4部 エジプトから入院・退院まで
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突然キスをしたものだからとても驚かれて、心配もされた。それでも何も言わず黙って全て受け入れてくれた。何も聞かずにいてくれて、やっぱり、私の考えている事なんて全てお見通しのようだ。
「ごめん。私の王子様があまりに綺麗すぎて思わず……感動で涙が出そうに…。」
と、真実を話したらふふ、と笑われた。冗談で言ってると思ったらしい。本当なのに。……半分は隠したけど…。
昼食後はまた、典明は椅子に座って修行を始めたので手持ち無沙汰になった。本を読むのに頭が疲れてしまったのだ。全て英語で書かれているそれは、読んで、頭の中で翻訳してから知識として取り込む、という普段よりも難解な読書になってしまうので、私には難しかった。典明なら、スラスラ読めてしまうのかもしれないが。
そうだ。と思い至って荷物を漁り、スケッチブックを出した。ちょうど動かない、素晴らしくいい男が目の前にいるのだ。この状況、描かないではいられないだろう。
もうひとつの椅子の上に画材を乗せ、いい角度を探して典明の周りをウロウロしていたら、パシ、と腕を掴まれた。まるで目が見えているかのように動いた腕に、思わず目を見開いた。
「ふ…。落ち着かないのか?君がかわいらしくパタパタ動き回ってる姿が想像できて、これじゃあ僕も集中できないな。」
邪魔してしまっただろうか?と少し申し訳なく思ったが、彼は優しい微笑みを浮かべている。怒ったり、疎ましくは思っていないようで少し安心した。
「邪魔しちゃったね。ごめん。」
椅子を置き一言詫びると、典明は腕を掴んだまま、無言でこちらを見上げてくる。普段は私が見上げているので、上から見下ろす典明はなんだかとてもかわいく思えた。一歩前へ踏み出すと、ゆっくりと典明の腕が絡みついた。そして相変わらずなにか言いたげにじっと見つめる典明。これは、もしかして。
ひとつの仮説が頭に浮かび、グッと顔を近づけ、唇と唇がチョン、と触れ合った。
「僕のお姫様は意地悪だな。」
典明が喋るたびに、何度か唇が触れ合って、少し擽ったい。
「ごめんね。キス、するんじゃなくって、して欲しいなって思って。」
「…その言い方はずるいな。」
かわいい、と一言囁いて、典明からキスをもらい幸せに溺れていると「けど、僕だってして欲しい。」と、かわいい言葉を貰ったのでキスを返した。かわいい。好き。典明も、同じくらいそう思ってて欲しいな。
そうして、しばらくの間口付けを交わしあっていたら典明は突如体を離し、「なまえ!敵だ!」と辺りを警戒した。
「病院内にいる!ハイエロファントが攻撃された。触手の1つだから大したダメージはないが…。1階ロビーだ。」
そう言う典明の腕からは、少量の血が出ている。
今1階のロビーにいるなら、5階のここへ来るには少し時間が掛かるだろう。適切な治療は後で医師に頼むとして、敵を倒すまでは、と簡単に手当てをしてハンカチを巻いた。この旅で一体何枚のハンカチを失っただろうか。何度か買い足しているのでもはや思い入れも何もないので別にいいのだが、また後で買い足さなくては。
「敵の外見は分からないが、恐らく男だろう。身長が高くガタイも良さそうだ。」
ハイエロファントでそこまで分かるなんて思っていなかったので、内心とても驚いた。なんて繊細な触手なのだ。私は足に未だ絡まっている触手に手を触れる。
「わかった。私が行く。なにかあればハイエロファント越しに伝えるから、典明もなにかあったら教えて。」
「………わかった。なまえ、くれぐれも気をつけて。」
1人で行かせることに抵抗があるのだろう。しかしついて行っても見えないのでは足を引っ張る、とも。
返答の間が気にはなるが、今はそんな事言ってる場合ではない。私は1人、部屋から飛び出した。
「今、敵はどこに?」「おかしいな…外に出て行ったようだ。」ハイエロファント越しに典明の話を聞くと、敵はなぜか外に出て行ったようで、慌てて廊下の窓から外を見ると、病院の玄関が見えた。そしてそこから走り去っていく男が1人。
「あいつだ!」
私は窓から身を乗り出し、5階の窓から飛び降りた。波紋の修行をしていて良かった。ドン!という轟音を響かせて着地したが、それほど痛みはなく、普通に走れそうだ。
「君、今窓から飛び降りたのか!?無茶をするな!」と典明に怒られたが、階段で降りていては逃げられてしまうだろう。これが一番早いはずだ。
「!待つんだ、なまえ。敵の逃げ足の方が速い。」
確かに、私は走るのが遅い方ではないはずだが、男とはどんどん距離が開いている。しかし、足を止めては逃げられると思い、足は止めなかった。
「それに、これ以上はハイエロファントの触手が伸ばせない。病院内に伸ばしている触手を戻せばまだ伸ばせるが、時間がかかる。一旦退いて…」
ブツッ、と、急に典明の声が聞こえなくなった。何事かと振り返ると、後ろの方でハイエロファントの触手がウヨウヨと動いている。長さの限界だったようで外れてしまったようだ。
ハッとして振り返ると、もう男の姿は見えない。
「ッ、しまった…!」逃げられた。
男がいた所まで走ってきたが、周囲にはもう、姿が見えない。完全に、逃げられてしまった。
なぜ攻撃してこないのか分からないが、ハイエロファントが怪我をした事を考えるとスタンド使いで間違いない。つまりは敵だ。
仕方ない、戻ろう…。と先程の道へ戻ると、ハイエロファントの触手が消えている。おかしい。典明の事だ。触手が外れてしまったら私を探そうと、先程のように、しばらくの間触手で辺りを捜索するはず。病院内の触手を戻してさらに伸ばせるようになっているはずなので、本来であればまだ触手は私を探しているはずなのだ。
「もしかして、典明になにか…!」
典明の身に何か...触手をこちらまで伸ばせない、もしくはハイエロファントを出せない状況に陥っているのでは⋯と最悪の状況が思い浮かび、私は一目散に病院まで走った。
典明を守るためにここに残ったのに⋯!早く⋯早く典明の元に行かなくては!