4部 エジプトから入院・退院まで
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人がいないのをいい事に、外壁を登って5階まで戻り、先程飛び降りた窓から病院内へ戻った。
ここまでハイエロファントの触手は見ていない。
「典明!!!」
勢いそのままに、典明の病室のドアをブチ開けた。
「えっ?」
病室の中は異様な光景だった。
先程追いかけていた男と、典明⋯⋯によく似た⋯⋯子供!?典明は姿がない。が、子供は典明のパジャマを身につけている。
ドォン!
とにかく敵を、と、攻撃を繰り出すが、避けられてしまったらしい。拳は壁に当たって、穴が空いてしまった。
「ヒッヒィィィッ⋯⋯!!」
敵の男は避けるのが精一杯のようで、スタンドを出さず青い顔で尻餅をついている。構わず攻撃を続けるも、敵が全力で避け続けているためか当たらずに、壁や床が穴だらけになっていく。
「お前は⋯ッ!みょうじ なまえ⋯ッ!?花京院しかいねぇんじゃなかったのかよぉ⋯⋯!!」
そうか。敵は目の見えない典明だけが病院にいると思ってやってきたらしい。私が、残っていてよかった⋯。
「お前⋯⋯典明は⋯典明はどこだ!典明に何をした!?」
「ぼ、僕⋯⋯?」
バッ、と後ろを振り返る。典明によく似た子供。怯えた目でこちらを見ている。これは⋯まさか⋯。
改めて敵を振り返ると、私が注意を逸らした瞬間に走り出したようで、もう姿が見えない。
私が床に開けた穴から階下に降りたようで、覗いてみても姿は見えなかった。
「クソッ!」
窓から外を見ると、ちょうど病院から走り出していくところだった。今から外に出ても間に合わない。⋯本当に、逃げ足の速い奴だ⋯!
ハァ、とため息をついて、部屋を見渡す。壁や床が穴だらけだ。そして⋯
「君、花京院典明くん⋯で、合ってる?」
先程怖い思いをしただろうと、彼と同じ目線にしゃがみこみ、典明の笑顔を参考に笑いかけた。
「うん⋯⋯。⋯お姉さん、僕の事、知ってるの⋯?」
少し緊張した様子だったが、しっかりと質問に対する答えをくれた。いい子だし、やっぱり頭の回転が早い。この子は、花京院典明だ。
「うん。典明くんの親戚、と知り合いで。」
さすがに親戚関係の事は知らなかったので、知り合い、と付け足した。前に言っていた従姉妹の年齢くらいは聞いておけばよかったな⋯。そう考えていると、
「⋯僕の事、典明(テンメイ)って呼ぶんだね⋯。」と、彼は小さい声で発した。
⋯そうだった。テンメイ、と呼ぶのは家族だけだったと言っていた。不審がられただろうか⋯と心配したが、「ふふ、⋯嬉しいな⋯。」と天使のハニカミを向けられて、思いがけず心にクリーンヒットし、大ダメージを食らった。そのまま仰向けに、後ろに倒れ込んだ。
「わぁ!お、お姉さん、怪我してるの!?だ、だ、大丈夫!?」
天使、いや典明が慌てて駆け寄ってくるが、当たり前に体が小さい。パジャマも下は脱げてしまっているので上だけを羽織っているので破壊力が抜群だ。
「天使⋯⋯天使はここにいたのか⋯⋯。」
いつもの典明が聞いたら顔を顰めて怒りそうだが、かわいいの暴力がすごい。冷静になれないのだから許してほしい⋯。
あの後すぐに病院には丁寧に謝罪をし、SPW財団の人達にも事情を話した。壁や床の修理費のお話と、典明が、スタンド攻撃によって子供になってしまったと⋯。
修理費に関しては快く受け持ってくださるという事で、頭が上がらなかった。
しかし、典明の方は⋯⋯。傷の治療にどれだけの影響が出るのか分からないので、お手上げ状態だという事だ。無理もないだろう。私だってそうだ。
とりあえず5階の件の部屋は封鎖し、私達は部屋を変えてもらった。
そして今、子供になった典明くんと一緒に過ごしている。
「典明くん、今いくつだっけ?」
「5さい!」
小さい手をパッと広げて元気よく答える姿は、やはりかわいい。スタンド攻撃でこうなってしまったのだが、奴に少しだけ感謝してしまった。
「ちゃんと答えられて偉いね!」
褒めてあげるとニコッと笑って、嬉しそうだ。
思わずヨシヨシと頭を撫でて2人でニコニコと笑い合っていると、突然、ハイエロファントが姿を現した。嬉しくて出てきてしまったのか⋯。典明のサイズに合わせて、ハイエロファントも小さくなっているようだ。かわいい!
ヨシヨシとハイエロファントも撫でてやると典明くんはバッと顔を上げ、
「おっ、お姉さん、僕のトモダチが見えるの!!?」
と目をキラキラさせてぴょん、と飛び跳ねた。
あまりのかわいさに卒倒しそうになるのをなんとか堪えた。
「ふふ、そうなの!実はね、私もいるの。トモダチ。」
「そうなの!?見たい!」
とても嬉しそうな典明くんがかわいらしいが⋯⋯彼は以前、見えない人とは分かり合えない。だから子供の頃から友達はいなかった。というような事を言っていた。見える人と初めて出会えて、とても嬉しいのだろう。
私は隣にクイーンを出す。全身を出すのは久しぶりだ。
「わぁ!すごい!綺麗!」
そう言って目を輝かせる典明くんは⋯まだ5才だというのに、常に孤独を感じているのだと思うと、胸が痛んだ。同時に、高校生になって承太郎や、私と出会った事で彼の孤独はなくなったのだと、この時改めて実感し、同時に安心もした。
「ねぇ典明くん。私と友達になってくれない?私、典明くんと仲良くなりたいの。」
私がそう言うと典明くんは驚いた顔を見せ、ハイエロファント、クイーン、そして私へと視線を移動させた。そして、
「うんっ⋯ありがとうッ⋯⋯!」
と泣き出してしまった。ハンカチ⋯は典明の腕に巻いて汚れてしまったので、テーブルからティッシュを取り出し優しく目元を拭った。彼の藤色の瞳が、涙に濡れてキラキラと輝いていて、思わず見とれてしまいそうだ。
「私こそありがとう。とっても嬉しい!」
そう言うとさらに泣いてしまったので抱っこして背中をトントンした。ごめん典明。これは不可抗力。片手で抱き上げられて背中をトントンなんて、成長した典明が知ったら顰めっ面になる事間違いなしだ。それが安易に想像できて、少し笑ってしまった。
「⋯お姉さん、お名前おしえて⋯。」
典明くんが落ち着いた頃、そう聞かれて、私は自分が名乗っていないことに初めて気がついた。慌てて
「みょうじ なまえ、だよ。なまえって呼んで。」と言うと「なまえさん。」と笑顔で呼んでくれた。かつての呼び方で呼ばれて、あぁ、この子はやっぱり典明なんだな、と再確認できた。子供の時から、大きくなっても変わらないな、と安心し、愛おしい存在を、ぎゅっと抱き締めた。