4部 エジプトから入院・退院まで
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「承太郎達、遅いな…。何かあったのかな…。」
もしかしたらスタンド使いと戦闘になっているかもしれない。しかし、ここは病院が近くにあるし、そんなに広い街ではないので騒ぎがあればここにいてもすぐに気がつくだろう。そう思い直し、私はカーテンを閉めて振り返った。
「暇だな。検査がなければやることがない。」
花京院くんは頬杖をついて空を見つめている。
「お話しようか。」
私は椅子に座り、彼の手を取った。
彼と話したいことは、未だに沢山あるのだ。
彼の笑顔を同意と捉え、私は話し始めた。
「ねぇ、花京院くん。」
「なまえさん。」
私が名前を呼んで話していると、突然、彼は私の言葉を遮った。優しい声だが、真剣さを含んでいる。
「なまえさん。そろそろ、名前で呼んで欲しいんだけど…。」
少し言いづらそうに、彼はそう言った。
そういえば、初めて彼と出会った時、そんな話をした気がする。仲良くなったら、"典明"と呼んで欲しいと。
「うん。典明。」
「あぁ、うん。そうなんだけど…。」
てっきり、名前で呼べば彼は喜んでくれると思っていたので驚いた。えっまさか名前を間違って覚えてるとか、ないよね?
「僕は花京院典明。なんだけど、その、なんていうかな…。」
こんなに言葉を選ぶ彼は初めて見る気がする。握った手をきゅ、と握り、ゆっくりでいいと伝える。
「ノリアキ、という読み方は、実は正式な読み方じゃないんだ。」
ん?どういう意味だろうか?名前がとても長くて、略されているとか、実は海外用の名前があるとか、そういうやつ…?
「いや、僕が産まれた時、親戚の集まりで名前を発表したんだけどね。その時に読み仮名を書いていなかったらしくて。」
そこまで聞いて、1つ、思い当たる読みがある。
「もしかして、テンメイ?」
「!……よく、分かったね…。」
エンヤ婆の廃墟に行った時、彼は宿帳に「Kakyoin Tenmei」と記入しているのを、隣で見ていたのだ。
その後も何度か。
「テンメイって珍しいし、花京院くんにすごく似合うかっこいい名前だなって思ってて覚えてたの。」
もちろん、ノリアキだって当たり前に似合ってるが。
「ふふ、ありがとう。……嬉しいな…。」
彼は静かに喜んでいる。目が隠されていても、彼の表情が分かって私も嬉しい。
「テンメイ。典明(テンメイ)。」
名前を呼ぶと頬に色がついていくのが分かる。かわいい人。
「…家族以外に呼ばれるのは初めてだから、ちょっと慣れないな。」
「えっ!?」
そんなに希少なの!?聞けば親戚はみんなノリアキと呼ぶし友達にも教えたことはないそうだ。
…何その特別感……!!
「これからはたくさん呼ぶね、典明。」
嬉しい。とても。いつの間にかそんなに特別な存在になれていたのかと驚くとともに、嬉しさが胸に広がる。…離れたくない。ずっと、一緒にいたい。
「なまえ。キスがしたい。」
突然、さん付けをやめて、挙句キスがしたいと。本当に、彼は私をいつもドキドキさせる。
「いいよ。典明。かわいい。好き。典明。」
「なまえ、好きだよ。なまえ。」
2人で名前を呼び合い、たくさん、キスを送りあった。この病院で、一体何回キスしただろうか?10回だろうか?20回だろうか?100回もしただろうか?
