4部 エジプトから入院・退院まで
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朝、目が覚めると隣側のベッドの典明が見えた。
目が隠れているので、起きているのか分からない。
私はそっとベッドを抜け出し、典明の頬にキスをした。
「おはよう、なまえ。」
起きていた。穏やかな笑みを浮かべて、彼は私の方を見た。スルスルとハイエロファントが私を捕まえる。
「おはよう、典明。よく眠れた?」
「うん。君の夢を見たよ。かわいかったな。」
典明が体を起こしながらそう呟くので、心臓がキュンとした。私も典明の夢、見たい…!
典明は手探りで歯磨きセットを探し当て、既に器用に歯磨きを始めている。私も彼に倣って歯磨きを始め、私と彼のコップに水を張った。なんて穏やかな、日常の光景なんだろうか…。まるで同棲しているかのような光景に、思わず顔が緩んでしまう。
「なまえ、まだ?」
一足先に歯を磨き終えた典明は、今は濡れたタオルで顔を拭いている。まだ、とは?ご飯の事だろうか?
「おはようのキス、まだしてないだろう?」
トントン、と自身の口元を指差す典明は、挑発するような笑みを浮かべている。この男、朝からかっこいいんだから…!
「今終わるから、いい子にして待っててよ。」
負けじと挑発するような口調でそう言うが、内心ドキドキである。
「ダメだ。待てない。」
洗面台に水を吐き捨てていると、典明の声は真後ろから聞こえてきて、いつの間にか私の腹部に、ハイエロファントが巻きついている。気づいたと同時に典明の腕が腰に回った。かわいい。あの典明が、私に甘えている。
「悪い子だなぁ。」
そう言ってコップを置いて口を拭き、典明の方へと向き直った。
「ねぇ、もう終わっただろう?」
そう言って私の頬から顎へ滑る手は、自然と私の顔を上に向かせた。かわいい口調とは裏腹に、なんて大人っぽい仕草をするんだ…!
「ねぇなまえ、キスしてくれる?」
あまりにかっこよすぎて、頭がクラクラする。
これは、昨日私がからかった事への仕返し、だろうか。
「典明、おはよう。相変わらず…今日も素敵ね。」
そう言って口付けをすると、典明はグッと体重をかけてきて、思ってたよりも深い口付けになった。最後にペロ、と私の唇を舐めて体を離した典明は「…おはよう、なまえ。今日もとてもかわいいね。」と妖艶な笑みを浮かべていた。
……朝から、刺激が強すぎです。典明さん……!
朝食のあと典明が「ハイエロファントの修行をしようと思う。」と言いだした。ハイエロファントの触手を広範囲に張り巡らせて、結界のようなものを作りたいという事だ。
典明は椅子へ座り、ハイエロファントを病院内へ張り巡らせて集中し始めたので、私は邪魔をしないように読書を始める。読書といっても、病院内にあった医学書を借りただけなので内容は正直のところあまり分からない。
ただ、人体の構造や役割などが分かれば、戦闘に役立つのでは?と考えたからだ。それこそ、心臓を掴んで、握り潰したり、とか。我ながら発想が恐ろしいが、そろそろ、そういう覚悟も必要になると思っているのだ。人を、殺める覚悟を。承太郎達だけに全て任せるわけにはいかない。せっかく、この能力を持っているのだ。有効に使わない手はない、と、英語の文字を読むのに手間取りながらも、集中して目で追った。
何時間経っただろうか。パラ、と本のページを捲っていると、ふと、足に何かが触れる感触がして、見るとハイエロファントの触手が見える。視線を上げて典明を見た。
目は見えないはずだが、典明は穏やかな笑顔で、こちらを静かに見ていた。綺麗だな…こういうのを、儚い、というのだろうか。美しすぎて、なんだか涙が出てくる…。
「お昼ご飯、食べようか?」
この時間が、永遠に続けばいいのにと思った。私と、典明の、2人だけの穏やかな世界が、永遠にあり続けていて欲しい。それでも、いくら私が願っても、時間は進み続ける。そんな事は最初から分かっている。そして、私も彼も、そう遠くない未来、死地へと向かう。これも、確定した未来だ。そして、どちらか…恐らく、彼は、死んでしまうだろう。私が、彼を守れなければ、きっと。その結末が分かっていても、彼は行ってしまうのだ。DIOの元へ。私のために。彼自身のために。聖子さんのために。背負っているものは、1人1つじゃない。賭けられるものも、全員同じ重さではない。彼は自分と、私と、聖子さんと。3人のために、自分1人の命を懸けている。そんな覚悟の彼を、どうして止められるだろうか。無理だ。そんなの。私には。もちろん止められるなら止めたい。死んでほしくない。幸せにいつまでも笑っていてほしい。だが、これは、全部私のエゴである。わかっているのだ。でも、願うくらいは許してほしい。決して、口にはしないから。
暖かい日差しが降り注ぐ窓辺で、私はいつものように、典明の唇へキスを落とした。