4部 エジプトから入院・退院まで
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「⋯⋯っ!!」
朝、温かさと若干の圧迫感で目が覚めて瞼を開けると、肌色が目の前に広がっていた。も、戻っている⋯⋯!敵が自身のスタンドの射程圏内から出たか、戦闘不能になったか。どちらかは知らないが、とにかく戻ったらしい。そっと顔を上げると、典明の顔があり、両目の瞼に傷跡が見えた。痛々しい傷跡だ。誤って開けてしまったり擦ったりしないように、包帯を巻かなければ⋯。上にある典明の腕を避けて、そっと体を起こしてベッドを出ようとすると、ハイエロファントの触手がそっと腕に巻きついてきて、思わず体がビクッと震えた。
「なまえ、さん⋯⋯?⋯!?えっと、これは⋯。」
「待って、包帯取れてるから。動かないで。」
典明は、自分が服を身につけていない事に気がついて混乱しているようだ。しかも、私と同じベッドで眠っていたのだ。何かあったのかと記憶を辿っているのだろう。ゆっくり上半身を起こすと考え込むように黙ってしまった。
「典明、待って。目は開けないで。今、SPW財団の人を呼んでくるから、先に服を着よう。後でしっかり説明するから。」
安心させるように背中に手を当てて話すと、典明はすぐに冷静さを取り戻したようで「分かった。」と素直に従ってくれ、私が手渡したパジャマを手に取った。頭の回転が早くて助かった。このままここにいても仕方ない。私はSPW財団の人に、典明が戻ったと知らせるため病室を出た。
「そ、そんな、事が⋯。」
傷の具合を診察してもらい、消毒、包帯の巻き直しをしてから昨日の出来事を話すと、典明は口元に手を当てた。
「敵が射程圏外に出たか、戦闘不能になったのかは分からないけど⋯⋯とにかく無事に戻ってくれてよかった。」
傷は、昨日子供になる前と特に変わりはないらしく、治りもしないが悪化もしなかったのでとりあえずは一安心だ。1日無駄になってしまったが、1日で済んでよかっただろう。
「ごめんね、なまえ。」
典明の謝罪の言葉に、私は首を傾げた。なにか、典明が謝るような事があっただろうか?
「どうして謝るの?私、怪我してないし、典明が敵に接近されてるのも気づかなかったし⋯謝るのなら私の方だよ。」
そもそも私が典明の指示を聞かずに無理に敵を追いかけたのが悪いのだ。典明がごめん、と言うのなら、私だって謝らなくてはいけない。
「私が、典明の指示を聞かなかったから⋯」
ごめん、と言おうと口を開くと典明は慌てて「あぁ、いや、そうだね。言葉を間違えたよ。ありがとう、なまえ。」と、私に謝罪をさせてはくれなかった。
本当に、私には甘い人だな⋯。
「はぁ⋯それにしても、典明くん、かわいかったなぁ⋯。」
椅子に座る典明の背中に腕を回し、独り言のように零すと、同じように回された典明の手が止まりその顔は不満げに眉を寄せていて、唇を尖らせている。かわいい。
「子供のままの方がよかった?」
典明のセリフに少し驚いた。かわいいと言った事で不機嫌になったと思ったのに、予想と違ったからだ。
「いや、こっちの典明の方がいいかも。子供の典明とは、キスできないし。」
おでことおでこをくっつけて言うと、典明は少し笑って「よかった。」と一言零し、キスをひとつ。
「それに、私典明の匂いが好きなんだぁ。」
肩口に顔を埋めてそう言うと「知ってる。」と言われた。
「君、たまに僕の匂いを嗅いでるよね。気づいてるよ。」
ふふ、と声を漏らして笑う典明に、私は顔が熱くなっていくのが分かった。さすがに、バレてると思わなかったから恥ずかしい⋯!
「ははっ、かわいいな、なまえ。」
「からかわないでよ⋯恥ずかしい⋯。」
声を出して笑う典明は楽しそうで、嬉しそうで、私は胸の辺りが温かくなるのを感じて、すぐに恥ずかしさなんてどうでもよくなってしまった。同時に、早く彼の瞳を見たい、と思った。私は、彼の綺麗な藤色の瞳が、一番、大好きなのだ。その瞳を見つめて、見つめられたい。彼の、吸い込まれそうな程綺麗に透き通る、藤色の瞳。私はいつも、出会った時から、その瞳に見つめられていた。それが今は見えないというのが、この上なく寂しく思えてしまった。
「はやく⋯傷が治るといいね⋯。」
思いのほか、弱々しい声になってしまった。典明も気づいているだろうが、何も言わず優しく微笑んでくれる。優しさで、私を癒そうとしてくれている。
「典明。キスしたい。こっち、向いて。」
上を向いた彼にそっと落としたキスは、次第に熱を帯びていき、最終的には子供の典明くんにはとてもじゃないができないキスへと変わっていった。