4部 エジプトから入院・退院まで
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「花京院くん、なにか欲しいものはない?私、飲み物を買ってくるけど。」
朝方、車はアスワンに到着し、いの一番に病院へと向かった私達は、花京院くんとアブドゥルさんを担ぎこみ、開院前に無理をいって診察してもらった。
アブドゥルさんはきちんと手当てをすればすぐに帰れるらしく、それももうすぐ終わるらしい。
一方の花京院くんは…瞼の傷が塞がるまで数日かかり、そこから目に支障があるかないかで対応が変わってくるという事で、入院は必須という事だ。治療をしても、目が見えるか見えないか、断言はできないと言われている。
そして、眼球の傷は私とジョセフさんの治癒の波紋で少し回復したらしく、多少の傷しか付いていないと診察した医師から言われた。瞼の傷の手当ても適切だったと、お褒めの言葉を頂いた。
「そうだな…行ってきますのキスと、ただいまのキスが欲しいかな。」
花京院くんは意外にも、穏やかに笑っている。
「りょーかい。行ってきます、花京院くん。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
ちゅ、とリップ音を残し、私は部屋を出た。
ここに来る前、近くにフルーツを売っているお店があったはずだ。花京院くんの好物であるチェリーがあればいいが。私は記憶を頼りに、お店へと歩を進めた。
「花京院くん、ただいま。」
記憶力が良くて良かった。無事に、花京院くんの大好きなチェリーを買うことができた。ルンルン気分で病室に入ると、花京院くんは眠ってしまっているようだ。元気にドアを開けて入ってきてしまったが、起きてはいないようだ。
ちゅ、と先程と同じように、かわいらしい音を出してキスをする。約束していたただいまのキスだったが、起きている時にして欲しいと怒るだろうかと考えて笑っていると彼は「なまえさん…今のは、ただいまのキス?それとも、おはようのキス…?」と掠れた声を発した。ビックリした…今のキスで起きたのか。
「ただいまのキス。おはようのキスは、今してあげる。」
なんだか無抵抗の彼が愛おしくて、何度もキスをする。ノックの音にも気づかない程に。
「昼食お持ちし……アラ。」
女性の看護師さんが、気まずそうにお辞儀をしてお盆を置き、去っていく。これは、お盆を返しにいく時、ちょっと気まずいかもしれない。
「見られちゃったね。」
そう言って笑う花京院くんは、なんだか楽しそうでかわいい。返しにいくのは私だし、別にいいか。病人に何してんだ!って怒られはするかもしれないが、それでも、やめる気はないのだから、私だけが怒られるのなら、それでいいや。
最後にもう一度キスをして「さ、お昼ご飯食べようか。」と昼食タイムを開始した。
「花京院くん、あーん。」
私のその言葉で、花京院くんは口を開ける。最初はしばらく渋っていたのだが、「知らない看護師さんにされるのと、おじさん先生にされるのと私、どれがいい?」と聞くと折れてくれた。目が見えないのは、思っているよりも何倍も、不自由なのだ。ましてや昨日までは普通に見えていた人が急に視力を奪われるなんて、何もできなくて当然なのだ。自分の力で食事なんて、無謀にも程がある。
「はい。あーん。ん、終わり。ちゃんと足りた?」
病院食は消化にいい物が出てくる。食べ終わったタイミングで足りなければ、次からは食事の量を増やしてもらわないといけない。
「うーん…。ちょっと足りない、かな。」
花京院くんはまだ17歳で食べ盛りなのだから、足りないのではないかと思っていたがその通りだった。
「分かった。伝えておくね。で、今の食事じゃ足りなかった花京院くんに、デザート買ってきちゃった〜!」
もちろん、買いに行く前に医師の許可は貰っている。お店の人に事情を話して、ヘタをとって洗ってもらうのもやってもらった。既に食べられる状態にして、花京院くんの手元へ置いた。
「もしかして、チェリー?ありがとう。」
「うん。私、食器下げてくるから食べてて。種はここの袋に。」
チェリーが入っている袋の隣に、違う素材の袋を置いて花京院くんに触れさせる。
レロレロと食べ始めたのを確認してから、私は廊下へと出た。
「あ、あなた。」
げ、さっきの看護師さん。
怒られるだろうかと身構えていたら、看護師さんはなんだかものすごい笑顔で「あなた達、とってもお似合いね!」とまさかの言葉を発した。「ありがとうございます…?」こういう時なんと答えていいか分からず、とりあえず感謝の言葉を言う。
「彼は男前で紳士的だし、あなたも美人だし気遣いができて。素敵だわ〜!」女の子はどこの国でも同じで、恋バナや女子トークが好きなのだと、この時初めて知った。
「それと、日本人って思っていたよりも情熱的なのね!」そう言い残し、私の手にあったお盆を回収して立ち去って行った。…この国の人は、言いたいことだけ言って去っていくスタイルなんだな…。と間違った知識をつけて、私は止まっていた足を動かして部屋へと戻った。
「早かったね。」
ドアを開けて中に入ると、当たり前だが花京院くんが出迎えてくれる。
「うん、途中で看護師さんに会って。」
詳細を話すのもなんだかな、と思い花京院くんを見る。
袋には種がいくつか入っているのを見るに、見えなくても食べられるようだと安心した。
相変わらず彼はレロレロと舌で転がしてから食べるという変わった食べ方でチェリーを楽しんでいる。
こうしてまじまじと見ると……。
包帯で目が隠されていて、見えている鼻はスっと鼻筋が通っていて美形だということが分かる形で、おまけに長い舌で赤いチェリーを転がしている。なんというかこの光景は……人に見せたくない程色気がある。
「…んッ…!?」
気づいた時には立ち上がって彼にキスをしていた。それも舌を使って。口の中にチェリーの味が広がった。花京院くんの口の中もチェリーの味がする。私はどうかしてしまったのか。こんな、突然花京院くんを襲うような事……。
口を離すと、花京院くんが顔を赤くして固まっているのが見える。
「き、君……大胆がすぎるんじゃあないか?」
そう言って手で顔を隠すさまがかわいくて、かわいすぎて、危うく気を失うかと思った。
「ご、ごめん……。花京院くんを見てたら、体が勝手に……。花京院くん、私以外の前で、その食べ方禁止ね。」
「えっ。」
食べ方の問題?僕のせい?と彼は不満そうだが、ダメなものはダメだ。特にここの看護師さんには見せたくない。絶対に。
「じゃあ、なまえさんの前でやったら、またさっきのキス、してくれるって事かい?」
「しませんっ!」
なんだか楽しそうな彼に、どっと疲れてため息がでた。
なぜ、こんなにも楽しそうなのか分からない。
楽しそうなのはいい事だが…なんだか、1人残していくのは不安だ。
もう1つ、不安のため息も、追加で出た。