よかった…ッ、よかったぁ…!」
人目もはばからず、私は典明に抱きつき涙を流して喜んだ。嬉しい。彼の藤色の瞳がまた見られた事。その瞳で、また私を見つめてくれている事。そのどちらもが嬉しくて、涙を流して喜んだ。
「なまえ。検査をしなくちゃあいけないから、待っててくれるかい?ハイエロファントを置いていくから。」
ヨシヨシと頭を撫でながら、典明は宥めるように言う。もう少しこうしていたいが、検査はしなくちゃならない。後ろ髪を引かれる思いだが、素直に「うん…。」と体を離すと「いい子だね。」と額にキスを落とした。まさかこんな人前でそんな事をするなんて思わなかったから、驚いて涙が止まった。なんて慰め方だ。
しばらく放心していて、気づいたら病室には私とハイエロファントだけになっていて、ハイエロファントは優しく、私に絡みついていた。思い返せばこの入院生活、大半の時間はハイエロファントが絡みついていた気がして「いつもありがとうね。」と感謝を述べた。もちろん返事はないが、なんだか嬉しそうに見えたのは私の勘違いだろうか?
「お世話になりました。」
病院へきちんと感謝を述べ、無事に退院した。ここ、アスワンからは、SPW財団の方々と一緒に移動する事になっている。まずは車で移動だ。
「あの…例の物、いつ頃できますか?」
以前話した事のある財団員さんにコソッと話しかけると「あぁ、アレですね。カイロに着いたらお渡しできますよ。」との返答を頂いた。先に財団員さんが1人カイロに向かっているらしく、最後の調整を今、まさにやってくれているらしい。隣にいる典明は、私のニヤニヤ顔に不思議そうな顔をしているが、彼は私のデザインした眼鏡をかけてくれるだろうか?いや、かけてくれないと私が困る。今は黒いサングラスをかけているが、絶対、私が作った物の方が似合うのだ。それに、彼の瞳が見えないと私が寂しい。
「なんだか楽しそうだな。」
典明は、よく分からないけど楽しそうならいいか、と笑っている。が、距離が近すぎやしないだろうか?
後部座席のシートは大人3人、いや、4人は座れるスペースがあるが、典明はわざわざ、太腿が触れ合う位置に座っている。その事を指摘すると、
「しばらく君の顔が見られなかったんだ。近くで見たいだろう?」とかわいく言ってのけた。この男は…かわいいと言われたくない割に、いつもかわいい事を平然とやってのける…。
「…みんな、無事かな…。」
車内が静かになると、少し不安になってしまって、そんな言葉が口から零れた。隣の典明も「そうだね…。」と心配そうな表情を浮かべている。
「絶対、怪我はしてるよね。特にポルナレフなんかは!」
彼はいつも1人で行動し、血塗れで帰ってくるので、その姿は安易に想像できる。典明も同じようで、同意するように少し笑ってくれた。
「イギーも、心配だな。みんなと上手くやれてるかな。」
最近旅に加わったばかりのイギー。無理やり連れてこられたと言っていたから少し可哀想だが、実力は充分にある。みんなと協力できれば、きっととても心強いだろうが…。それが、一番難しいのではないだろうかと、心配しているのだ。
「きっと、大丈夫だ。」
典明のその言葉に、彼の方を見ると彼は着けているサングラスを下げ、藤色の瞳で私を見ていた。まただ。この瞳で、大丈夫、と言われると、本当に大丈夫な気がしてくるのだ。実際、いつも大丈夫だったのだ。
「うん…。そうだね。」
彼の瞳は、いつも私に勇気を、安心をくれる。もう、心の中にあった不安は全て消し飛んでいる。
私の顔を見て典明も安心したのか、サングラスをかけ直した。あ、もっと見ていたかったのに…。これは絶対に、カイロに着いたらすぐに、眼鏡を受け取らなければ!と心に誓ったのだった。