4部 エジプトから入院・退院まで
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「なまえ。昨日まで使っていた部屋⋯かなり派手にやったね?」
病院内に巡らせている触手で確認したのだろう。朝食後に修行を始めた典明が、不意にそう口にする。
そういえば、いくつも穴を開けてしまったな⋯。純粋に力が強くなったのもあるが、波紋の呼吸の訓練をしているので、さらにパワーアップしたのかもしれない。
「私、あんなに力が出るなんて知らなかったな⋯。」
思わず、読んでいた本を閉じて自分の両手を見る。
前に鋼入りのダンを殴った時は手に怪我を負ってしまったのだが、あんなに何度もコンクリートを拳で砕いたのにも関わらず、ほぼ無傷だ。なんなら、波紋の力で、前にできた傷跡さえも薄まっているような気さえする。
「君、承太郎と隠れて特訓しただろう。」
突然、典明にそう言われてギクッと体を揺らした。
実は、鋼入りのダンを殴って手を怪我した後、手を痛めずに人を殴るにはどうしたら良いのかと、承太郎にコツを聞きに行った事がある。その時居合わせていた典明に「何考えてるんだ!君はそんな事しなくていい!!」と、しこたま怒られたのだが⋯。その後典明がいない時間に、承太郎に特訓に付き合ってもらっていたのだ。それが、今回の件でバレてしまったらしい。
「えと、ごめん。強くなったら、みんなの力になれると思って⋯。」
素直にそう謝ると、意外にも「いや、怒っている訳じゃあないんだ。」と気にしていないように彼は言う。
「ただ、素直に尊敬しているんだ。君は、いつも僕の予想を超えてくるから。」
尊敬、なんて⋯されるような事をした覚えがない。私が典明を尊敬する事はあっても、私が典明に尊敬されるような事⋯⋯あるだろうか?
「波紋の呼吸の修行の時も、DIOの夢の時も、辛いと分かっていても立ち向かい、自分よりも強い相手に強気に出る。僕は本当に、とても心配だったんだ。それなのに⋯⋯君はいつも、僕の心配とは裏腹に、毎回打ち勝っていく。それはとても、すごい事だ。僕が、君を尊敬しているのは、そういうところだよ。」
言い終わってこちらを見た典明は、とても綺麗な笑顔を浮かべている。まただ。なんて儚い笑顔⋯。心臓を、ぎゅっと掴まれたような、そういう感覚がする。
「ありがとう⋯典明⋯。」
私は、そう答えるのが精一杯だった。色々な感情が胸につかえて、言葉が出てこない。代わりに出てくるのは、涙だった。
「なまえ⋯?どうして泣いてるの⋯?」
泣いているのに気づいた典明が、ハイエロファント伝いに歩いてきて、私の目元にハンカチを当てた。それは彼の匂いがして、もっと涙が溢れてくる。
「分かんない⋯っ。分かんない、けど⋯⋯!⋯典明。好き⋯!好きだよ典明ッ⋯⋯!!」
典明の胸の中で、混乱する頭でも分かる感情を口にして泣いた。
「なまえ⋯。僕も、なまえが好きだよ。愛してる。」
嘘くさいセリフだが、典明が言うから信じられる"愛してる"という言葉。愛してる⋯私の中にある、好きという言葉では足りない、この感情は、愛してる、という感情なのかと、この時初めて実感した。
「私もッ⋯典明、好き。愛してる⋯!」
2人揃って、その言葉しか話せなくなったかのようにお互いの名前を呼び、好き、愛してる、と愛を確認しあった。時々、キスも交えて。
私の涙が落ち着いてきた頃には、もうとっくに昼食の時間は過ぎていた。
「⋯⋯ご飯、食べようか。」
典明の胸の中で、少々気まずいながらもそう声をかけると「もうそんな時間か。ふふ、君といると時間が過ぎるのが早いな。」と気にしていないように言ってくれて、心の中で感謝した。
体を離して、ナースコールで昼食をお願いしようと動くと、典明が少しよろめいた。ように見えた。
「典明⋯?」
声をかけると、なんともないように振舞っているが、腕を庇っているような⋯そんな気がした。
「典明、上脱いで。早く。」
何もなかったらそれでいい、と思いそう聞くと、典明は動きを止めた。これは、なにか隠している。そう確信し、典明のパジャマのボタンに指をかけた。
「うわっ、ちょ、なまえ⋯!」
典明の手は私の腕を離そうとするが、私の力の強さを忘れたわけはあるまいに。あっという間にボタンを全て外し、バッとシャツを脱がせた。
「君は本当に⋯⋯容赦ないな⋯。」
若干頬を染めて気まずそうにしている典明はさておき、二の腕の部分が赤く、アザになっているのを見つけた。これは、まさか⋯!
「典明!なんで言ってくれないの!!」
私だ。今、泣いていて掴んだ時に力加減を誤ったのだ!典明を守るどころか、怪我をさせてしまった⋯!
「ほ、ほ、骨とかは⋯!」
「いや、そこまでじゃあない。」と、典明は言うが、結構痛そうだ⋯。私は治癒の波紋を流しつつ、ナースコールを押して「典明が怪我しました!あ、いや。敵じゃなくて私が⋯!あと、昼食も⋯!」焦りつつも全て伝えたくて意味の分からない羅列になってしまったが、SPW財団の方は全て理解し、対応してくれた。さすがだ。
典明の腕は本人が言う通り、骨には異常はないらしく無理をしなければ自然に治るということで、そこまで聞いてようやく安心して、治癒の波紋を止めた。
典明も大概、私のためにと無茶をするので私だっていつも心配しているのだ。J・ガイルの時とか、サンの時とか!
財団の方にお礼を述べ、再び2人きりの部屋になる。
彼はパジャマを着て、ボタンを着けているところだ。
「典明。さっきは確かに、ありがたかったけど⋯ちゃんと言って。⋯ごめんね。」
感情が昂って力をコントロールできなくなるなんて、私もまだまだだな、と反省した。同時に、典明に怪我をさせるなんて、もう二度としない、と固く心に誓った。
「いや、さっきは⋯なまえが泣いているから、なんとかしてあげたくて。自分の体の事なのに気が付かなかったんだ。本当だよ。」
そう言って申し訳なさそうに笑う典明に、もう怒る気力がなくなってしまった。⋯ずるい。
「⋯分かった。さ、ご飯食べよ。」
いつもこうだ。前に同じように怒った時も「考えるより先に体が動いてしまった。」とか言って、自分よりも私を優先したのだ。この男にとってそれは当たり前で、自然な事なのだ。きっと。
そして、そう言えば私が何も言えなくなると、分かっていてそういう言い方をするのだ。本当に、残酷なほどに優しい人だ。