典明も私も、最近リミッターが外れてきている気がするが、お互い想いあっているのだ。その2人が静かな部屋で2人きり。我慢しろという方が無理な話だ。
少し遠くの方で爆発音のような音が聞こえて窓の外を見ると、承太郎達の姿が見えた。先程の爆発音は承太郎達とは関係ないようで安心した。
「承太郎達が来たよ。私も…行かなきゃ。」
本当は離れたくない。だが、ここにいてもしてやれる事は少ないだろう。たった数日離れるのが切なくて、思わず声が少し震えてしまった。
「!」
足を触られる感触に驚いて視線を下ろすと、足にハイエロファントが巻きついている。
「なまえ?どうかしたかい?」
典明を見るも、ハイエロファントを出そうとして出している訳じゃなくて驚いた。私はハイエロファントに手で触れてみた。
「えっ。僕、ハイエロファントを…。」
「出てるよ…。」
やはりそうだ。引っ込めようにも引っ込められないらしく、慌てている。
「ごめん、こんなの子供の時以来で…!」
子供の時…スタンドを制御できなかった時の事だろうか?普段今日にスタンドを使いこなしている彼が、スタンドを操れないなんて不安だろう。
私はハイエロファントを離し、彼の手を握った。
「典明。大丈夫、落ち着いて。」
いつも彼がやってくれるように、彼を落ち着かせようと優しく声をかける。
…スタンドは、自分自身。生命エネルギー。持ち主の、魂の意思で動くもの。
「ねぇ、今、私と離れるの、嫌だなぁって、思った?」
「…!……思わない訳、ないだろう?」
典明も私の言葉で何が言いたいのか分かったようで、きゅ、と握る手に力が込められた。
もう一度足を見る。ハイエロファントの触手は、まだ絡まっている。
ガラッ
2人とも無言でいると、ノックもなしにドアが開かれる。もう、みんな来たようだ。
「よォ花京院!」
ポルナレフの声を皮切りに、病院が一気に騒がしくなる。先にアブドゥルさんにも会ったようで、全員が集合した。
典明がみんなに状況の説明をし、いざ別れ…という雰囲気になったが……。
「おい、なまえ。テメーはここに残れ。」
視界の端でハイエロファントの触手を確認していたら、不意に承太郎がそんな事を言う。みんな驚いて私を見ている。
「な、なんで…。」
「こっちはテメーがいなくても大丈夫だ。なんとかなる。なんとかする。逆に、花京院の事が心配で足でまといになる可能性も、なくはないんじゃあねえか?」
否定はできない。言い返せない。
「だったら、花京院の身の回りの世話をしてやれ。第一、テメー……。」
承太郎がずんずんとこちらに歩いてきて、ハイエロファントを鷲掴みにした。
「うわっ!」「承太郎!」
痛くはないだろうが、もうちょっと優しく触れないものだろうか。突然触られて、典明が驚いている。
「"これ"でどうやって着いてこようっていうんだ?」
みんなに見えるようにハイエロファントの触手を掲げると、みんな驚き典明を見る。
「ご、ごめんみんな……ハイエロファントを、制御できなくて…なまえに巻きついて、離れないんだ……。」
顔を赤くして、手で隠している。そんな顔をされると、私も恥ずかしいのだが…!
「典明ッ…!」
「そういうこった。なまえ、ここに残れ。」
ハイエロファントを離し、承太郎が私の肩をトン、と指で押した。
ここに、残るしかない。4人だけで行かせるのは不安だが、典明を1人置いていくのも不安だ。それも確かだ。どちらにしろ、ハイエロファントが離してくれないのだ。私は覚悟を決めた。
「私、ここに残る。ありがとう、承太郎。」
承太郎は私の言葉を聞くとフッと笑い、私の頭を撫でた。照れ隠し、だろうか。
「ごめんね、みんな。必ず追いつくから。」
改めて、みんなに挨拶する。たった数日とはいえ、今日まで毎日一緒にいたのだ。少し寂しい。
「つーかいつの間になまえと花京院、名前で呼び合う仲になってるワケ?それにテンメイ?って?ここで2人で、ナニしてたワケ〜?」
そう言ってニヤニヤとゲスい顔で笑っているポルナレフに殺意を覚えたので、肩に一発、パンチをお見舞いしておいた。
「なまえ?すごい音がしたけど大丈夫?」
典明は何が起こったのか分からず視線を彷わせている。
「なんでもない。私、荷物取りに行きがてら見送ってくるね。」
典明にそう一言告げ、私達は病室をあとにした。