4部 エジプトから入院・退院まで
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「僕、1人でお風呂入れない⋯。」
夕食を済ませていざ入浴を、という所で問題が発生した。典明くんがしっかりしているから忘れていたが、まだ5才。幼稚園児なのだ。幼稚園児が1人でお風呂になんて、入れる訳がない。し、しかし⋯⋯この子は典明なのだ。⋯そうだ!SPW財団の人に入れてもらおう⋯!と提案をしたのだが、まさかの典明くんは「嫌だ。」と拒否した。
そ、そうだ⋯この子は典明。嫌な事は嫌だと言える人なのだ、典明は⋯!そこが彼の良い所なのだが、この時ばかりは恨めしかった。
仕方ない。これは不可抗力だ。私が強要した訳ではない。誤解するなよ典明!と心の中で典明に呼びかけてから、仕方なく典明くんとお風呂へと向かった。道中、彼の喜んでいる様子を見て、先程の葛藤なんて、もうどうでもよく思えてしまった。
あーかわいい。普段の典明だってかわいい瞬間がいくつもあるが、やっぱり子供のかわいさには叶わない。
典明くんのかわいさは、普段から典明をかわいいと感じている私からすると頭を抱えるレベルだ。キャパオーバーで、頭が、考えることをやめてしまう。
「なまえさん、頭痛いの?大丈夫?」
今私達は、病院の許可をもらって湯船に浸かっている。私の足の間に、典明くんが座って寄りかかっているのだが⋯ふ、不可抗力だ。
彼は顔を上に上げて私を見上げて心配してくれているようで、浴槽についた私の片腕をきゅ、と握った。
「か、かわいいッ⋯!!」
ついに口から漏れた"かわいい"という単語。その言葉を聞いて、典明くんは体を離し、こちらを見た。
その顔は怒っているような表情で、思わず口を抑えた。
「かわいい、って言われるのやだ!僕、かっこいいがいい!」
そう言って怒っている姿すらかわいい。かわいすぎる。けどダメだ。笑っちゃダメだ!
「そっか。典明くんはかっこよくなりたいか。」
そうだよね、男の子だもんね。というと、うん。と強く頷いた。典明のコレは、こんなに小さい時からだったのね⋯。
「大丈夫。絶対に、大きくなったらかっこよくなるよ。私が保証する。100%!」
事実なので声を大にして言うと「ほんと?」と顔を上げた。気休め言うな!って言われるかと思ったが、結構嬉しそうで安心した。素直でいい子だ。
「うん。典明くんは絶対にかっこよくなるよ。身長も伸びるし、」
尤も、さらに大きい男達に出会ってしまうのだが。
「筋肉もしっかりついてて力持ちで、」
尤も、さらにムキムキな男達+私に出会ってしまうのだが。
「きっと素敵な女の子と出会うかもね〜。」
と自分で自分の事を言ってみると典明くんはまさかの
「素敵な女の子?なまえさんみたいな?」
と純粋に、口説き文句を発した。この子、かわいい、純粋な笑顔で私に次々に爆弾を投下してくる⋯!!
私は再び、頭を抱える事となった。
「さ、寝ようね。」
2人で、ベッドへ横になる。5才な上にお母さんの姿が見えなくて不安だろうと、私から提案したのだ。
言った時の典明くんの安心した笑顔ときたらそれはもうかわいかった。天使。
「おやすみ典明くん。」
「うん。おやすみ、なまえさん。」
チュッ
⋯?頬にキスをされ、思わず思考が停止したが、おやすみのキスだ!と思い至って、私も典明くんの頬にキスを返した。
なるほど、これが日常だとすると、典明が日本人の割にやたらとキスをしてくるのが頷けた。そりゃ息をするようにキスするわ。
再度おやすみの挨拶を交わして、布団に入ったのを確認し、電気を消す。部屋の中は静かだ。
「なまえさん。ありがとう。」
暗闇で、典明くんがポツリと呟いた。
どうしたのだろうか?
「僕、友達がいなかったから⋯友達になってくれて嬉しい。とても。」
そう話す典明くんは、もう眠気がやってきているようでウトウトしている声だ。
「私こそ、ありがとう。友達になってくれて嬉しいよ。」
そう伝えると、スリ、と私の方に身を寄せてきたので優しく抱き締めた。温かい⋯。しばらく私の腕の中でウトウトしている典明くんの頭を撫でていると、やがて規則正しい寝息が聞こえてきた。
⋯典明は、いつ戻れるだろうか。そして、目の傷は⋯。この時間はとても幸せな時間で、今の急を要する状況でなければ、いつまでだってお世話できる。だが、私達は急いでいる。私は、腕の中で眠る典明くんを見る。
「かわいいなぁ⋯⋯。」
私の腕の中で眠るこの子は、とてもいい子でかわいらしいのに、これまで孤独に耐えていた。そして、それは高校生になるまで続いていたはずだ。例え今だけの、期間限定だとしても、この子の心の拠り所になれるのならば、いくらでも力を貸そうと、心に誓った。
この尊い存在を、これ以上孤独を感じさせはしないと、私は彼の額に、もう一度キスを落とした。
「ふふふ⋯」
彼は擽ったそうに笑って、私の胸に顔を埋めた。
私は彼を優しく抱きしめて、目を閉じた。普段の典明とは違う種類の優しい匂いがして安心するが、一方で、典明の匂いを思い出して少し寂しくなった。